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断罪エンドを回避したはずなのに今度は王妃になれと言われました

第五話 正しさと本当の気持ち※ その二

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「んぁ……そこ……ふか…ぃ……」
「……のが好きだよな?」

 細い腰をつかんで、後ろからぐっとつきあげれば、しなやかに白い背がそる。浮かんだ肩甲骨の美しさに誘われるように、ロシュフォールは口づけた。
 そして、さっきまでうなだれていた銀色のしっぽがぱたぱたと揺れている。それを根元からしごくようにもんでやれば「あ、あ、あ」と声があがる。

「ふわふわの尻尾…だな」
「馬鹿…ぁ……」

 幾度か腰を揺らせば、細い声をあげて達して、なかがキツく収縮するのに任せるままに、ロシュフォールもまた、その欲望を細い身体の奥深くに解き放つ。
 「はあ……」と息をはいて、一度ではやはりおさまらない自分に苦笑して、「もう一度な?」と確認して、一度抜きかけた、硬度を失わない自身を突き入れれば「や……」と声があがる。

「嫌か?」

 なんて拒絶されることはないことは分かっていて訊く。そしたら「ヤダ」と返ってくるのに、ん? とその黄金の瞳を見開く。
 白い身体をねじってこちらをレティシアが見る。白い頬は薔薇色に染まり蒼い瞳はうるんだ、閨のなかでしか見られない表情。

「後ろからじゃなく……今度はしっかりお顔を見たい…です……」
「ああもう、このっ!」

 さけんだのは怒っているからではない。反対に可愛すぎるからだ。
 いささか乱暴に表にひっくり返して、顔中どころか口づけられる範囲全部に雨のようにふらせながら、揺さぶってしまったのはいうまでもない。
 さらには一度で終わるはずもなく、二度、三度と。





「もう! あなたは加減を覚えてくださいと何度言ったら分かるんですか!」
 目覚めてしばらく腰が立たないレティシアが怒って、枕を投げつけたのは言うまでもない。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 翌日。今日は天気が良いからと後宮の中庭に卓を出して、朝食をとっていたロシュフォールとレティシアの元に侍従長が知らせをもたらした。

「王太后が逃げた?」
「はい、別宮はもぬけの空だと」

 「昨日の今日で逃げ足が速いな」とロシュフォールがつぶやく。レティシアが「まず朝食をしっかり食べましょう」と言う。

「それから王太后様が本当にお逃げになったかどうか確認してから、追跡を出すのは明日でもいいでしょう」
「捕まえる気はないということか?」

 昨日ならばともかく、ロシュフォールも一晩たって怒りもかなりおさまっている。「また離宮に幽閉されますか?」とレティシアに訊かれて肩をすくめる。

「正直、あの女にはもう関わり合いたくはないな。こっちに押しつけてきたボルボン国の気持ちがよくわかる」

 パオラの首を刎ねるのは簡単だ。しかし彼女には国内のみならず、他の王家や名家と様々な血が流れているから、あとでどんな言いがかりをつけられるかわからない。
 それにロシュフォールとしても認めたくはないが、あれは前王の正妃で王太后であり、彼の義理の母である。「母殺しをする気か!」とたわごとをあの女はわめいていたが、しかしロシュフォール王の名で王太后を処刑するというのはやはり風聞が悪い。

「十年前の反乱に失敗し、今度もこんな形で国を逃げ出した王太后様を、さすがにボルボン国も受け入れはしないでしょう」

 レティシアの言葉通り逃げたパオラはボルボン国から入国を拒否されて、結局海を渡った島国のブリアーズに亡命することとなる。
 王太后のことは放置で決まったが、しかしもう一つの問題がある。



 置き去りにされたマルタ王女だ。



 「ボルボン国に戻られますか?」とレティシアは訊いた。ロシュフォールとともに赴いた王妃の部屋にて、パオラ王太后が自分を置いて別宮より居なくなったという話に小さな王女は呆然としているようだった。

 そしてレティシアの問いに、彼女はどうしたらいいか分からない様子だ。それに「いいえ」と答えたのはアーリーだった。いつも影のように王女に寄り添っている彼には、珍しくはっきりとした主張だ。
 それも、いくら王女に一番近しいとはいえ、ただの使用人に過ぎないアーリーに、王女の帰国はどうこう口出しする権限はない。

 アーリーは思い詰めた表情で口を開いた。

「国に帰れば、今度こそマルタ様は殺されてしまいます」

 その言葉にマルタはひゅっと息を呑みうつむく。「なにか事情があるのか?」とロシュフォールが訊ねる。それにアーリーは真っ直ぐに二人を見る。

「マルタ様もわたくしも、覚悟をしてこのサランジェ国にやってまいりました。マルタ様が生きるためには、あの恐ろしい王太后様に従うしかないと。
 ですが陛下とレティシア様はマルタ様をあの王太后様からお救いして、ひとときの安らぎをお与えくださいました。
 マルタ様にはもう帰る国もなく、このうえは、また、お二人におすがりするしかありません」

