上 下
77 / 110

77 前世の君も俺の愛する人だから 〜王子視点⑩〜

しおりを挟む
 『通常なら蓋は閉じてる。その短い偶然を引ける強い意思や魂だから飛び移れるんだ。それってすごい『強運』でしょ?』


 魔人だか創造主だかよく分からん『ポチ』と名付けられた新しいソフィアの従魔がそう言った時、ハッと気が付いた。

 この幼馴染み兼自分の婚約者でもあるソフィア・レイド・グレーンは、元々こんな魅力的な人物ではなく、どこにでもいる貴族の令嬢だったかもしれないという事に。



×××



 ソフィアは前世30歳近くまで生きた女性だった過去があり異世界転生者だと12年前俺に告白した。

 それを1度でも疑ったことはないけれど彼女と同じ世界から転生してきたという目の前の女魔術師と『ポチ』が現れて色々な話を聞いていてみて、今迄ソフィアから聞かされた内容は彼女の頭の中で構築された想像の産物ではなく、過去現実にあった出来事だったのだということを改めて実感した。

 ということは、彼女をに追いやったという『キギョウ』とやらの『ジュウヤク』とか『ジョウシ』とやらも別の世界に存在するということだ。

 過労で転落死。


 ソレはこの世界でもあり得る事だと思う。
 だけど彼女は好きで過労で衰弱していたわけじゃない。

 単に責任感とその環境から逃れられない重圧から来たものであって、多分だが彼女の元々の生命力や強い意志が弱っていたわけじゃないのだ。


 『ポチ』は世界を渡れるくらいの『強運』の持ち主だからこそ異世界渡りをして生まれ変わったのだと言った。

 もし元の彼女がそれだけの強運の持ち主ならば。

 彼女が普通の健康体だったら。

 死ななくて済んだかもしれないということじゃないか?


 ――この世界で俺の眼の前に現れた、とんでも無くおもしろくて可愛い婚約者は偶々過労で弱っていた。

 だからこそ、ここに、俺の隣に座っているんだ――



 そう思ったら、自然と自分自身の強運にも感謝した。

 彼女を婚約者にする事を可能にした出自も。

 有無を言わさず周りを納得させるように立ち回った努力も。

 彼女を丸め込むだけの悪知恵を働かせる事ができるだけの頭脳も。

 俺自身に与えられた素地こそが俺の強運だったんじゃないかな?


 ――全て鍛えようとしたのは彼女がいたからだけど――


 他の魅力のない令嬢相手だったらどうでも良かっただろうという事は自分自身が1番自覚している。

 彼女が今の彼女だったから奇跡的に俺がそう動いたに過ぎない。

 なんせ手綱を握っとかなきゃどっかに逃げて行きそうで不安だったからな・・・。






 だとしても。


 彼女を死に追いやったという『キギョウ』とやらの『ジュウヤク』とか『ジョウシ』は許せんな。

 彼女が俺のもとに来てくれたという奇跡はありがたいと思うが

 前世の彼女を雁字搦めにした事は許し難い・・・


 何か報復はできないものか。


 俺は宙に浮かぶ丸い霞のような『ポチ』をじっと見つめながら思考の海に沈んだ。

 箱庭・・・ 成る程。

 使えるかもしれんな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...