精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
111 / 329
迷いの森の精霊

111.エルフからの招待状

しおりを挟む
フタガの領主といっても、岩峰しかなくハーピーの危険に晒された地域に住もうと思う民はいない。さらには、鉱石などの資源が見つかる可能性も少ない土地の為、これから新しく開発が進む可能性も少ない。

岩峰以外には残るのは2つの街道。タカオの街とオヤの街へ向かう2本の街道になるが、岩峰全体がハーピーの行動範囲内に入る為、その中で関所を設けたり、隊商や旅人を止めて通行税を取る事も出来ない。

つまり、誰が領地を治めても得にならない土地だからこそ、バッファにしてもチェンを領主に任命する事が出来た。

「ぼっち領主は“あるじ”というより“ぬし”に近いな」

『仲間が増えても、ぼっちの呪いは協力ね』

「領主でぼっちはハイランクぼっちだな』

「皆いるじゃねーですか?」

『それは、私達に領民になれって言ってるの?』

「なってもイイけど、勿論領主として保護してくれるんだよな。そうじゃなかったら出ていくぞ!」

「責任を取れるなら、イスイの領主としては構わんぞ」

「そっ、そんな、皆酷いでさぁー!」

「ここに滞在する客人くらいが、都合がイイって事だ」

「まあ、無事に新領主が誕生して安心したわい」

そう言うと、バッファが懐から紙のようなものを取り出す。一度だけ紙を確認すると、それをチェンの前に差し出す。

「新領主の初仕事だ。その手腕に期待するぞ!」

今までの話では、領主の仕事はハーピーから護る事のみのはず。仕事と言われれば、必然とハーピーが関係してくる事になる。
差し出された紙を恐る恐るとチェンが受け取ると、それを見る間も与えずにムーアが横から奪い取る。

『あら、面白いわね。これをチェンにやれと言うのかしら?』

「貴殿方なら、問題なかろう。如何かな?」

その紙は、迷いの森のエルフ族族長のコアピタンスから、イスイの街の領主バッファへと宛てられた手紙になる。

その手紙では、迷いの森にハーピー達の群れが突如として現れ、それと同じくしてフタガの岩峰からハーピー達の姿が消えた。明らかにイスイから来たハーピーである事は間違いなく、迷いの森へとハーピー達を追い出したのは、どういった了見かと問いただしている。
さらに、迷いの森ではハーピー達が現れた事により生態系が変わりつつあり、魔物達が活性化している。どう対処するつもりか、至急連絡されたしという内容になる。

「責任を持って、討伐されたし!って感じか?」

『まあ、迷いの森の中に安心して入れるなら、悪い話ではないわね。迷いの森には力のある精霊達も多いでしょうし』

「まあ、どうするかは領主様次第だな」

『そうね、領主様がどう考えて、領主様がどう行動するか、それに私達領民は従うのみですわ』

「もう、姐さんもカショウの旦那も勘弁して下せーっ」

俺達がチェンを弄り出した反応を見て、バッファは最後に光の玉を取り出す。

「これは、あくまで私的な見解でしかない。領主としての命令でも依頼でもない、ただの独り言と思って欲しい」

独り言というので、俺も言葉には出さず頷いて返事を返す。

光の玉がイスイの街に届けられた後、首都トーヤの蟲人族の族長にも送られる。それは蟲人族だけの情報としてではなく、ドワーフ族やエルフ族の族長など全ての族長達にも情報共有されている。
その中でも光る玉を見たときに、エルフ族の族長の表情が一瞬だけ変わった。普段から喜怒哀楽だけでなく驚きの表情をも見せないエルフ族が、ほんの一瞬だけ表情を変えた。
エルフは秘密の多い種族でもあり、迷いの森の中がどうなっているかも分からないし、エルフ族以外で迷いの森に入った事のある者は少ない。

きっとエルフ族にも何かが起こっている。ヒケンの森に、タカオの鉱山、フタガの岩峰と異変が起こって、 迷いの森にだけ何も変化がないとは考えにくい。しかし、何が起こっているかは分からない。

「さて、要件は済んだので、イスイの街に戻らせてもらう。抜け出してきたから、後始末が大変でな」

「最後に確認だけど、迷いの森に惑わされずに入れるのか?」

「大丈夫だ、迷いの森にまで行けばエルフの案内人が来る」

最後にそれだけ確認すると、バッファはイスイの街へと戻って行く。

アシスに来た時は、迷いの森に行く選択肢は無かっただけに、この数ヶ月での成長を実感する。精霊も、精霊じゃない仲間達も増えた事が感慨深い。

「次は迷いの森に行くか!」

「カショウの旦那に付いて行きやすーーっ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「7人目の勇者」

晴樹
ファンタジー
別の世界にある国があった。 そこにはある仕来たりが存在した。それは年に1度勇者を召喚するという仕来たり。そして今年で7人目の勇者が召喚されることになった。 7人目の勇者として召喚されたのは、日本に住んでいた。 何が何だか分からないままに勇者として勤めを全うすることになる。その最中でこの国はここ5年の勇者全員が、召喚された年に死んでしまうという出来事が起きていることを知る。 今年召喚された主人公は勇者として、生きるためにその勇者達に謎の死因を探り始める…

サフォネリアの咲く頃

水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。 人と人ではないものたちが存在する世界。 若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。 それは天使にあるまじき災いの色だった…。 ※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も? ※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。  https://www.pixiv.net/users/50469933

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

インフィニティ•ゼノ•リバース

タカユキ
ファンタジー
女神様に異世界転移された俺とクラスメイトは、魔王討伐の使命を背負った。 しかし、それを素直に応じるクラスメイト達ではなかった。 それぞれ独自に日常謳歌したりしていた。 最初は真面目に修行していたが、敵の恐ろしい能力を知り、魔王討伐は保留にした。 そして日常を楽しんでいたが…魔族に襲われ、日常に変化が起きた。 そしてある日、2つの自分だけのオリジナルスキルがある事を知る。 その一つは無限の力、もう一つが人形を作り、それを魔族に変える力だった。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

処理中です...