精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
213 / 329
オヤの街のハーフリングとオーク

213.オーク2人

しおりを挟む
誰だ、誰の声なんだ。我らを苦しめる、禍々しい声。その凍てつくような声は、凍えるように頭の中を響き渡り、そして耐えることの出来ない苦しみをもたらす。
やっと苦しみから解放されたのに、誰がまた苦しみをもたらす。進化出来ない我らが、体を削り、潰し、苦痛に耐えて手に入れた体とスキル。そして手にした安住の地。

また、それを脅かす者が現れた。苦しみから早く解放される為には、元凶を絶つしかない。

誰が、我らを貶める。
誰が、我らを辱しめる。
誰が、我らを苦しめる。

感情が爆発し世界を赤く染め、嵐を巻き起こす。しかし、凍てつくような禍々しい声を壊すには、こうするしか方法がない。

赤い世界が終わりを告げ、目の前の景色にいつもの色が戻る。

だが、どうなっているんだと困惑するしかない。ブレスの残滓の中であっても、まともに突っ込めば無事で済むことはありえない。どんなものであっても腐食し、劣化し存在を保つ事は出来ない。
それなのに目の前のヒト族には、多少むせて涙目になった程度の効果しかなく、平然とした顔をしている。そして驚くべきは、それだけでない。劣化し崩れ去ったのは上に羽織っているローブのみで、持っている杖もローブの下から現れたチュニックにも何の変化も起きていない。

どうなっているんだ?お主らは何者なんだ?決して前には出るなと言われているが、自らの目で確かめるしかない。2人しかいないのだから、キングもロードも関係ないさ、横までなら大丈夫だろう。これなら、前には出たことにならない。




『カショウ、大丈夫?』

「まさか、口臭のキツいオークがいるなんて知らなかった。一瞬、意識が飛びかけたぞ」

結構使い勝手は良くて気に入っていたのに、もうローブはボロボロで使い物にならない。吸収スキルは分かっていたが、まさか口臭をブレスのように吐き出すとは思っていなかった。精神的なダメージもあるが、武器や防具が破壊されるダメージも、思った以上に大きい。

「だけどあれは本当に、オークなのか?」

『手を見たけど、水掻きが付いてたわよ』

「どうなってるんだ?魔物に変異種とか、異種とのハーフっているのか?」

『そんなの見た事も聞いた事もないわよ』

「あれは下位種なのか?そうだったらオークは、これまでにない危険な魔物になるぞ!」

『昔とあまりにも違い過ぎるから、分からないわよ』

2体のオークは見た目は大きく変わらない。最初に現れた吸収スキルを持ったオークは全身が赤みがかり、後から現れた口臭というブレスを放ったオークは青みがかった色をしている。しかし2体のオークが並ぶと、体は全く異なる印象を受ける。
赤みがかったオークの体は綺麗な流線型をしていて、ウィプス達の攻撃を受けていた事さえ感じさせない。傷一つない綺麗な体で、毛並みすら乱れていない。
それに比べると、青みがかったオークは、全身が傷だらけで、流線型を描いている体は無理矢理に体を削り取ったような印象さえする。当然体には幾つも傷痕があり、所々には毛がない場所もある。

2体の色が違うのだから、少なくても同格の存在ではなく、どちらかが上位種になる。
第一印象は、体の赤みがかったオークの方が上位種っぽい。洗練された体型と傷のない体には、異臭の漂う湿地帯にあっても品を感じさせる。しかし、青みがかったオークは全身傷だらけで下っ端感を感じさせるが、先に現れたのは赤みがかったオークの方になる。後から現れた青いオークは、ブレスを放ち青みがかったオークを助けたようにも見える。

そして奥にいた青いオークが、ゆっくりと前に進み出てくると、赤いオークが左手を横に広げて歩みを止める。
しかめっ面をする赤いオークに対して、にこやかに笑みを浮かべる青いオーク。

「青いオークが上位種なのか」

『両方とも立ち居振舞いは上位種っぽいわよ』

「じゃあ最低でも、ロード以上が確定だな?それにしても、いきなりロードって」

それと同時にウィプス達に合図を送って、再び攻撃を再開する。魔物である以上、相手の行動を待って受け身になる必要はないし、今一番必要なのは口臭ブレスを回避する為の間合いになる。

「少しずつ下がるぞ。俺より前に出るなよ!」

目の前では、相変わらず赤いオークがサンダーストームを浴びながらも口から吸い込むという異常な光景が繰り返される。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...