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75. 続・埴輪ちゃん冒険譚

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 「やだッ! 埴輪ちゃん! 涼子ちゃんを守って!!」



×××



 乳白色の埴輪達はその時、邸の中で警邏続行中だった。

 赤い埴輪達は主の魔法の箱を守っていた。


 ――しかし彼らの主のは絶対である。


 すぐさま行動を開始し、次々と姿を消し始める。


「あ、あれ? レッド隊何処に行くのですか?」


 ――ちなみにレッド隊=赤い埴輪を勝手にメイドのミミがそう呼んでいるだけである――


 最後尾のレッド隊員が、ミミに向かってキャスターをコロコロ転がし赤いスーツケースを持ってきた。

 床に座り込む彼女の肩にポンと小さな手を置いて


『これを頼んだぞ』


 と、託し踵を返して(?)去っていく。


「レッド隊員・・・意味わかんないです・・・」


 ミミが青い顔のままで呟いた。






 意思疎通は不可だったようだ。



×××



 「っわあ~~なになに? 埴輪ちゃんッ?」


 望の叫びを合図に地面からニョキニョキ10センチサイズの赤白の埴輪が大量に生えて来て、思わず横にいるカインに飛びつく涼子。

 かっこ悪く尻もちをつくカイン。


「お、おい!」


 身長差20センチは伊達じゃないのである・・・

 そして

 ――何故俺に助けを求めないんだ? 望?


 と、謎の信頼を得ている埴輪にライバル心を煽られるのは勿論ルーカス健一である・・・チッチャ・・・


 まぁ彼は放置でいいだろう。

 問題は起こさない。

 埴輪達の護衛対象が涼子だから。



 きっと・・・多分・・・大丈夫。



×××



 尻もちをついたままのカインの上に乗る涼子の足元で、次々と小さな彼らは合体して大きくなる。


 どんどんどんどん・・・・


「でかすぎだろッ!?」


 ノワール王子殿下が耐えられなくなってつい叫んでしまった。


 どんどんどんどん・・・


 魔術師達も同様に


「「「「「大き過ぎる!」」」」」


 と言いながら呆然と天を目指して巨大化していく縦長の埴輪を見上げる。


 白+赤で、薄桃色になった埴輪達は際限なく身長が伸びる・・・

 とうとう雲を突き抜け、顔も手も見えなくなる頃にやっと成長が止まった。


「あ。止まった?」

「どーするんだ望? コレ・・・」


 望は、うーん・・・と考えて


「ちょっと上見てくるわ」


 とパチンと指を鳴らした。


 合図で箒のマートルがスイッと望の足元にやってきた。

 実にスマートである。


「俺も一緒に行くぞ」

「え? 2人で乗れる?」


 マートルもわからないらしく人で言う所の首を傾げるような仕草で柄の先を傾け、結んだスカーフの先がクルリと丸くなって頬杖をついたような格好をした。


「自信ないの?」


 望の問いかけにううーん・・・と悩んで箒の柄を縦に振ってコクコクと頷いた。

 熱を加えた千歳飴みたいに先だけグニョンと曲げて頷くのは天晴!あっぱれだ。


「駄目っぽいわね? 許容量オーバーかしら」

「ちッ!」

「行きたいの?」

「ああ。お前が心配だから」


 何いってんの照れるじゃない、と言った風に肘で彼を突付いてから、徐ろに指を鳴らすと。


 『ドンッ!』


 もう既にお馴染みになりつつあるドアが現れ、いつものアイツがやって来た。
 スウェーデン土産のお馬さん――今日は黒である。

 背中のクルビッツ柄が赤黃緑白と非常に目立つ凛々しいやつだ。


「お願い、彼を載せて空を飛んで?」

『ブルル!』


 喜んで、と言った感じで鼻を鳴らすと背中のクルビッツ模様が立ち上がり、蝶のような羽根が完成する。

 いきなりルーカスの襟首をガブッと咥えポイッと空に放り上げ


「うわッ!」


 すかさず飛び立ち、その背で主のパートナーを受け止めた。拍手。


 「じゃマートルもお願い」


 望が声を掛けると、箒は彼女を乗せて空にフワリと浮いた。


「じゃあ、見てくるわ。」

「「「「「あ。はい」」」」」


 その場の全員が呆けた顔で、頷いた。


 この間約3分程度。






 チキ◯ラーメンが食べ頃! 程度の時間の出来事だった・・・





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