だんじょんきーぱー

小目出鯛太郎

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4話 恋人なんていない

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『おおティンよ、人間に負けるとはなさけない』
ちょ、そこ!魔王!何言ってんの。こういうのは勝ち負けじゃないっしょ。
ていうか見てたわけじゃないよね…?
熟練冒険者のユーヴュラに、上になっても下になっても勝てなかった俺を観察してたとかじゃないよね?

魔王とカースに仕込まれたヒューマンボディフォーメーションフォーティーエイトは、役にたたなかった。あれは魔物の考える最高の体位であって、本来の体に戻った俺にとってはまったくもって実用的じゃなかったのだ。これまでは魔王の作った小魔王ボディだったから色々耐えられたんだろうなと今ならわかる。
本来の俺はへろへろだ…。



だってユーヴュラのは魔王やカースとやった時と全然違うんだもん。なんかやたらと生々しかったんだもん!




(((;´•ω•`;)))
う、うろたえるな俺。
しっかりしろ俺。
一国一城ダンジョンの主としてしっかりしなくちゃ。


しっかり…。
しっかり…。
しっ……カリ首ををきゅっと握られていじめられた記憶がじゅわっとよみがえってしまった。


だめ、いじめ絶対。

カースに効果的だった呪文はユーヴュラを喜ばせただけだった。果てて重力に従順になったユーヴュラのアレが一気に反逆者になった。反逆のシュシュシュ…恐るべし熟練の手癖。

実はこいつが冒険者ではなくて熟練のパン屋さんでもおかしくないような手つきでねられ続けた。大人の経験に翻弄された。


なんにせようまく舐めれないからってそこに蜂蜜塗るのは間違っていると思うんだよ。どうなの、ねぇどうなの?みんなやってるって言葉に俺騙されてない?
俺は舐め犬になんかなっていない、なってないったらない。…ユーヴュラは違う場所をぺろぺろされるのが一番好きだと!?そんなん聞いてないから。オーダーしねぇし、しないでくれでございますことよ。ハァハァ


このチョイ悪親父風熟練冒険者ユーヴュラは、昔俺に手のひらをペロペロされたあの感触がずっと忘れられなくて、その後大人になってからの性生活に苦悩してたそうだ。誰と寝ても満たされなかったんだって。満たされないって誰かさんみたいなこと言ってやがるな。

可憐で清楚なひんぬーもたわわなスイカップのお姉さんも、ぷりりんきゅーとな桃尻妹系も、黒衣に身を包んだしっとり未亡人も、むちむちわがままボディっ子でも満たされなかった…だと?なんだそのうらやまけしからん発言は。そんなたくさんとあえいうえおあおした…だと?

それでは飽き足らず猫耳奴隷娘に、びっくりどっきり男の娘にがちむちハスキーヴォイスのオネオニイ様ともラブ・アフェアー?
満たされなかった切ない過去の思い出?ちげーよそれって武勇伝じゃん。なにそれうらやまちぃ…。
俺なんて俺なんて、きっと人間だった頃はど…DTか魔法使いだったに違いない。彼女も嫁も動く箱の中にしかいな、いな…か……った…。



「これからは私が、います。あなたの側にずっと」

ユーヴュラは俺の両手をしっかり握りしめて言った。俺が女のコだったらときめき胸キュンポイントMAXになりそうな表情と、もうえない妹が昇天しそうなハヤミ系ヴォイスだった。耳がぞわるぅぅぅ。


ちょ、そんな事魔物の俺に言っちゃダメだよ。
病気のお母さんのために薬草を摘みに出かけるような、いたいけな少年の性癖を歪めちゃった責任をどうしよう…。こんなおっさんになるまで引きずると思わないじゃん。
いや、コケを生やしてあげた時点で責任は果たしているよな。俺、悪くないよな。


こいつは人間で、俺は人形ひとがたとは言え魔物なんだからもうあんなことはしちゃいけないと思うんだ。仲良くなるとか問題しかないと思うんだ。それなのにユーヴュラはお土産を持って三日を開けずにダンジョンを訪れた。


