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99. 立場
しおりを挟む「目的を達成するには、そこに行き着くまでのプロセスが必要です。今回『災厄』を防ぐ為にあなた方は私達2人を召喚しました」
「「あ、あぁ」」
「この世界に留まる事のできる条件を備え、尚且つ元の世界に戻れなくても不都合のない人物、そしてこちらの世界で膨大な魔力を持ち得る人物。それが私達でした」
「「「「・・・」」」」
「我々はそのままなら死ぬ運命だったのかもしれませんが、それは実のところ誰にもわかりませんのでこの辺りは割愛させていただきます」
「う、うんそうだね」
「『災厄』を押し止めるだけの力量を見込まれ、世界を救ってくれという依頼をされました。我々はこの依頼を達成しました。まあここもいいでしょう」
「「「「・・・」」」」
「ですが、『最高権力』とか『召喚の乙女』とか私達は別に欲していませんでした」
「あ~そうだよね。皆からそう言われてるだけで、別に欲しくもなんともなかった肩書だもんね。だからずっと違和感があったんだ~」
そこで涼子が『パンッ!』と手を合わせたのを見て望が微笑んだ。
彼女はずっと自然体だった――
「そう、言うならば涼子ちゃんも私も貴方がたの都合で流されるままここまで来てしまいました。世界は『災厄』の危機から救われたようですが、『瘴気』の問題や『天人の減少』等問題は残りました。それを話し合う為に今回の会議が行われるのだと私は理解していました」
「私も~!」
涼子が片手を上げた。
「それは今までこの世界で生きて来た人達の過去の精算でしょう。私達にはどうしようも無い事なのです。この先、私達がこの世界に滞在して行くのなら今後は何らかの責任が発生するのかもしれませんがその可能性はまだ未知数のままです」
「あ、それなら・・・」
フィンレー王子の言葉を手で制したのは叔母であるローザ夫人だ。
「そして私も涼子ちゃんもどの国の代表でもありません。そもそも私達は国籍も戸籍も存在しません。一般の王都民ですら無い私達は透明人間と一緒です」
「「「・・・」」」
「身元不明の戸籍すらない我々が各国の代表が招集されて行われる国際会議に招かれるのはあまりにも皆様に対して立場が不明瞭過ぎます。私が望んだのはルーカスとの縁です。涼子ちゃんが望んだのはカインさんとの縁。それ以外を直接求めた事はありませんよね。それを無視する様な行為をそちらがしているのです。私が国の代表のその王女を殺したら誰が責任を取るのですか? 我々にはそれだけの力があります。だからこそ召喚されたのですから」
「「「「・・・」」」」
「だよね~。そもそも意見なんか求められても言えないもん。せーんぜんこの世界のこと知らないもんねッ」
涼子がケラケラと笑い、望が微笑んだ。
「ああああぁあ! もうッ負け負け! 誰だよこんな頭回る乙女なんか召喚したのッ! あ~もう自分だったかぁ~ッ!」
「望が言ってる事は正論だな。彼女達の戸籍を作る事すらまだ進んでいない。陛下と神官長が寄親として明言はしているが、我が国の貴族籍がある訳でも無いから彼女らの身柄を他国が望んでも断ることが難しい状態だ。報奨としての叙爵、せめてルーカスと婚約でも結んでいれば主張はできただろうが、それも不完全だ」
「戸籍ってそもそもどうなってるんですか? それに関して私達役所にも行ってないんですよ? 書類すら受け取ってないです」
「「・・・確かに」」
「色々と急に起こりすぎだよね~だから皆頭が回んなくなるんだよ」
涼子が最後のチョコトリュフを手にとって眺めていたが、不意にフィンレー王子に目を向けた。
「ハイ。あげるよ。そんなに欲しそうな顔しないでよ~もー」
「いや、そんな顔してたか?!」
思わず顔を手で触るフィンレー王子。
「バレバレだよ・・・何いってんだか・・・」
12歳も年下の涼子に負けている・・・でも彼は愉しそうだ。
「ま。甘党だからな・・・」
ノワールがボソリと、誰に言うでもなく呟いた・・・
「ノゾミ様、我が国が後手後手に周りご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ありません」
ローザ夫人が急に頭を下げた。
やっぱりこの人はこの国の王族なんだなと、苦笑いをする望。
「いいえ。このまま流されるより先ずは自分達の立場を明確にしたかったのです。後は今後の身の振り方、つまり生活の場所や収入を得る為の仕事などが不透明すぎて不安だったのが1番の理由です。私達はこの世界のことを何も知らなすぎるんです。それでは何1つ自分で決められませんから」
「そーそー。べっつにセックスしなくてもこの世界から消えないんなら私だって慌てて恋人とか伴侶候補とか決めなかったしさ~」
「「「「は?!」」」」
望以外が全員涼子の顔を凝視した。
「だってさ~他の誰にも会ってないじゃん。その中で選ぶならカインさんでしょ? 美少年好きだし。そもそも私元々独身主義だったし。あ、でもカインさんとお付き合いはお願いしたいかな? 顔も性格も好みだから」
「「「「はぁ~?! 独身主義って・・・」」」」
「うん。博愛主義者だからね。そもそも性別も気にしないんだよね私」
「「「「えええ~!!」」」」
王族4人を驚愕させる涼子を大物だな~と呑気に思った望である。
「あ、そうだ。神官長のじーちゃんの養女にしてくんないかな~? そしたら神殿に住めるから毎日カインと一緒に暮らせるから」
「「はぁ? 兄妹になるぞ?」」
「え? 別にいいじゃん。独身主義って私言ったよね? 結婚したくなったらその時に真剣に考えるよ」
「「「「「・・・」」」」」
自由奔放。
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