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64. 妹〜ローザ夫人視点あり〜
しおりを挟む「・・・と言うわけで、陛下が丸投げしてきたから魔女らしく対応してみたんだけど、皆はどう思う?」
リビングに集まったのは授業中だった涼子と教師役のカイン。ルーカスと望に、メイドの2人。そしてローザ夫人である。
「ノゾミの対応は実際間違ってないぞ。寧ろ王家がやって欲しいと思ってた対応を熟したと言っていいだろうよ」
カインが望の言葉に答えながら面倒くさそうな表情で頭を掻いた。
「今回の事は体よくお前さんが王家に使われたと思っていい。貸し1つだな。いや、勝手に召喚した時点で2つか。まあ1個目は俺達も同罪だがな」
ローズ夫人は静かに頷いてカインの言葉の後を続けた。
「そうです。カイン副神官が言う通り、私共はノゾミ様とリョーコ様に大きな借りがあります。その上今回の事で王家がノゾミ様にまた1つ借りを作っただけに過ぎません」
言葉と共に夫人は1度頭を下げ、
「王家としては不肖の兄ではありますが、家族だから放り出せないというジレンマが元々ありました。ですが今回『ノゾミ様を怒らせた』という負の実績をわざわざ作らせたのはおそらく陛下と重鎮達だろうと思いますわ。そもそも現王子2人が産まれた時点で彼は臣籍降下も出来た筈だったのです」
彼女は額に皺を寄せながら続ける。
「ですが、余りにも女性に関わる素行が良くない事で普通の貴族にしてしまうと、周りの貴族に迷惑がかかるので見送られたのです。又彼の周りの花の中には未亡人や、既に身寄りのない者、外国籍の者等もいる為、安易に蟄居や廃嫡という手も取れませんでした」
――ホントに慈善事業だった・・・
「まぁ、勿論彼が陛下に進言した通り『悪い遊び』の相手であった事実は変わりませんが」
――あ。ね~・・・
「「「・・・」」」
「先代国王は兄妹の中でもアレを特に可愛がっていましたから、その流れで昔からいる重鎮達も彼を邪険にする事ができなかったのも事実ですわ」
「先代は何であんな花畑を可愛がってたんだ?」
望もカインの言う通りだと思う。
「アレでも子供の頃は神童と言われてたんですよ」
ローザは苦い顔をした。
「今のレブナント陛下は当時、そんなに突出して優秀ではありませんでした。どちらかと言うと学問も武術も凡庸でしたが常に人の何倍も努力していました。それを鼻で笑って居たのがアレです。何でも卒なくこなす天才肌だったので、余り努力せずに成果を上げていました。幼い頃は王太子をどちらにするかと周りが悩んだそうです。私は身体が弱くて勉強だけはできましたけど、セオドアは全てに於いて優秀だった為先代のお気に入りだったのです」
「で、可愛がり過ぎで甘やかした結果がああなったってこと?」
涼子が顔を顰める
「そうですね。私や陛下と違い努力を怠ってしまったのでしょう。いつの間にか足りないと思われていた陛下は優秀な世継ぎと認められ立太子し、私は嫁いでいなくなりました。残された彼は中途半端なまま王族として飼い殺しで一生を終えると周りからも思われていました・・・でも」
ローザ夫人が、望の手を取った。
「ノゾミ様が現れて、彼を叱ってくれました」
「? 私?」
「これから陛下がどういった沙汰を下すかは分かりませんが、これで兄もやっと大人になれるのでは無いかと思います」
夫人は複雑な顔をしていた――
×××
執務室として使っている客室に戻ったローザ夫人は幼い頃を思い出し、大きな溜息を付いた――
『ローザ。ほらねお花が咲いてたよ』
寝てばかりで部屋から出られない自分に庭の花を摘んで毎日のように持ってきてくれる自分によく似た兄が大好きだった。
『早く元気になってね。素敵な人のお嫁さんになるのが夢なんでしょ?』
『うん・・・でも外に出られないから』
『大丈夫ちゃんと大人になれば症状は治まるって侍医も言ってるんだから』
『うん。元気になったら兄様と一緒にお庭を散歩したいな』
『勿論だよ、僕がちゃんとエスコートしてあげるから安心して』
2人で本を読んだり、お菓子を食べたり部屋の中でしか過ごせない私には優しい兄だった・・・
『あ。いけない! じゃあね、又明日来るからね。いい子にしてるんだよ?』
『? はい。またね兄様』
部屋から去っていく兄をベッドの上から見送った。
暫くしてノックの音と共に、現れたのは貴族のご令嬢達だった。
『王女殿下、セオドア様はおいでにはなられておりませんか?』
『いえ』
『そうですか。失礼しました』
彼女たちは礼儀正しくお辞儀をして出て行った。
――あら? おかしいわね・・・今になってよく考えてみたら、セオドア兄様ってあんな幼い頃から女誑しだったんだわ・・・
ローザ夫人は改めてセオドアを叩き直す機会をくれた魔女に感謝し、望を遣わしてくれた女神に感謝の祈りを捧げたらしい・・・
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