精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
303 / 329
タイコの湖

303.準上位魔法

しおりを挟む
 精霊達との繋がりが強化され個々の能力は進化しているが、攻撃方法や手段は大きくは変わっていない。
 あくまでも中位魔法は中位魔法でしかなく、この状況を一瞬でひっくり返してしまう程の破壊力を秘めた攻撃手段はない。

「全ては陰となり、全ては陰に消えん。循環せし輪から外れ永遠に彷徨う術を与えん」

 そして俺達の中でも、防戦一方の局面を変えるための最大級の魔法は、フォリーの陰魔法シェイド。序盤で切り札であるフォリーを出したくはなかったが、一瞬でも状況を落ち着かせる為には、この方法しか思い付かない。

「シェイドーーッ」 

 陰魔法が飛びかかってくる蛇達を、次々と塵に変えてゆく。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ」

 襲いかかってくる攻撃は止むが、全力で放ったフォリーの消耗は激しい。限られた環境下でしか完全な力を発揮できないヴァンパイヤ族の中であっても、特に攻撃魔法に特化しているフォリーは、全力で魔法を使う機会が少ない。それだけに、魔法の熟練度が上がり難く、全力で魔法を行使した後の消耗は大きくなってしまう。

「フォリー、もう大丈夫だ!」

「ご主人様、ハアッ、まだ、ハアッ、大丈夫ですわ!」

「まだお楽しみは沢山残ってる。次に備えて回復を優先にするんだ」

 まだ大量に光り輝く赤い眼の輝きを確認すると、悔しそうに表情を浮かべながらフォリーは陰の中へと戻る。それでも少しだけ訪れた静寂は、僅かな思考の時間を与えてくれる。

「こんなことになるなら、もっと練習しておけばよかったな。余裕なのはコイツだけか!」

 精霊樹の杖の性能なら、上位魔法であっても無理なく行使出来るのだから、後は俺の能力次第でしかない。自然と精霊樹の杖を握る手に力が入る。

 ぶっつけ本番になるかもしれないが、可能性が無い訳ではないと自分に言い聞かせる。

 シャーッ、シャーッ、シャーッ

 再び蛇達は威嚇の音を立て、こちらへと近付いてくるが、守りに入るだけでは結果は変わらない。

 この広い空間全てに影響を与える為には、それだけのコントロールされた魔力を放出しなければならない。
 そして精霊樹の杖を頭の上に翳し、ゆっくりとではあるが可能な限り大きな魔力を込めると、精霊樹の杖が風を纏い始める。しかし、ウィンドトルネードのような激しさはない。

『カショウ、大丈夫なの?』

 ムーアも弱々しく感じられる風に不安を隠せない。

「ああ、何とかな。フォリーの作ってくれた時間は無駄にしないさ!」

 そして俺達を射程圏内へと捉えた証なのか、蛇達は鎌首をもたげると一斉に飛びかかる姿勢を見せてくる。

「ダウンバーストッ」

 その瞬間、杖の周りに溜め込んだ風を一気に床へと叩きつけるように解放する。地面へと叩き付けられた風は一斉に周囲に広がる。さらに、止めどなく流れ出す風魔法が、徐々に風の勢いを加速させ、飛びかかろうとしていた蛇達を吹き飛ばす。

 上位魔法で難しいのは、大量の魔力量を魔法に変換しながら、魔法を同時に操ることにある。ウィンドトルネードのように、限られた範囲で魔力を魔法に変換するのであれば制御しやすい。しかし空間全体に影響を与える魔法を行使するには、さらに緻密な制御が必要になり、難易度は格段に上がる。

 だから2段階に分けた魔法を行使する。その1段階眼がダウンバーストになる。

 精霊樹の纏った風が地面に叩き付けることで、その風は自然と周囲に広がる。今は魔力を風魔法へと変換するだけに集中するだけでイイ!

「マトリ!ここからが本番だっ」

 風魔法が十分に放出されれば、後の魔力の放出を全てマトリに任せて、放出した風魔法に意識を集中する。ダウンバーストで放射状に広がった風魔法の流れを少しずつコントロールし、杖を中心とした大きな渦の流れをイメージする。

「ウィンドサイクロン」

 俺達を取り囲んでいた蛇達は、巨大な渦へと飲み込まれ次第に宙へと浮かび上がる。しかし巨大な渦となった風魔法には、大きなものを動かす力はあるが、ウィンドカッターのように切り裂くような殺傷能力は低下している。

『援護するわ!』

 その能力を真っ先に見極めたムーアが、オニの小太刀を構える。

「ムーア、大丈夫だ」

 右手で持つ精霊樹の杖に、左手を添える。

「疾風迅雷」

 魔法吸収で体内に蓄積していたサンダーボルトを一気に放出すると、ウィンドサイクロンに雷が帯びる。バチバチッと音がして、宙を舞う蛇達が急速に消滅を始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...