精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
291 / 329
タイコの湖

291.増殖

しおりを挟む
「タダノカマセイレに何があった?」

 哀しみの精霊とも思えないような、小躍りするような姿。喜ぶ哀しみの精霊なんて存在は成立するのかと、自分の目を疑ってしまう。

「一体が何があったんだ?イッショ、どうなっている?」

 同じ精神を司る精霊であるイッショであるならば、タダノカマセイレの行動の意味が理解出来るのかもしれない。

「慌てるな、よく見てみろ!」

 しかし、イッショは行動の意味を教えてはくれない。もしかして“よく見てみろ”とは、イッショの行動を指しているのかもしれない。
 そう考えてみると、怒りの精霊であるイッショも常に怒りに満ち溢れている存在ではない。どちらかといえば真逆で、周囲の怒りを自身に集めているような気さえする。

「そうか、わざと人を怒らせることで自身に怒りの感情を集めているのか!それならば、少しでも早く失った力を取り戻すことが出来る!」

「違うわいっ!それならば、タダノカマセイレの行動はどうなる!」

 その理屈ならば、小躍りすることで哀しみの感情を集めようとしていることになる。小躍りではどうやっても哀しみの感情を集めることには繋がらず、論理的に破綻している。

 再び霧の中に見える姿を見るが、あの唯一無二の姿はシナジーでなくタダノカマセイレでしかあり得ない。

「えっ、1人じゃないのか?そんな兄弟がいたなんて···」

 さらに飛び込んできた光景は衝撃的で、何体ものタダノカマセイレが巨大なスライムを囲んでいる。

『カショウ、急に何を言い出すの?』

「だけど、姿も魔力もタダノカマセイレそのものだろ!」

『似てるならまだしも、魔力そのものが同じなら兄弟なんてあり得ないでしょ』

 同じ雷の中から産まれたルーク達ですら魔力の質は違うし、その違いをハッキリと感じ取るとこは出来る。一番数の多いリッター達であっても、全く同じ魔力の質を持ったものはいない。

「···双子とかなら、可能性はあるんじゃないか。精霊に双子があるかないかは知らないけど」

『カショウ、正気で言ってるの?ただでさえ珍しいタイプの精霊が、いくつ子だって言うのよ!』

 しかし感じられる魔力は、十体を超え始める。巨大なスライムを囲んでいるのだから、その数はもっと増えていくだろう。

『シナジーはカショウの魔力を操っているけど、操れるのはカショウの魔力だけじゃないわよ。タダノカマセイレの魔力だって集めることは簡単なのよ』

「でも、シナジーの姿を真似することを拒否していたじゃないか!」

『それは、あの時の歪んだ心のタダノカマセイレでしょ。今の姿は全く違うわ!まさか、カショウまで騙されるとは思わなかったわよ』

 若干ムーアは呆れてしまっているが、それほどまでにシナジーの姿はタダノカマセイレにしか見えない。しかし、もっと姿がハッキリ見えてしまえば、やはり濃い霧がタダノカマセイレの姿をつくり出してる事は簡単に見分けがついてしまう。

「色味も真似出来れば、完全に見分けはつかないだろうな」

「スライムのような知能の低い魔物相手なら十分じゃないかしら。それにシナジーの霧の中に入ってしまえば、それだけで十分に効果はあるわよ。誰かさんも、見抜けなかったしね♪」

「ああ、複数の探知スキルを併用する事の重要性がよく分かったよ」

「お主達、余計なお喋りはそこまでにしておけ!」

 イッショが注意を促してくる。その理由は単純明快で、シナジーに囲まれて逃げ場所が無くなったスライムの唯一進める場所は、俺達がいる場所でしかない。それは逃げの一辺倒であったスライムが、俺達ならば勝算があると踏んだということでもある。

『やっぱり、低能な存在よね。数が集まったからイイ気になってるのが、救いようがないわ』

「それでも、数も力なんだから間違ってはいないさ」

 巨大なショッピングモールほどありそうなスライムの山。それが巨体とは思えないスピードで動き始める。それだけでも、圧倒されそうな迫力はある。

『それでも、覆せない相性はあるわ。あのスライムじゃ、あなたにをダメージを与えることすら出来ないわ』

「まあ俺の事を魔力だけで判断すれば、そうなるかもしれないな。それに、俺は学習して成長しているからな!」

 そしてスライムに魔力が集まり始めると、一斉に小さな突起が現れて一斉に魔毒を放ち始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...