1 / 9
「シンデレオ」
しおりを挟む男しかいない世界。当然アダムとアダムから、アダムしか生まれない世界。
そこにシンデレオという可愛い男の子がいました。自分を生んでくださった美しい父上は彼が幼い頃に亡くなり、もう一人の父上はママハーハという名の新しい伴侶を迎えました。
そして、そのママハーハには顔だけは綺麗だけど意地悪な双子の連れ子が。シンデレオはママハーハと双子の連れ子に影でいじめられていましたが、さらに父上がパンを喉に詰まらせて亡くなると、住んでいたお屋敷からも追い出されてしまいました。
ママハーハは高らかに笑いながらいいました。
「シンデレオを追いだした小屋の森には、雄鶏と雄牛と雄馬しかいないのよ。あの子は痩せ細って野垂れ死ぬだろうね」
しかし、ママハーハは肝心なことを忘れていたのです。この世界には“雄”しかいないことを(なんで忘れていた?)
父上が死んでから元々食事さえ与えられていなかった、シンデレオはひもじさに森の小屋でしくしく泣いていました。
そこにもぅ~という雄牛さんの声が。シンデレオが外に出れば、雄牛さんの見事な雄ぱいからは、滴るミルクが。なにも食べておらず喉も渇いていたシンデレオはごくりと喉を鳴らしました。
「飲んでいいの?」と聞けば、もぅ~という雄牛さんのお返事。その雄っぱいにシンデレオはむしゃぶりつきました。ごくごく飲んで元気いっぱい。さらにはコケコケと雄鶏さん二羽が、毎日かわるがわる交互に卵を産んでくれました。この雄鶏さんたちは普段はとっても仲が悪くてケンカばっかりなのですが、
なぜか毎日卵をかわりばんこに産んでくれるのです。ケンカップルという言葉とリバという言葉をシンデレオは学んで、あれがそうか~と思うのはシンデレオがもっと成長したあとの話です。
そして森の散歩には雄馬さんが必ずついて来てくれました。ある日の散歩で凶暴なクマに出くわしたとき。
雄馬さんはその強力な一蹴りで、凶暴クマを一撃で倒したのです。それを見てシンデレオは叫びました。
「雄馬さん、僕を弟子にしてください!」
そこからシンデレオと雄馬の修行がはじりました。シンデレオは雄馬と森を駆け、蹴りを学び、雄牛さんの乳と雄鶏さんの卵でぐんぐんとたくましく成長しました
数年後、白亜のお城のバルコニーにて王国の王子様はため息をひとつつきました。
「まったく、どいつもこいつもなよなよしていて、俺の好みじゃない」
王子様は文武両道。長身ですらりと、さらにほどよく筋肉がつき、みんなの憧れでしたが、きゃあきゃあと集まってくる着飾った物達には全然興味がわきません。
王子の好みは自分と同じぐらいに戦える、魂のバディでライバルで恋人だったのです。
どこかに自分の理想の伴侶(と書いてバディと読む)はいないかと、王子が一人森で馬を走らせていたときに、それに出会いました。
それは大きなクマでした。王子は剣を抜いて、クマにきりかかりましたが
そのクマは素早い一蹴りで、王子の剣をその腕からとばしました。ならば格闘だ! と王子はクマに掴み掛かりました、普段の王子もクマの首ぐらい素手でゴキリと折るぐらい鍛えているのです。
がっしりと手を組み合いギリギリと力比べとなり、「このクマ……デキる」と王子がつぶやいたとき
「あのぉ……私は人間です」との声がクマからしました。
よくみればそれは、クマの毛皮をかぶった漆黒の髪はぼうぼうに伸び放題、髭の伸び放題の男でした。
「お前人間か?」
「はい」
そもそも、両手を組み合った時点、いやいや裸足の足で剣を蹴り上げられた時点で気付くべきですが。
この王子頭が筋肉すぎて、ちょっとうっかりなところがあるのです。
しかし、その毛むくじゃらの人のきらめく星の様な瞳を見つめて、王子の心臓は跳ねました。
自分と対等に戦える。それにこのすんだ瞳はとても心が清らかな男に違いない。俺はこいつに惚れた。
恋に落ちた瞬間でした。
「あなたは?」とシンデレオは王子様に名を訊ねました。王子様はとっさに答えました。
「俺は魔法使いだ」
「魔法使いさん」
なぜそんな風に名乗ったか王子様にもわかりません。それは話の都合上……(以下略)。
「魔法使い」と名乗った王子は呼び寄せた侍従達にシンデレオの髪と髭を整えさせて、服も整えました。またお供の雄馬の背にも立派な鞍ものせました。
「この馬にまたがり、今夜、城で行われる舞踏会にお前は行くのだ。そこで幸福が待っているだろう」
「え?魔法使いさんがいれば私は別に……」
シンデレオもまた、王子を見て心臓がひとつ跳ねました。森に追放されて久しぶりにみた人。それも自分と同じぐらい力強くたくましいなんて……。
これは恋?