というか、あの初めての出会いからずっとコケが絶えないように世話をしてここまで増やしてくれたのは実はユーヴュラだったんだ。血を吸うとコケが増える事に気がついたユーヴュラは定期的に血を与えていたらしい。

ダンジョンが成長したのはその影響も少しはあるかもしれなかった。
ユーヴュラは、ある時突然洞穴が変成してダンジョンになった事に驚きつつも手入れを続けてくれてたらしい。コケが薬の材料としてすごく高く売れるそうだ。


美味しいお土産を手に、にこにこと迫られる。顔を見ないようにしようとすると美声が耳から迫ってきて、う、う、う、どうしよう拒めない。


『おおティンよ。拒めないとはなさけない……とは言わんぞ。その人間を上手く使って管理させ続けるのだ』


え、いいのか。そんなことできるのかよ。どこかでデバガメしてる魔王は語り出した。
『うむ、遠方の「火竜の巣」では冒険者をダンジョンに挑戦させながら温泉苑なる裸の楽園で傷ついた人間を癒やさせ無限のループを築いているらしいぞ。集客から清掃、給餌まで人間が勝手に管理するからダンジョン主は左団扇らしいぞ』


なんてこった。温泉ダンジョンに生まれたかった…。今から温泉に方向転換とかできるのかな。火山が無いから無理か。地下からマグマを引いてくるのも無理だな。ダンジョンの壁さえ自力で崩せないんだもん。非力って悲しい。


『ティンよ、真似も良いが最初はゆっくり地味な方向で地道にやっていけ』
魔王様はのたまわった。
まるでそれを聞いていたみたいにユーヴュラはダンジョンの中に薬草園を作ってしまった。そしてダンジョンの中で育ち、かつ売買単価の高い薬草を増やした。薬草の世話や摘み取りは街から集められた孤児が担い、住む場所の無い子のために、ユーヴュラは家まで建ててしまった。

 植えられたノコギリ草や釘刺草、狼齒草は物騒な名前だけあって、気をつけていても子供だとうっかり切ったり棘が刺さったりして怪我をしてしまう。


俺はペロペロしたくなるのをぐっとこらえた。第二第三のユーヴュラを作っちゃまずいからな。子供たちは簡単な傷の手当を覚えた。草で血をぬぐってダンジョンの地面に廃棄してもらうと、ほんのちょっぴりだけどじわっとくる。ぁはん。

子供たちは薬草の見分けや栽培や植生を覚え、賢い子は薬作りまで覚えた。そこは歳取ったユーヴュラのお母さんの協力もあった。

俺だって何もせずぷらりんこしてたわけじゃないぞ。俺は子供たちに読み書き算盤を教えた。俺は言語だけは万能だからな。計算は簡単な四則計算ができるように教えたけど、教えなくても分け合う事を知ってる子供たちだった。
親切と努力の二乗は無限大だった。そこかしこにちっちゃな挫折はあるんだけど、みんなが励ましあったり支え合って、日々真面目に生きていくんだもん。
うるっときちゃう。

ダンジョンの真上にあった小さな家はいつの間にやら孤児院になり、ダンジョン上でも栽培できる薬草園ができて、薬を作る作業所ができて、薬を保管する倉庫ができて、子どもたちに勉強を教える小さな学校もどきができて、教える人手が足りなくて年長さんが孤児から教師にジョブチェンなんて事も起きた。

古い薬のレシピを読んでやったら古代語の研究が進むぅぅって変な学者の一団とかが住み始めるし。

吸収が早いもんだから子供ながらに三ヶ国語話しちゃったり、賢くて医者に養子に貰われていったり、薬師ギルドに加入して仕事を始める子も出始めた。孤児同士で結婚して、家を建てるものもいた。


「ねぇねぇ、ユーヴュラと先生の間に赤ちゃんはいつ生まれるの」
なんておしゃまな小さな女の子に聞かれて俺はぶっふぉした。俺は先生だとか主様とか精霊様とか色んな呼び方をされていたが、ポジション的にはユーヴュラの嫁として認識されているっぽかった。なんでだーw 

