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第9話 地竜ミショウの侠気

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「下層の魔物の待避は終わったが、全ての魔物も待避せよか……。彼奴は相変わらずだろうが、仕方あるまい。毒喰らわば皿までか」

 そして、地竜ミショウは、上層となる26階層のモンスター部屋へと転移を行う。


 モンスター部屋とは、ダンジョンに連れてこられた魔物が、黒子天使達に反抗して集まった立て籠り部屋のことをいう。
 ダンジョンに連れてこられ、有無を言わさず悪の象徴として扱われる。強制的に連れてこられた魔物もいれば、契約してきたが激務に耐えきれず逃げ出した魔物もいる。
 ただダンジョン内で生き残る道は、侵入してくる冒険者や勇者達を撃退するしか方法はないのだから、魔物の方は堪ったものじゃない。


 地竜ミショウが、ダンジョン26階層のモンスター部屋に転移すると、背中から鈍色の剣が飛び出した戦士の後ろ姿が目に入る。ダンジョンが崩壊するというのに、当然の如くレヴィンの命令を無視して、魔物は冒険者と戦っている。

「うっ、うっ、うわっ」

 声のした方を見れば、完全に戦意を失い壁へとへばり付く魔法使いがいる。その横にいる神官は、気迫に押されながらも辛うじて杖を構えている。

「ほうっ、幼いが挫けぬか」

 再び、部屋の中央に視線を戻せば、宙に浮かんだ光の玉に目をひかれる。

「面倒くせーな。あれが勇者ってか、おい!」

 魔力供給が止まれば、非常灯や誘導灯もないモンスター部屋は真っ暗になる。しかし、モンスター部屋には灯りがある。まだまだ弱い光ではあるが、間違いなく聖属性の魔法ホーリーライト。
 ダンジョン内で聖属性の魔法を使えるのは聖女しかおらず、聖女の居るところには必ず勇者が居る。

「おい、聞こえたか。全員待避しろだとさ」

「その汚い声は……ミショウか。妾に気安く声を掛けるなと言うたのを忘れたか。下賤な地竜の分際で!」

「ダンジョンでは強さだけが全て。お前さんこそ、そんな事も忘れたか」

 戦士の体から長剣が引き抜かれると、力無く崩れ落ちる。その後に現れたのは、漆黒の鎧に身を包み鈍色に輝く長剣を持つ剣士の姿。
 このモンスター部屋の主であり、ミショウと一緒にこのダンジョンにやって来た亡者の女剣士ローゼ。

「ほう、ミスリルの盾を貫くか」

「そんなもの今の妾には容易きこと。脳筋竜には出来ん芸当かもしれんがな」

「笑止な。引き篭もりと違い、ワシらの方が研鑽を積んでおるのだ」

 地竜ミショウが溜め息をつく。それは、限界までに威力を殺した地竜のブレス。それが戦士もろとも、ミスリルの盾を消滅させる。

「それで勝ったつもりか。ならば勇者相手に妾の力を証明してみせる」

 亡者の女剣士ローゼの言葉で、勇者チクリーンは慌てて出口の扉を開けようとするが、扉はピクリとも動かない。

「3人目の急造勇者だ。禁忌を起こした者に関わるでない」

「ふんっ、我らを誘い出す罠であろう?そんな、見え透いた嘘が信用出来ると思うたか。ワイーザの手先にまで落ちぶれるとは嘆かわしい」

「ブラックアウトを起こしたのだ。災厄に巻き込まれるぞ」

 地竜ミショウの言葉を証明するように、勇者の持つ熾天使の杖が爆ぜる。勇者の右腕が吹き飛び、ダンジョンの壁に穴が開く。決して傷つけることの出来ないダンジョンの壁が破壊されるのは、禁忌でしかあり得ない。

「時間が無い。死にたければ、ここに残っていろ。ワシについて来るなら、レヴィンの元へ転移させてやる」

「ブラックアウトの原因は、レヴィンではないのだな」

「ああ、ラーキとワイーザの仕業だろ。レヴィンが、こんな急造勇者を造ると思うか。貴様の方こそ、頭がどうかしておる」

「ふんっ、後でゆっくりと妾の力を思い知らせてやる。皆の者、ダンジョンが崩壊する前に脱出する。トカゲの転移魔法を受け入れろ」

 ローゼの言葉でミショウの周りに、モンスター部屋の魔物が集まり始める。

「ローゼ、アレも連れてゆく。いいな!」

「ふんっ、好きにしろ。刃向かえば殺す。それまでだ」

 第6ダンジョン26階層のモンスター部屋を中心として、ダンジョンの崩壊が起こる。21階層から30階層までが跡形もなく破壊され、そのエリアに近づく者には容赦なく災厄が訪れる。

 モンスター部屋にいた魔物達も聖女の姿も消えている。その事を確認することは誰にも出来ない。 




 魔力使用の完全停止を確認。魔力予備率0.1%に回復しました。システムを再起動します。
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