 アーリーが「マルタ様」とうながすように声をかけてその顔をのぞき込むと、小さな王女はうなずいて自分の頭から黒いキツネの耳をなんとすっぽ抜いた。

 ロシュフォールも目を丸くしたがさすがのレティシアも軽く目を見開いた。

 尖ったキツネ耳が無くなったそこには丸い形の耳があった。この耳の形は。
 さらには「マルタ様、失礼します」とアーリーが、ふんわりスカートのドレスから出ている、狐の尻尾も引き抜く。するとそこから特徴的な尾が出た。

 丸い耳に先だけが房となった尾。これは獅子のものだ。

「マルタ姫……いや、マルタ殿下は黒獅子だったのか?」

 ロシュフォールが訊ねればマルタは「騙していてゴメンなさい」とその黒い瞳を潤ませた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 狐族のほとんどが雌のように、獅子族はほぼ雄である。この大陸の王と王族の男子はすべて獅子族でしめられている。
 そして、ボルボン国において正当なる王の血統というのは黒獅子である。マルタ姫もといマルタ殿下は色だけでいうなら、かなり王位に近い立場と言えた。

 しかし母親の身分が低く早世してるうえにさらには。

「……まさか、十年前に王太后がボルボン国から迎えようとしていた、赤ん坊の王がマルタ殿下だったとはな」

 再びレティシアが居を移した王妃の間にて、長椅子に疲れたようにどっかり座ったロシュフォールが言った。レティシアはその反対側の椅子に座ろうとしたが、伸びた腕に腰を抱き寄せられて彼の横に腰掛けた。

 マルタの秘密が分かったあのあと、アーリーより聞いた話は驚愕の連続だった。

 マルタが黒獅子だったことももちろんだが、それがパオラ王太后が十年前この国の国王にと担ごうとしていた赤ん坊だったこと。
 結局はパオラの反乱は失敗に終わり、彼女は幽閉。黒獅子の王子は宙ぶらりんの形でボルボン国に残された。

 そのお姿のままではお命が危ないと周囲の者達が一計を案じて、マルタはつけ耳とつけ尻尾で黒狐の姫として育てられたのだという。
 それでも知る人ぞ知る秘密であって成長したマルタの周囲がきな臭くなって来た頃に、パオラ王太后がボルボン国へとやってきて、マルタは姫といつわったままサランジェ王国へとやってきたと。

「王太后様としては、いずれはあなたを暗殺して、マルタ王子を玉座にすえるつもりだったのでしょうね」
「ずいぶんと都合のいい話だ。ボルボン国もそれを狙っていたのか?」
「半分……いえ、とても成功するとは思ってはいなかったでしょう」

 「あの王太后様のご性格ですからね」とレティシアが言えば、ロシュフォールも「ああ」とうなずく。
 王太后の逃亡を手伝った当初はボルボン国側としても、サランジェ王国の王にマルタをすえて、自国の勢力にくわえるつもりだったのだろう。

 が、あの王太后の刹那的な性格を見れば、姑息な悪だくみならばともかく、とても国家間の隠謀などに使えないと判断したのだろう。実際、十年前の反乱も彼女は失敗しているのだ。

「ボルボン国としては王太后様がこちらの国を引っかき回して混乱させてくれればよし、さらには微妙な立場であるマルタ殿下の処遇もこちらにさせるつもりだったのでしょうね」
「まったく、やっかいごとばかり押しつけてくれる」

 十年前、王太后の反乱が成功していたとしたらサランジェ王国の王になっていたかもしれない黒獅子の王子など、ことが発覚すればすぐに始末されるだろうとボルボン国も思っていただろう。

 だが、ロシュフォールはマルタ王子とアーリーの二人の保護を決めて、王太后が居なくなった別宮に彼らはいる。
 「あの二人をボルボン国に戻せと、よくお前は言いださなかったな?」とロシュフォールが訊ねる。意地悪く微笑した顔を、レティシアは彼に腰を抱かれたまま、冷ややかに見やる。

「私が反対しないと承知で、あの二人をこの国に置くことをお決めになったのでしょう?」

 王の“冷徹な”参謀ならばマルタを国に戻すのが正しいのだろう。彼をこの国においておけばなにかと火種の種になる。

「参謀殿は、本当はお優しいからな」
「では、ますます、あなたには厳しくしましょう」

 そう言ったレティシアの尻尾はぱたぱたと揺れていた。






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