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78. 天人②

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 ――え? 数が減ったのに増えないって言ったよね?!


「っ! 増えないって? 何故ですか」


 ――天人族が絶滅するじゃない!


『そもそも私共は生殖能力はありませんので貴女がたの様に子供というモノを持ちません。性別もないのです。生き物でもないのかもしれませんが、私共はそれを気にした事はありません』


 ――え、生殖能力ない? 性別もない?


「え? 待って?! 生き物じゃない?」


 ニコリと笑顔を見せて頷いてはくれるが説明はないようだ。


「待って下さい。じゃあ浄化をしてくれていたのは何故です? 自分達の世界を守る為じゃないのですか」

『そう云うとして最初からこの世界に存在していたからです。世界を一定に保つ秩序というシステムの一部です。ですが、その機能が年々失われていくのですから、新しいシステムを取り入れなければ滅んでしまいます』


 実に機械的に説明された・・・


 ――天人ってアンドロイドなのかしら? それに新しいシステムって・・・ 


「あ。新しいシステムって、ひょっとしてそれが召喚の部屋ですか」

『そうです今の世代の人達は巧みにに文言もんごんを使い、問題の無い召喚が可能になりました。私共もこれから細々とお手伝いはします。しかし地上の方々が自らを律せなければ淀みは手に負えなくなって行くでしょう』


 彼(?)は手を合わせてその場の全員に向かいゆっくりとお辞儀をした。

 慌てて望と涼子、そしてルーカス健一が、彼と同じ様につい拝んでしまう・・・まるで神社の参拝のようだ。


『それでは最後の仕上げをお願いしたいのですが。私共に純粋な魔力を送り返して下さった貴女のパートナーは・・・貴女ですね?』


 涼子に向かい美しい微笑みを向けた。


『お願いします』

「えっと、ハイッ!」


 涼子は手に持っていた数珠を両手に持ち直し、何かを呟きながら天人に目を向ける。


「南無阿弥・・・」


 ――あ、やっぱソレなんだ。


 望はブレない涼子がやっぱりいいなあ、と思って微笑んだ。



×××



 涼子のお祈りが終わった途端に眼の前の天人の背中にある羽根が大きく金色に1度輝くと巨大化して8枚の翼となり、ハッキリとした輪郭と色を持つようになった。

 やはり最初に思った通り、1枚1枚の翼は違う色をしていた。


『ありがとうございます。これでまた正常に稼働します。それでは、皆様これにて失礼します』


 そう言って又お辞儀をした彼(?)はもう1度だけ望に向き直り、少しだけ首を傾げると


『忘れないでください。魔力に載せた思考は実現します』


 そう言って美しく微笑んだ後、霞のように消えてしまったのであった・・・



×××



 美しい天人が夢のように消えた後、残された望達はそのまま呆然と立ったまま彼が立っていた辺りを見ていたが


「ねえ、これで終わったのかなぁ」


 という涼子の声でハッと意識を取り戻した。

 周りを見回すとローザ夫人を始め離宮の使用人達、ミミやルル、ノワール王子と魔術師達も同様に周りを見回していた。

 用事が終わったとでも言いたげにツノウサギ達はノンビリ餌を食べ始めていたし、望の次のお願いを埴輪達は心待ちにして見上げているようにも見える。


「た、多分?」

「なんか終わってホッとした反面、え? もう? って気がするけど・・・時間は凄く経ってるんだねぇ。早朝だったのにもう夕方になってるよ?」

「え」


 空は茜色に染まり始めていた。


「ねえ、最後に何を祈ってたの?」

「んふふ。実は大して難しくなかったんだよ聖魔術ってさぁ。大袈裟なんだよねこの世界の人ってさぁ」

「?」

「皆が幸せで愛が循環すると良いなって願っただけだよ?」

「・・・やっぱり涼子ちゃんが最強だわ」

「そうかな?」

「そうよ」


 2人は笑いながら手を繋いで


「帰ろうか離宮へ」

「うん」


 そう言って笑った。



×××



 事後処理は様々あれど、今日は休むことが最優先とローザ夫人とノワール王子に言われて私室に帰るとベッドに寝転がった望。


 勿論赤い埴輪達は又ひっそりとスーツケースと共に壁際に立っているし、乳白色の埴輪達は離宮の中に消えて行った。

 カインとルーカスは各々神殿と騎士団へ戻って行った。2人共責任者なのでそれぞれ事後処理があるらしい。
 ノワール王子も同様で魔塔に戻ると言っていたが、彼は天人の言葉を受け止めて難しい顔をしていた。


 望は天人が言っていた事は頭では理解は出来たが心は追いつかないような気がする。ただ彼らはこれからも見えない世界で地上の人達の生むであろう淀みを浄化し続けるんだろうな、と望は思う。

 ――自らを律するかぁ、難しいなあ・・・自分に何が出来るんだろうな。
 

 半分は安心、半分は疲れだろう。

 ウトウトとし始めた望の部屋をノックする音がした。


「はぁい?」


 返事をすると現れたのはルーカス健一だった。


「あ。おかえ・・・」


 全部言い終える前に、彼の顔色が真っ青になりベッドの上の望に向かいすごい勢いで飛びついて来た。

「え! ど、どう? 健一?」

「望ッどこ行くんだッ」

「え?」

「お前消えかかってる」

「えぇ? 何言ってるの?」


 彼の頬に手を当てたが、その手は半透明に透けて見えていた――


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