328 / 329
タイコの湖
328.タイコの酒の秘密
しおりを挟む
「シェイドーーーーッ」
結界の力を失った祠は、フォリーの魔法を受けて一瞬で塵と化する。そして、まだ塵が舞っている中を突き破るようにして外へと飛び出す。
何とか水没してしまう前に外へと出ることが出来たが、その直後に俺達の背後に水柱が吹き上がる。石や岩を含んだ水柱は、残っていた祠を完全に破壊するだけでなく、周囲に撒き散らすように吹き飛ばしてしまう。もうここに、結界の張られた祠があったことの痕跡すら見付けることは出来ない。
「何とか、間に合ったな」
噴き上げる水柱は、次第に増す湖の水に飲み込まれると、徐々に高さを低くしてゆく。これだけの湖の広さならば、水位が回復するにはかなりの時間が必要だと思ったが、水源は豊富なのかもしれない。
『カショウ、あそこを見て!』
ムーアが指差す先には、大きく地面が陥没している。綺麗な円形だった池は、だるま型へと大きく形を変えている。
「派手に遣り過ぎたな」
地形が変わっているのは、ヒガバナの群生地だった場所でもあり、地下にはバズが捕らわれていた場所でもある。
『やったのは、私達ではないでしょ!』
タイコの湖の水は御神酒となり、イスイの街へと神の加護を与えている。それだけに、大きく生態系を変えたくなかった。しかし、バズの魔力が溶け込んでつくられた水が御神酒の秘密であるならば、もうタイコの湖の水には御神酒へと昇華する力はないかもしれない。だからといって、再びバズを人身御供とするつもりもない。
「ムーア、何とかする方法はないのか?」
『それは、ちょっと都合が良すぎるわよ』
俺達が神の加護を求めるつもりはないが、神の加護がなければ生きていけない者がいるのも確かである。ヒケンの森のオニ族は、神の加護で村を護られているからこそ、厳しい環境下でも生き抜くことが出来る。程度こそ違うが、イスイの街も何らかの神の加護を得ている。それは、まごうことなき事実である。
それを異世界から転移してきた俺が、意義を唱え一方的に破壊してしまうのは、身勝手でもあり独善的でもある。俺は今のアシスの、それも自分で見てきた限定された範囲しか知らないし、過去の歴史やこれまでの変遷なんて知りようもない。
「それは分かってる。神が加護を与えることで、少しでも神の力を奪うことが出来るんじゃないか?それならば、悪くはないだろ」
『まあ、タイコの酒なら微々たるものでしょうけど、考え方は悪くはないかしら』
神々の加護を得るには、神饌を捧げる必要がある。その中でも、最上級の神饌は酒になる。ただ、どんな酒でも御神酒へとはなり得ない。数多ある酒の中でも、厳選された一握りのものだけが御神酒となる。
酒には、特級、上級、中級、下級の4段階に区分され、一般のものが手に入れることが出来るのは中級品までとなる。領主クラスでさえも、たまに上級酒が手に入るほどで、特級酒に至っては全てが神饌としてのみ使われる。
「ヒケンの森じゃ、御神酒となる酒を飲んでたぞ。あの酒は大した酒じゃないのか?」
『何言ってるの!あれは特級酒の中でも別格よ。今のところ、あれに勝るような酒は見つからないわ』
「でもドワーフ達は、アホみたいに飲んでるんだろ?」
『命がけの味見よ。もし、特級酒の質が悪いことに気付かなければ、神々の怒りを買うでしょうね』
「酒を飲みたいドワーフに、味見させたいオニ族か」
『まあ、そういう事ね。でもタイコの酒は、上級酒でしかないわよ』
御神酒となるのは特級酒と上級酒のみだが、上級酒の中でも御神酒となるのは一部でしかない。理由は分からないが、それは神々との相性だとも言われている。
「最上位の精霊だけじゃなく、神々が関わったかもしれない酒なのに、それが上級酒なのか?」
『酒は水だけじゃないわよ。幾つもの要素が複雑に絡み合って出来るのだから、神々といっても簡単につくれるものじゃないわ。だから私みたいな精霊がいるのでしょ』
タイコの酒は御神酒となる最低基準になるが、それは神々が御神酒の量産に失敗しただけのようにも思える。ただ、そんなことだけにバズが利用されていたとなれば、再び神々に対しての怒りが込み上げてくる。
「お主、ダメだぞ。怒りの感情が増幅している」
『カショウ、怒る必要はないわ。お陰で、神々の酒を超えることが簡単になったのだから』
そう言うと、ムーアは湖の水を両手で掬う。
