上 下
98 / 101

98. 国家間協議の行方など知りません

しおりを挟む


 「ウ~ン、じゃあ2人共どうしても出席するのは嫌なの?」

「ええ」

「うん」


 望と涼子の返事に続き


「そもそも偽の王印が使われた時点で『召喚の乙女』と『トランジア王国』の信頼関係にヒビを入れようと企んだという疑いがあります、ソレが解決しないうちは彼女達の身の安全を考えても出席などさせませんわ」


 とローザ夫人が扇で口元を隠したままニッコリ笑う。

 ――ローザ夫人めっちゃ怒ってるよね~・・・


 王子達が遠い目をした。


「もちろんルーカスもそうですが、カイン副神官も同様、出席は危険を伴います。こう言ってはお袈裟と思うでしょうが、偽王印を使った者も、噂をばら撒いた者も狙いは『召喚の乙女』と、その『伴侶候補』なのですからね」


 ローザ夫人が目つき悪く言い切った。


「まずニセの王命書」

「次に王印の有無の確認」

「リョーコ様とカイン副神官に関する噂の出所」

「ノゾミ様とルーカスの婚約」


 王子たちの眼の前に握りこぶしを差し出し1つ1つ指を立てるローザ夫人・・・


「これらが解決するまでは、はっきりしたお返事はできません。陛下にもそうお伝え下さい」


 最後にニコリと笑う笑顔がひっじょーに怖かった・・・。



×××


 それまで口を閉ざしていた望が口を開く。


「そもそも私達がこの世界にやって来てからやっと今日で1週間です。その間に色んなことがありすぎて、滞在期間がもっと長い気にもなりますけど・・・」


 望が正面の王子達に真っ直ぐ顔を向けた。


「陛下達にもその事をお気遣いして頂き、更にこちらの心情まで心配をしてくれありがたいと思います」


 皆が頭を下げる望を見つめる。


「ですが国家間の問題を協議する場に私共が出席するのはおかしいと思うのです」

「へえ。望は何でそう思うの?」


 フィンレー王子が面白そうに目を輝かせた。


「『災厄』を解消するために我々2人はこの世界に召喚されました。その仕事は無事に終了しました」

「ああ確かに」

「本来の目的は達成しました。会社組織で考えれば結果を出した、という事になります」

「「「「「・・・」」」」」


 全員が、ん? という顔になる。


「それに対する報酬を私達は最初から提示されておりませんが、その間の衣食住は保証されていました。それが成功報酬でしょうか?」

「え、いやそういう訳では・・・」


 ノワール王子が、首を傾げた。


「違いますよね?『災厄』が訪れる前に与えられた待遇ですから、云うなれは離宮の滞在は『任務遂行』の為の拠点提供ですよね? 云うなればそちらの必要経費」

「あ、ああまぁ確かにそうだね」

「フィンレー王子殿下は私達2人にこうおっしゃいました『君達次第ってことになるんだけど、我々の世界を守ってくれないか?』と」

「あ、うん確かに」


 馬車の中で言った覚えは確かにある。


「それに関して私は『了承』した覚えは1度もありません。多分涼子ちゃんもです」


 涼子に目を向けると彼女はコクコクと頷いていた。


「あ~・・・確かに」


 一瞬しまった、という顔をしたフィンレー王子に笑顔を見せる望。


「我々は王子達に与えられた任務を遂行し、成果を上げました」

「「「「・・・」」」」

「我々はそれに対する正当な報酬を要求します。『魔女』と『聖女』はそちらが与えてきた肩書であり、私共はその肩書を望んだ訳ではありません。ある意味我々は今だに無報酬で放置されたままです」

「「「・・・」」」

「雇い主はどなたですか? 契約内容は? 成功報酬は? それをおざなりにしたままで次の『任務ミッション』を与えられても首は縦に振れません」

「「え・・・」」

「良い待遇を与えられることで目眩ましをさせられたまま報酬も与えられず次の任務を与えられるって? 私共は貴方がたの奴隷ですか?」

「いえ、そんな事は考えていませんわノゾミ様!」


 ローザ夫人が流石に彼女が本気で怒っているらしい事に気が付いて慌てて声を上げた。

 望――

 実は凄く怒っていました・・・。


「国家間協議の行方など、我々には正直関係ありません。私達は書面で正式に何らかの雇用契約を結んでいる訳ではないのですから」


 望は初手から何かが間違っていると感じていたのだ。

 ビジネスに置き替えれば答えは簡単だった。

 そのせいで、成功報酬が一転二転としてしまう事に望は気がついたのである・・・


「そもそも成功報酬はなんですか?」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】儚げな少年と思って助けたら魔界一最強の魔王様でした。

カントリー
恋愛
「おねえちゃん 僕のお嫁さんになって…」 奴隷の少年だと思い助け、 可愛がったら… 「…約束は守ってもらうからな オーロラ…破るなんてありえないよな?」 魔界一最強の魔王様でした。 これはメイドのオーロラが繰り広げる 魔族の最高頂点の魔王様に求婚されるまでの 異世界ファンタジー。 小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」と少し繋がっています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...