精霊のジレンマ

さんが

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タイコの湖

285.湖のスライム

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 チェンが先導し、今までにないくらいに精力的に活動している。少しでも良い条件を勝ち取るための打算。しかし、ムーアにはチェンの感情の声が聞こえていることに気付いていない。いつか気付く日がくるだろうが今のチェンの努力は、きっと無駄にはならない。

 そしてカミシ川を半日かけて遡ると、タイコの湖が見えてくる。

「あれが、タイコの湖っす···よ」

 しかし、タイコの湖を知っているはずのチェンが、一瞬だけ言葉を詰まらせる。

『あの赤い湖が、タイコの湖なの?』

 渓流を流れる澄んだ色からは想像出来ないくらいに、湖面は深紅に染まっている。

「ヒガバナの花弁ヨ」

『綺麗ではあるけど、毒々しいわね。これだけのヒガバナが咲くなんて考えれないわ』

 湖一面を埋め尽くした花弁は水面を完全に覆い隠し、本当の姿を見ることは出来ない。そして、湖の周りに群生していたヒガバナは完全に枯れてしまっている。湖に浮かぶ花弁は未だに鮮やかな色を見せいているのに、茎や根は枯れ果てて茶色く変色している。

「やっぱり、異常なのか?」

『ヒガバナ一輪でも、この湖を全て汚染してしまうだけの毒の強さを持っているのよ。この湖の水は、もう御神酒としては使えないわ』

「そんなヒガバナを、なぜ放置してたんだ?」

『ヒガバナは大量の毒を吸収してくれるの。普通は簡単に咲くことはない花よ。だから、御神酒となりうる水源のある所には、ヒガバナを植えて毒に汚染させる事を防ぐのよ』

「大丈夫、スライムは魔毒を出してはいなイワ」

 しかし、ブロッサは魔毒の臭いを感じておらず、カミシ川の上流はスライムの魔毒に汚染されていない。

「でも、スライムの臭いが強いな」

 ブロッサより嗅覚に鈍い俺であっても、流れる川からはスライムの臭いが分かる。俺よりも嗅覚に敏感なブロッサなら、かなり前からに臭いに気付いていたのかもしれない。

 そして、湖が近づくにつれてスライムの強烈な臭いが漂ってくる。

「毒じゃなくて、大量のスライムを吸収して花を咲かせたノヨ」

 確かに湖面に浮かんだ花弁からは、強烈なスライムの臭いがする。花弁は水面を埋め尽くしているだけでなく、かなりの層になっていなければ、これだけの臭いはしない。
 さらに花弁は水の流れに反して湖から流れ出ることなく、湖面に留まり続けている。

「どうする···。この中に親玉がいるのか?」

『そうね。ヒガバナも全て枯れてしまっているし、これだけのスライムが塊となっているならば、親玉はこの中にいると見ていいわね』

「問題は、どうやって見つけだして倒すかか···」

 大量の湖のスライムの中から親玉を見つけだす作業が、大量の魔力を愚直に消費するしかない俺の体でもあるように見える。

「俺の体の魔力を消費するに比べたら、簡単な作業だと思うしかないな」

『まぐれ当たりが出れば一瞬で解決よ!』

 攻撃すれば本体に当たる可能性もあるし、何もしなければ解決はしない。それにスライムに対抗するのに一番有効なの火属性の魔法は、湖の上であれば周囲を気にすることなく全力で放つことが出来る。

「ファイヤーストーム」

 今までは、ほぼ使うことのなかった中位魔法のファイヤーストームは、広範囲にわたって湖面の上に広がる。

『逃げたわよ!』

 しかし、湖面は生き物の一部であるかのようにグニャリと形を変えて、ファイヤーストームを避けようとする。それだけでなく、湖の水を噴出して防御壁をつくりだす。

「スライムなのに知能があるのか?」

「カショウ、気を付けろ。何かを仕掛けてくるぞ!」

 イッショが湖面の魔力の変化を感じとる。湖面のスライムは1つの塊であるように大きくうねりを見せて変化しながらも、極小的には違う動きをみせる。マクロとミクロの入り混ざった特殊な動きは、単純な構造の魔物とは思えない知性さえ感じさせる。

 そして大きなうねりの中にも、魔力が極小的に集中すると小さな突起が出来る。

「スライムの魔毒ヨ!」

 そして一斉に魔毒を飛ばしてくると、一瞬で攻防が入れ替わる。広範囲魔法のファイヤーストームでも湖全体を覆い尽くすことは出来るわけもない。
 ファイヤーストームからファイヤーウォールへと変化さて魔毒を防が、魔毒は気化してミストへと変化する。

「流石に湖を埋め尽くすスライムは、量が多すぎるだろ」
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