上 下
85 / 110

85 ワクワク! スパイ大作戦

しおりを挟む
 「あのプリ◯ス運転してた奴、元上司だったわッ!」


 ソフィアがぷりぷり怒っているのを見下ろす従兄達2人。


 「アタシが死んだ後で里奈ちゃんも殺したのねッ! 絶対に許さないんだからッ!!」


 なんとあの暴走車の運転手はソフィアの前世の社畜時代の部長だったらしい。


 「なんちゅうか、酷いな?」

 「ああ。あんな金属の塊を扱うのだからもっと慎重に動かさんと民が迷惑するな。アイツは縛首刑でいいんじゃないか?」


 異世界の王子様は流石言うことが物騒である。


 「まあ、警察にしょっ引かれて行ったみたいだから、何らかの処罰はされるでしょう。こっちの世界の法律に任せる事にして、次行ってみよー!」


 ソフィアはノリノリで次の作戦に移るようである・・・


 「結局ノリノリじゃねえか」


 従兄は肩を竦めたが婚約者は片方の眉をいつものように上げただけだった。



×××



 真夜中の企業ビルはハッキリ言って不気味だ。

 昼間なら人が大勢働いていて建物自体が生きているように感じられるのだが、夜になると全くといって良いくらいに生命の息吹が感じられない。

 時計の秒針が時を刻む音や時折モーター類の微かな音がして偶に真っ暗な中で赤や緑の電源ランプの小さな光が見えたりするのだが、それが却って気味が悪く感じられる。

 そんな無機質な建物の一角。

 たくさんオフィスデスクが並ぶ部屋にソフィア達は移転してきた。


 「さてと~ 元会社に潜り込んだけど研究室は後回しっと・・・」

 「どうするんだ?」

 「最上階にある社長室に用事があるかな? 後は秘書室の金庫と、元上司の机は、ここの辺りだったような・・・ お。あったあった」


 デスクの引き出しの中から鍵束を引っ張り出すとニンマリ笑うソフィア。


 「私の研究結果とか、絶対に金庫の中だからね。返しても~らおう」

 「別に鍵などいらんだろう?」


 顎に手を置いて呆れ顔の婚約者。


 「え?」

 「魔法を使えるだろうが。体内に温存した魔力が尽きない限りは使えるだろう? 此処にどうやって来たか考えてみろ」

 「・・・そうだった。ついスパイ映画みたいにワクワクしちゃって忘れてた」


 言われて初めて目が点になったソフィアである。


 「なあ、スパイって何だ?」


 キョトンとしたアジェスとシルファの顔を見て後で007でもブルーレイで探すか~、と苦笑いをするソフィアだった。



×××



 「名前も書いてないのにどれが自分のなのかよくわかるなぁ」

 「自分の考え出したものだからね。試作品は研究室のだろうと思うけど。ファイルは一纏めにしてるみたいね」

 「何で使われてないんだ?」

 「私の考えるものは次世代機器って言われてたから、世に出すには早すぎるって言われてたのよ。売り出すには時期を見計らうってよく言われてたの」


 表紙部分に㊙マークの入ったファイルを次々に机の上に置いていく。


 「だから当分売り物にならないって。悔しいからすぐ売れそうなものも作ってたけど。こうやって置いてるって事は海外に情報を売りさばくつもりだったのかもね」

 「コピーはないのか?」

 「さあ?」

 「フム。追いかけさせるか」


 シルファがファイルに手をかざすとキラキラとした光の粒がファイルの周りをくるくると周り、部屋の外に出ていく。


 「何かあるみたいだな探索魔法サーチに引っ掛かった行くぞ」


 部屋を出る前に、ソフィアが指を鳴らすと机の上の書類が舞い上がり次々と燃え尽きて灰が机に降り注ぐ。


 「勿体なくないか?」


 2人が心配するが、


 「別に。頭ン中に入ってるから。それに魔法で構築する方が手っ取り早いよ」


 廊下を歩きながら肩を竦めた。


 「ここだな」

 「なんだここ? エラく厳重な扉だな?」

 「研究室、でも記憶にあるとこじゃないから他部署だわ。まー私が死んじゃったから続きを別部署に任せたんじゃないかしら?」


 その1時間後。


 研究室内で火災警報器が誤作動を起こして、警備員が慌ててやって来たが部屋に特に異常はなかった。


 但し翌朝、研究員達の机の上は灰だらけで過去社員だった者が作っていたとされる試作品も資料も全て焼失していた為、警察を呼ぶ騒ぎになったのは言うまでもない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...