う、生まれましぇん。生物学的に生まれまちぇん。


「じゃあ可愛い赤ちゃんがいっぱい生まれるようにお祈りしてあげる。それであたしおねえちゃんになってあげる」

おねえちゃんにはしてあげれないけれど、この子はいずれきっと良いお母さんになってたくさん子供に愛情を注いでくれるだろう。

真面目な話、俺たちの間に子供なんて出来はしないけど、誰一人として血は繋がってないけど俺とユーヴュラの子として、子供たちはいろんな所へ旅立って行った。
もうそれで十分だよ。うむ。
 

ここはダンジョンのはずなのに、上の敷地には薬草園や小さいながら村ができて、先にあった街との間に細い道ができて物の売買を通した人の流れが生まれると、地下のダンジョンは一気に大きくなった。

魔王曰く、表上部が繋がった事でダンジョンの一部として認識されて、古い街で今まで亡くなった人々の魂が自動的にダンジョンに捧魂ほうこんされたからだそうだ。
この方法は昔ならダンジョン主同士が境界線上で総力でぶつかりあってお互いの物を奪いあいどちらかを殺し尽くすような激しいもので、昨今こんな平和的な拡張は珍しいぞと魔王はご満悦だった。
よ、よよよ良かった。殺し合いとかにならなくて本当に良かった。
怖くてちびっちゃうよ。



ユーヴュラは今日もにこにこしている。極上酒の瓶を片手に、俺たちは久々にゆっくりお月見なんかをしてみた。

ユーヴュラの髪は白くなり、皮肉っぽかったしわは今はもう笑いじわになって定着していた。手は相変わらず俺より大きかったけど指は細くなり萎れた木の枝みたいになってきているのが俺は悲しかった。ユーヴュラは同じ歳の人よりは少し若く見えるけど老いは止められない。俺はいつまでたっても変わらないのに。置いていかれる気がした。そしてそれは避けられない未来だった。


「最初はここを処刑場にしようかと思ったんですけどね」

ひぇっ!?
ユーヴュラは突然脈絡も無く物騒な事を言った。

「どうやったらダンジョンに長く血を安定供給できるか考えていたんです。でもあなたの上に極悪な強盗やら強姦魔やらの血が降り注ぐかと思うと嫌でした。だからといって自分が手を汚して人殺しになるのも嫌でしたし、結局こんなに時間がかかってしまいました」

俺が清らかな精霊やなんかじゃなくて、洞穴管理人だんじょんきーぱーなんて妙ちきりんな魔物なのを知った上でユーヴュラはずっと協力してくれていた。

「本当は協力者ではなくて恋人になりたかったんですがねぇ」

なんかわかんないけどその言葉に俺の涙腺が決壊しちゃった。だーだーと涙がこぼれ落ちた。

「お前は恋人じゃなくて、もっと…もっと大事な、俺の一部だ」
なんで永遠に覚えていてもらえるような綺麗な顔で笑えないんだろう。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってちっとも格好良くさせて貰えずにぎゅぅっと抱きしめられた。


ユーヴュラに老いと死という避けようのないものが訪れるのを心の奥底で怯えながら、表面上はにこやかに穏やかに日々は過ぎていった。


そしてユーヴュラは本当に最後まで俺を翻弄した。



悪戯小僧共を相手に教鞭をふるっていた俺の内部に強烈なアラートが響いた。四方八方から鐘を打ち鳴らしたみたいに聞こえる。
魔王にあれこれされてる時でさえ鳴らなかった緊急警報エマージェンシーコールだった。

【ダンジョン最深部に到達者あり】
【ダンジョン最深部で核が侵食されています】
【核を多く侵食されると統治権を失います。廃除しますか】
【侵入者ユーヴュラによって核を侵食されています。廃除しますか】

俺の体は水の中に足を入れたように床を抜けて地中に引きずり込まれた。
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