精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

230.遠ざける者と近付いてくる者

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『あら、追いかけて来ないわね』

「少し期待してたんだろ」

『幾らなんでも、諦めが良すぎるんじゃないかしら』

俺達が撤退を始めると、オークの動きは急に止まってしまう。俺達を追い返せれば満足なのか、湿原からは出たくはないのか、それとも別の理由があるのかは分からない。
ただ異臭はさらに強さを増し、大気の色までもを黒く変色させて行く。それが侵入者をこれ以上は近付けさせないという姿勢である事はハッキリと伝わってくる。

エルフ族やハーフリング族はラーキでオークを閉じ込めたつもりでいるが、オークにとっては異臭という結界を張っているつもりなのかもしれない。


”見られてる”

そして、再びラーキの花畑が見えてくると、クオンが気配を感じとる。来た時に感じたようにラーキの花畑の中に隠れて、こっそりと監視しているのではなく、草原の中に立ってこちらを見つめている姿が確認出来る。
この草原に、小さな姿で2本足で立っている生物といえばハーフリングしかいないだろうう。そして、俺達が気付いた事が分かると、ゆっくりとこちらを目指して近寄ってくる。

「あの様子だと、俺達の事を待ち構えていたな。距離があるといっても、ムーアやウィプス達の事も見られてしまったか」

『遅かれ早かれ、知れてしまうから問題ないわよ。爺エルフとハーフリング族も繋がっているでしょうし』

「そうかもしれないけど、あまり良くはないかな?」 

精霊を召喚しているといっても、複数の精霊を常時召喚している事は簡単な事ではない。

『いつまでも精霊化した迷い人で通すつもりなの?それこそ怪しまれて、敬遠されるわよ。相手はハーフリングなのだからね!』

ハーフリングはオークの魔石を独占し、財を成した種族になる。恵まれた体格や能力を持っている種族ではないが、商魂たくましくて計算高い。常に損得勘定で動き、利用できるものは何でも利用する。

もちろん迷い人ならば、利用したいと考えるのが当然になる。特殊な能力やスキルを持っている事が多くアシスでは保護され、中には国を興したり勇者と呼ばれるようになった者もいる。

「そうだな。でも、俺の場合は無属性の魔法使い···じゃダメだよな。」

『何言ってるのよ。私達の事は見られてるのよ』

「召喚魔法か···」

『私達じゃ、不満だっていうの?私やブロッサやガーラだって中位精霊なのよ』

俺の煮えきらない態度に、ムーアが機嫌悪そうになる。

「いやな、ブレスレットやアンクレットがあっての力で、召喚魔法は俺の本当の力じゃないしな。それにブレスレットは俺と融合している精霊の持ち物だぞ。俺が何かして手に入れた物じゃないからな」

特殊な能力やスキルといっても、下され物のスキルは自分の実力といえるのだろうか?せめてブレスレットが自身の努力によって手に入れた物であるならば、もう少し自信を持って召喚魔法使いと言える。

『少し勘違いしていないかしら?スキルがあっても、精霊と契約出来なければ召喚は出来ないのよ。私達は、変わったブレスレットやアンクレットと契約したつもりはないわよ』

「それは、分かってるよ。それでもな···」

ムーアの声は普段と変わってはいないが、聴覚スキルが怒りを感じとる。

『それでも、何?』

「聴覚スキルが、それ以上反抗するなだってさ」

『あら、良かったわね。早速、優秀なスキルに助けられたじゃないの。それに、アンクレットはあなたが見つけたものでしょ。誰にだって扱える代物じゃないはずよ。そうじゃなかったら、あんな所に埋もれてなんていはいわ!』

「分かったよ。最後に1つだけ確認するけど、ムーアは大丈夫なんだな。俺の召喚精霊として見られる事になるぞ」

迷い人の中でも、明らかに俺は優秀な能力やスキルを持っていない。俺の持つ無属性のスキルは、新しい国を興したり勇者と呼ばれる者が持つようなスキルとは程遠い。
俺自身が変わり者と見られる事には抵抗はない。しかし、そんな変わり者と契約する精霊となれば、精霊の方も穿った見方をされてしまう。

『呆れるわね。そんな下らないこと考えてたの。あなたに勝てる変わり者はいないわ♪』

即答で断言されてしまい少し拍子抜けしてしまうが、嬉しくもあり複雑な気持ちにもなる答えでもある。

「気にしないなら良かったよ」

『ハーフリング族を相手にするならば、少しでも有用である事を示した方がいいわ。そうじゃないと、何をしてくるか分からないわよ』
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