結界の力を失った祠は、フォリーの魔法を受けて一瞬で塵と化する。そして、まだ塵が舞っている中を突き破るようにして外へと飛び出す。
何とか水没してしまう前に外へと出ることが出来たが、その直後に俺達の背後に水柱が吹き上がる。石や岩を含んだ水柱は、残っていた祠を完全に破壊するだけでなく、周囲に撒き散らすように吹き飛ばしてしまう。もうここに、結界の張られた祠があったことの痕跡すら見付けることは出来ない。
「何とか、間に合ったな」
噴き上げる水柱は、次第に増す湖の水に飲み込まれると、徐々に高さを低くしてゆく。これだけの湖の広さならば、水位が回復するにはかなりの時間が必要だと思ったが、水源は豊富なのかもしれない。
『カショウ、あそこを見て!』
ムーアが指差す先には、大きく地面が陥没している。綺麗な円形だった池は、だるま型へと大きく形を変えている。
「派手に遣り過ぎたな」
地形が変わっているのは、ヒガバナの群生地だった場所でもあり、地下にはバズが捕らわれていた場所でもある。
『やったのは、私達ではないでしょ!』
タイコの湖の水は御神酒となり、イスイの街へと神の加護を与えている。それだけに、大きく生態系を変えたくなかった。しかし、バズの魔力が溶け込んでつくられた水が御神酒の秘密であるならば、もうタイコの湖の水には御神酒へと昇華する力はないかもしれない。だからといって、再びバズを人身御供とするつもりもない。
「ムーア、何とかする方法はないのか?」
『それは、ちょっと都合が良すぎるわよ』
俺達が神の加護を求めるつもりはないが、神の加護がなければ生きていけない者がいるのも確かである。ヒケンの森のオニ族は、神の加護で村を護られているからこそ、厳しい環境下でも生き抜くことが出来る。程度こそ違うが、イスイの街も何らかの神の加護を得ている。それは、まごうことなき事実である。
それを異世界から転移してきた俺が、意義を唱え一方的に破壊してしまうのは、身勝手でもあり独善的でもある。俺は今のアシスの、それも自分で見てきた限定された範囲しか知らないし、過去の歴史やこれまでの変遷なんて知りようもない。
「それは分かってる。神が加護を与えることで、少しでも神の力を奪うことが出来るんじゃないか?それならば、悪くはないだろ」
『まあ、タイコの酒なら微々たるものでしょうけど、考え方は悪くはないかしら』
神々の加護を得るには、神饌を捧げる必要がある。その中でも、最上級の神饌は酒になる。ただ、どんな酒でも御神酒へとはなり得ない。数多ある酒の中でも、厳選された一握りのものだけが御神酒となる。
酒には、特級、上級、中級、下級の4段階に区分され、一般のものが手に入れることが出来るのは中級品までとなる。領主クラスでさえも、たまに上級酒が手に入るほどで、特級酒に至っては全てが神饌としてのみ使われる。
「ヒケンの森じゃ、御神酒となる酒を飲んでたぞ。あの酒は大した酒じゃないのか?」
『何言ってるの!あれは特級酒の中でも別格よ。今のところ、あれに勝るような酒は見つからないわ』
「でもドワーフ達は、アホみたいに飲んでるんだろ?」
『命がけの味見よ。もし、特級酒の質が悪いことに気付かなければ、神々の怒りを買うでしょうね』
「酒を飲みたいドワーフに、味見させたいオニ族か」
『まあ、そういう事ね。でもタイコの酒は、上級酒でしかないわよ』
御神酒となるのは特級酒と上級酒のみだが、上級酒の中でも御神酒となるのは一部でしかない。理由は分からないが、それは神々との相性だとも言われている。
「最上位の精霊だけじゃなく、神々が関わったかもしれない酒なのに、それが上級酒なのか?」
『酒は水だけじゃないわよ。幾つもの要素が複雑に絡み合って出来るのだから、神々といっても簡単につくれるものじゃないわ。だから私みたいな精霊がいるのでしょ』
タイコの酒は御神酒となる最低基準になるが、それは神々が御神酒の量産に失敗しただけのようにも思える。ただ、そんなことだけにバズが利用されていたとなれば、再び神々に対しての怒りが込み上げてくる。
「お主、ダメだぞ。怒りの感情が増幅している」
『カショウ、怒る必要はないわ。お陰で、神々の酒を超えることが簡単になったのだから』
そう言うと、ムーアは湖の水を両手で掬う。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる