精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
74 / 329
タカオの街のドワーフ

74.魔石の記憶

しおりを挟む
オルキャンの身体が消滅する。これはオルキャンが完全に魔物化してしまった事の証明になる。

そして大きなコボルトの魔石は砕け散り、俺に降りかかる。ゴブリンキングの時と同じで、身体に付いた魔石は吸収されて無くなる。
俺だけが吸収してしまうのか、誰でもが吸収してしまうのかは分からない。


そして、オルキャンの記憶が俺へと流れ込む。

この鉱山で起こった過去最大の崩落事故。そこで見つかったのは、石柱とコボルトの大量の魔石。忘れられてしまった過去の遺跡なのか、それとも封印された遺跡なのか、そして何かの儀式を行った跡なのかは分からない。

そこに現れたのが、銀髪の剣士。そして、ドワーフ達は石柱と魔石の意味を知らされる。

それは、“魔物を変異させる術”

もちろんドワーフ達は拒否する。魔物を造り出すことも協力する事も出来ないし、それはあってはならない禁忌。

しかし銀髪の剣士が差し出した1本の剣が、ドワーフの決断を狂わせる。剣に嵌め込まれた魔石に引き込まれ魅了されるドワーフ達。

この魔石があれば、伝説と謳われる武器を超える事が出来る。ドワーフ造り出す武器こそが至高の存在になり得る。

一度魔石に魅了されてしまうと、もう後戻りすることは出来なかった。
剣に嵌められていたのはラミアの眼球。剣士とグルだったのは、相手を魅了し意のままに操る魔物ラミア。魔物に従うのは気に入らないが、身体は拒否する事が出来ない。
そして、巨大なコボルトの魔石がオルキャンの額に埋め込まれる。魔石から魔力が流れ込み、体の中を駆け巡る。複雑に絡み合った魔力は、もうほどくことは出来ないだろう。

それならば、残るは後世に残る至高の武器を造り出すことのみ。それが我が生きた証となる。

しかしコボルトの魔石とオルキャンが一体化したのは、オルキャンをコボルトの親玉にする為で、特別な力を与えるものではなかった。
ドワーフの職人としての技能や目利きする能力は失っているが、それに気付く事は出来ない。ただ目の前の光るだけの球に神剣となる力が秘められていると信じて疑わない、それだけがオルキャンの生きる一縷の望み。
100年もの長き時に渡って坑道の中で延々と同じ事を繰り返し、侵入者を排除する役割を与えられた存在。

これが、この鉱山やドワーフに起こった事のあらましになる。

「鉱山のコボルトも、オオザの崖のゴブリンに起こった変化も、全てが繋がっている」

やはり事態は局所的ではなく、すでに広がっている。そして100年も前から時間をかけて、用意周到に計画されていた事実。

『銀髪の剣士は何者なのか分かるの?』

ムーアの疑問も確かで、オルキャンもラミアも消滅してしまった今は、全貌を知っているのは銀髪の剣士のみ。

「ライみたいな銀髪だったな。ライの昔はあんな感じだったのかな?」

『ライは100年以上前からあの姿よ。それに剣士って感じはしないわ』

「何となくライを思い出しただけだよ」

『あの爺さんは怠け者だから、こんなマメな事はしないわよ!他に何か、記憶は伝わってきたの?』

「それだけだな。どうやってコボルトを変異させたか、ここで何をしようとしていたかもだし、オルキャン自身の過去の記憶もない」

『オルキャンの記憶というより、コボルトの魔石が見てきた記憶かもしれないわね』

「そうかもしれないな、俺のドワーフやこの世界の知識は全く変わってなさそうだ」

『ゴブリンキングの時みたいに、新しい能力は身に付いたの?』

特に変わった事はない。ゴブリンキングの時もそうだったが、何かを得た感覚はない。音が流れてくれたりメッセージが出てくれる親切設計なく、ふとした瞬間に今までと違う違和感で気付く。
何か確認はしないといけない気がする。正しいかどうかは分からないが、今は自分自身に問いかけてみる事しか出来ない。何か変わった事がないのか?何かの感覚が研ぎ澄まされてないか?

急に頭が痛み出す。次第に痛みは増し、目を開けていることが出来なくなる。

『大丈夫?』

ムーアが大きな声を出し、ブロッサがポーションを持っている。

目を閉じたはずなのに、目が眩む。大量の光景が、頭の中に飛び込んでくる。膨大な量の情報を単純に処理する事が出来ない。
平衡感覚も無くなり、立っている事も出来ない。
神経が焼き切れるような感覚。例え目が潰れても、この光景の波は続くのだろうか?
このままでは精神が壊れてしまう。意識が遠のき、体の力が抜ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

自己中女神のお陰で何度も死に戻りしてる俺

木嶋うめ香
ファンタジー
自称神だという女は自分のミスの償いに、異世界転生なんてふざけた事をしてくれた。 死にたくても死ねない。 死んでもすぐにこの世界に戻される。 俺はなにもしたくない。 もう眠りたいんだよ。 俺の気持ちを無視して、あの女はまた俺を生き返らせるのだ。 三年間この世界で生きたら、今度こそ永遠の眠りについてやる。 そんな思いを持ちながら、俺は盗賊から助けたキョーナと共に旅を始めた。 他サイトでかなり昔に執筆していた作品です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ
ファンタジー
冒険者だった親に置いていかれたロキは、宿屋の屋根裏に住み、顔に大きな火傷痕と灰色の髪を持つことから、『泥ねずみ』と呼ばれ、鞭打たれ、働かせられていた。 ある日高熱に侵され、その拍子に日本人高校生だった記憶が蘇る。 魔力暴走で死ぬことは回避出来、愛された記憶により余裕が出来たロキは、必死に生きる道を模索する。 10歳になったら自立し、誰にも虐げられない強い冒険者になることを目標に――――。 おっとりマイペースな少年が、『顔』に振り回されつつも、精霊の加護を駆使し、 ちょっぴり人に不信感を持つ中、友人や仲間を得ながら安心出来る場所を築いていく。 ※サブテーマ『BL好き作者がBL展開になりそうになるのを堪えながらなんとか無事に完結させたい』 ※↑のため、やや腐臭がするかもしれません。苦手な方はご注意下さい ※ 主人公は絡まれることはあっても恋愛しません。仲間は男か人外のみ ※ざまぁはふりかけ程度。 ※R15は念のため(残酷/下品な表現) ※女性向けHOTランキング最高位39位、頂きました。  第16回ファンタジー小説大賞にて25位を頂きました。ありがとうございます!

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

処理中です...