精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
319 / 329
タイコの湖

319.七色の光

しおりを挟む
 クオンがラミアの魔石を投げ込むと、ゴブリンやハーピーの魔石が一斉にラミアの魔石へと群がり、大きな塊が2つ出来上がる。
 群がった魔石は蠢くかのようにして動き周り、密集した虫の塊にしか見えず、とても無機質な魔石とは思えない。

「気味悪いな···」

『ええ、そうね。その魔石を動かしているのも、あの七色の魔石なのよね』

 その張本人である魔石からは七色の光が放たれている。それぞれの七色の光は決して混ざることなく、明確な意思を持った光のようにも感じられる。光ではあるが、日の光や魔法の光ともどこか違う、あやかしの光。

「出来れば近付きたくないし、触れたくもないかな」

『クオンだから出来るのよ。ましてや、直接触れるなんてね』

 クオンの手の平で輝く魔石の光は、次第に強さを増しリッター達の光をも凌駕してゆく。それに伴って、蠢いていた魔石はより密集した塊となる。

 ラミアの魔石の質を強くするのであれば、魔石自体は無くならないのだろう。それでも、どのような方法で強化されるのかを知らないだけに、ラミアの魔石が食いつくされてしまうのではないかとさえ感じられてしまう。

 クオンのことは信用しているが、クオンが大丈夫だという魔石のことは信用していない。

「ラミアの魔石は大丈夫だよな?ゴブリンやハーピーの魔石が、ラミアの魔石を喰らい尽くしている訳じゃないよな?」

「うん、大丈夫」

 ラミアの魔石のことを聞きながらも、クオンの体の事を気にかける。しかし、相変わらずクオンの発する言葉は短いし口数も少なく、異変があっても感じ取りにくい。

「クオンは、魔石を強化するところを見たことがあるのか?」

「知ってる」

 “ある”か“ない”かの答えでなく、“知っている”という答えに驚かされる。知識の精霊ガーラさえも未知であるが、魔石を強化するという知識が持っているのだろうか。

 さらに魔石の輝きが増して、直視出来ない程の光を放つ。その光は、感情や魔力といった色に染まることのないものでさえも、色付けしてしまうような不思議な感じがする。

 魔石を持った、クオンは笑みを浮かべている。魔石に魅せられたような笑みではない。心は穏やかで、本来の優しい笑みであるように見える。

「目を閉じて」

 笑みを浮かべたクオンに、何の疑いを感じることもなく黙って従うと、体の中を光が通過してゆくような感覚に襲われる。そして、強烈な光は体の境界すら分からなくしてしまう。
 この光を防ごうとは思わない。どんな手段をもってしても防ぐことは出来ない。そして、俺の全てを見透かされてしまった今となっては、もう敵うことはないだろう。

「終わった」

 クオンの声で、我に返る。ムーアもブロッサも何も変わっていない。七色の魔石の光を浴びたことすら理解していないのか、俺を見て不思議そうな顔をしている。

『どうしたの?魔石を見てぼうっとしたわよ』

「凄い光だったろ」

 ムーアもブッロサも、光の記憶がないといってイイ。感情の声も聞こえてこないし、俺の感情の声も七色の魔石のことだけが、ムーアには伝わっていない。
 魔石の放った光のことを知っているのは、俺とクオンだけしかいない。ただ、俺とクオンも七色の魔石がもっとも輝いた姿を見てはいない。

「クオン、だから知っているなのか?」

 それにクオンは、黙って頷く。

『カショウ、何寝ぼけたこと言ってるのよ!それよりも、あれを見てみなさい』

 魔石の塊は、元の半分以下まで凝縮されている。それでもゴルゴンの顔よりも大きくい。このままではゴルゴンの瞳としては使えそうもない。

「この魔石から、ゴルゴンの瞳を切り出すのか?」

「それだと、魔石の質が落ちてしまウワ」

 そして、魔石の塊がキラキラと輝きだす。七色の魔石が放った光ではなく、魔石が消滅するときに起こる現象でしかない。
 唯一魔石を強化する方法を知っているクオンは、キラキラと消滅してゆく魔石を黙って見つめている。確実に魔石の消滅は進み、徐々に大きさも小さくなってゆく。

「失敗したのか?」

「焦るな、お主も魔力を感じてみろ!そうすれば分かるわい」

 イッショに魔力探知してみろと言われてみて、始めて魔石の魔力に気付く。

 魔石の塊から感じられる魔力量に変化はない。

 不要な部分を削ぎ落としつつ、内包されている魔力だけをさらに凝集している。そして、キラキラとした魔石の消滅が終わると、そこにからは真紅の魔石が姿を現す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...