いやいや、シンデレオ。単に久々にみた人に恋しくなっているだけ……ごほごほ。
「城で俺も待っている」
王子はそう言い残して、颯爽と白馬で去っていきました。
そして、夜となった宮廷舞踏会。
ママハーハに引き連れられた顔だけは綺麗に成長したけど、その顔に性格の悪さが出ている双子は意気揚々と舞踏会に参加してました。
ママハーハも双子も自信満々でした。ママハーハが「どちらが選ばれるかしら?」と言えば「僕達両方だよ」「きゃあ、美しい僕達二人ともなんて王子様も幸せだね~」とはしゃいだ声をあげます。
王子様が目の前にきたときも、ママハーハへと双子は自信満々の顔でした。
しかし、王子はそんな三人など全く無視して、目の前を通り過ぎていきました。ママハーハが慌てて「お待ちください!」と声をあげて、双子が「美しい僕達がお目にはいらないのですか!」と王子様の前をふさぐように飛び出します。
「無礼者!」と衛兵達に三人はたちまち取り押さえられて、牢屋につれて行かれました。
そこに入れ違いに白亜のお城の前にたくましい黒馬で乗り付けた姿が。後ろになでつけられた漆黒の黒髪、輝く星のような黒い瞳。長身でたくましい体躯。シンデレオです。
マントをひるがえしすとんと降り立つ姿。
王子様と並び立つような美丈夫に「あれはどこの貴公子様?」とざわめくなか、王子様は自ら歩み寄るシンデレオの手を取り、大広間までの階段を二人は腕を組んでのぼりました。
「俺はこの国の王子だ」
「え?あなたは魔法使いではなくて王子様?」
シンデレオの手を取り踊り出す王子様。
二人の美丈夫の美しいダンスに、みんなうっとりと見とれました。そして同時に、これほど王子に似合いのお方には誰もかなわないと思うのでした。
王子様とダンスを踊ったシンデレオは彼に手を取られるままに広間から出て、そのまま王子様の寝室へと。
あれよあれよという間に、王子様から与えられた貴公子の服を脱がされて、12時の鐘が鳴っても、ベッドから出してもらえず、そのまま朝まで甘い声をあげ続けて、そのまま三日後には結婚式を挙げていました。
ママハーハーと双子ですが、不敬罪のうえに色々な罪が露見し鉱山送りとなりました。
クマを素手で一撃で倒す王様と王妃?様の元で王国はますます栄えたそうです。
さらには王妃様は七人ものたくましい王子を産み……。
白雪王子と七人のたくましい王子には……続かない……。
【完】
7
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
僕の過保護な旦那様
cyan
BL
マティアス・フックスは12歳の頃に3歳年上の優しそうなお兄さんラルフ・シュテルターと婚約した。
しかしラルフは2年後に戦争に行ってしまった。
それから手紙だけのやり取りを続けること5年、戦争は終わり彼は帰ってくることに。
優しい人だと思っていたが、そこに現れたのは鋭い目つきの男だった。
初夜だと思って待っていたらナイフを首に当てられたり、街に出かけるにもチェーンメイルを着て完全武装をして現れたり、戦場帰りのラルフ様に僕は振り回されることになった。
シリアス無し、コメディー要素多め。
R18シーンはタイトルに※つけています。
過保護な旦那様が帰ってきました。
一章で完結していましたが、家族として二章で新たなスタートをきります。
ラルフ様の過保護はエスカレートするのか、マティアスの気苦労はこれからも続くのか、お楽しみに(*^^*)
ギャルゲー主人公に狙われてます
白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
志麻友紀
BL
「私、男ですから」
女子として育てられ、王の十三番目の愛妾としての御披露目の席で、複数の男性と関係したあげく不義の子を身籠もったと糾弾されたレティシアは、自分が男だと真っ平らな胸を見せて、人々を驚かせた。
そこで突如、起こった公爵の反乱。二十歳なのに子供の姿のままの王のロシュフォールを守って、レティシアは奮闘空しく追い詰められたが、そのロシュフォールがいきなり大人の美丈夫になって公爵を倒し、危機は脱せられた。
男の姿に戻り、王の参謀となったのはいいけれど、ロシュフォールが「愛している」と求愛してきて?
※この世界の人間には獣の耳と尻尾がついてます。
※第二部から男性妊娠要素はいります。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される
志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。
帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。
だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。
なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。
そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。
かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。
【完結】イリヤくんの受難
七咲陸
BL
しがない子爵家の令息、イリヤ=リューンベリはある日学園で目が血走った女生徒に「私と付き合ってください!」と迫られ恐怖を感じた。
そんな怖くて逃げ出すことも出来なかったイリヤに、「助けてやるよ」とある男が救いの手を差し伸べた。
しかし、その男は何故かイリヤの唇を奪ったのだった。
□侯爵家令息×子爵家令息
□やまなしおちなしいみなしです。広い心で読んでください。
□作者のリハビリ目的で書き散らしています
□R-18は※で注意を促します。自己責任でお願いします。
□不定期更新の予定です
【完結】魔王(オレ)を殺した勇者の息子に生まれ変わったんだが……ヤツが毎日靴下をはかせてくる
志麻友紀
BL
勇者一行に倒されたと思ったら、その勇者の息子に生まれ変わっていました。
魔王が転生した先は勇者の暮らしていた現代日本。息子の靴下まではかせる超過保護なパパから、そろそろ自立しようと自分は魔王だと告げたら、勇者は言った。
「知ってる」
そのとたん二人は再び元の世界へと。どうやら自分の本当の父親らしい、王国の王は自分を殺せと叫び、勇者はといえばそんな魔王を守るためにかっての仲間に聖剣を振り下ろした。
元勇者と元魔王の手に手をとっての逃避行?がはじまる。
※勇者×魔王です。
※近親相姦ではありません。
※中盤胸くそ展開ありありですので、そっとご注意
※R18シーンは章タイトルの後ろに※入ります。
ムーンライトノベルズさんにも掲載してます。
【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました
志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」
そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。
その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。
罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。
無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。
そして、リシェリードは宣言する。
「この死刑執行は中止だ!」
その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。
白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる