精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
126 / 329
迷いの森の精霊

126.変革

しおりを挟む
魔樹の森の奥に行くにつれて、木々は密集し風の流れも無くなり、静かで不気味な空間となる。
地中から漏れ出す魔力も濃くなり、日の光が届かないだけでなく、黒い靄がウィプス達の明かり直ぐに遮ってしまい視界は悪い。

さらに尖った枝葉が行く手を遮る。硬く曲がることさえしない枝葉は、軽く接触しただけでも身体を切り刻んでしまう。不用意にぶつかれば、傷だらけでは済まないかもしれない。

「思った以上に、この森を抜けるのは大変だな」

『そうね、大きない木よりは枯れてしまった細い木の方が凶器になるわね』

「魔樹を傷付けるなって言われてるから、道を開く事も出来ないしな」

『オルキャンの光る剣があれば、この森は簡単に切り開けるのかしら?』

「狂ってしまってもタカオの街の元領主で、廃鉱を作り上げたドワーフだからな。ただの光る剣ではなかったのかもしれない」

『まあ、今はキマイラ戦で出番が無かったから、ナレッジが頑張ってくれるわよ』

今はリッターを召喚し十分な明かりと視界を確保して、なるべく開けた場所を移動している。
この森の守護者となるキマイラは、クオンが探知出来る範囲にはいないので、リッターの明かりがあっても問題ないだろう。

今思えば、キマイラが変則的に移動していたのは、このせいかもしれない。

「僕だけじゃ大変だよ。早く人員補充してよ。この視界の悪さで僕だけだと、せっかく進んでも後戻りする事になるよ」

「イッショは何してるんだ。手伝ってもらえばイイだろ!」

「待て、カショウ。俺様は魔力吸収の制御という大変な仕事があるのだ!」

「今必要ないだろ。それにお願いされれば手伝ってくれるんだろ。頼んだぞ!」

「そっ、それはっ、確かに言ったが・・・」

「じゃあ、シナジーみたいに俺の気配探知スキルを手伝ってもらおうか。そっちの方が休みは」

「任せておけ!リッターと俺様は相性が良いのだ。適材適所というやつだな!」


そして今まで以上に危機感を感じたクオンは、新しい事を始めた。
風もなく木々の揺らぎもなければ、生物が発する音もない。クオンの耳は、どんな小さな音でも聞き分け出来る。風に揺らぐ草木の音だけでなく、鼓動や脈拍でさえも感じ取れるが、音が少なければ探知スキルも弱くなってしまう。だから、弱っていたユニコーンに気付けなかった。

さらに、キマイラの探知範囲の広さは、俺達だけでなくクオンにとっても驚きだった。
しかしシナジーの霧の中に隠れた俺達を、キマイラは見つける事が出来なかったので、その点に関してはクオンの方が優秀である。

“次は負けない”と宣言したクオンの出した答えは少し意外だった。

精霊達が増え、召還したままの精霊は俺の周りにいるか、俺の影の中で過ごす。クオンは、人数が増えて賑やかになるのは嫌いではないらしいが、グループの中にいるよりは1人でいる事を好み、それを見ている事の方が多い。

そのクオンがベルと一緒に探知を始めた。

今まで以上に、ベルが外と影の中を出入りするようになり、鳴き声を出しては戻るを繰り返している。
その鳴き声も、高い音であったり低い音であったり様々で、たまに聞こえない場合もある。

「ベル、何してるんだ?」

「クオンに頼まれたのっ♪私の声は綺麗で、良く通る声だからっ」

「それで、鳴き声でどうなるんだ?」

「えっ、それは・・・きっと皆の元気が出るのよっ」

“ベル、大丈夫よ”

「ほらねっ、合ってるでしょっ♪」

クオンもベルの事を良く分かっているようで、効率良く説明をしたのだと思う。
今までの発する音を待つだけの受動的な探知とは違い、能動的に行おうとしている。ベルが音を発して、その反響音を感じ取る探知スキルで、音を発しない魔樹の森は都合のよい訓練の場となっているようだ。

急激に精霊達が増える中で、1人の圧倒的な能力や1つの絶対的なスキル伸ばすのではなく、複数いるからこそ産み出せる能力を見出だしたのは、俺達らしい戦い方だと思う。それをクオンもそれを感じていた事は、少し嬉しくもある。

少しだけ、頭の中がスッキリする。精霊や仲間が増える事による悩みや迷いはあるが、それの答えがぼんやりと見えたような気もする。
それと同時に、ズキリと頭に痛みが走り、記憶がフラッシュバックし、自然と言葉が出てくる。

「専・・・・」
「命・・・・化」
「統制・・・・」
「責任・・・・致」
「権・・・・譲」

『カショウ、どうしたの?大丈夫?』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...