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58. 責任重大じゃん!
しおりを挟む『絶縁状を先程送りましたから、大丈夫です!』
ローザ夫人に胸を張られ自信満々でそう言われても困るのは望である・・・。
トボトボと自室に帰りながら考える。
――え~と・・・私と健一がイチャコラしてるのは確かにココだけ。しかも見えない所でしかしてないんだけど・・・全部筒抜けっぽいけど・・・でも、侯爵様は知らない訳で・・・ハッ! そもそも会ったこともないし!
今気がついた望である。
――それで信じて貰えるというのが奇跡なのかもしれないよね~・・・
「涼子ちゃんみたいにパーティーで宣言したわけでも無いしなぁ・・・そもそも冷血騎士様が、異世界から来たばっかりの魔女にお熱を上げるっていうのが周りも信じられないのかも・・・」
――うう~ん・・・しかも、もうすぐ問題の人が来るんだよね。昨日健一にケンカ吹っ掛けてココに帰るのを阻止して、私を寝不足にした張本人が・・・
上の空で自室に帰ると、軽食が並べられていた。
「午後早く王弟殿下がおいでになるとの事ですので、早めの軽食をお持ちしました」
――ミミちゃん仕事早いなあ・・・トホホ・・・
「お着替えもありますので。勿論今日はコレですよね」
ベッドの上に構えられていたのは、昨日魔法で作ったばかりのルーカスの瞳のような群青色のペンシルラインのドレスと、花の形を象ったシルバーの土台にローズカットの黒曜石が飾られた、黒いベルベット素材のチョーカー。
そしてチョーカーとそっくり同じ形の髪飾り・・・
ミミちゃんは敏腕メイドさんだった。
×××
「え~じゃあ横恋慕? ってこと?」
涼子がスパルタ教育の休憩中に望の部屋にやって来て、またしても着替えているのを見て不思議に思ったらしく、何があるのかを根掘り葉掘り聞いてきた結果全部吐かさせられる羽目になった。
「そうなの」
「うわ~・・・てか、わざわ陛下と重鎮が揃ってる時に突っ込んでいって、行動を改めるっ! て宣言した訳でしょう?」
「らしいね」
「確信犯じゃんソレ。その王弟って頭脳派かも知れないねえ。今までは王族として問題ありだから結婚して無いわけでしょ?」
「じゃないかな~とは思うけど・・・」
「望さんが妻になったら王家は魔力の取り込みが又出来る訳だし、放蕩オヤジも大人しくなるし、一石二鳥って考える人がいそうじゃん」
「・・・」
「ローザさんも元王族だから、ルーカスさんも王族の血は流れてるけどさ。所詮侯爵家だもん」
「あ・・・」
「どうしたの?」
「だから、離縁して・・・」
ローザ夫人の執務部屋から退室する直前に、
『ルーの親権は元々私です。侯爵様と離縁した暁にはルーは私と共に侯爵家から離れる事が最初から契約で決まっていますから大丈夫ですの』
と。
きれいな笑顔で微笑んでいたローザを思い出しその事を涼子に告げると・・・
「うわぁ~・・・責任重大だぁ」
「あ。やっぱり・・・?」
「うん。実家に帰ったらローザさんが王族に返り咲くわけでしょ? てことはルーカスさんも王族に加わる訳だし、今から押しかけて来る王弟と立場はほぼ一緒って事になるもんね。若い分ルーカスさんのほうが有利かも。周りの人達が望さんとの間に生まれてくる子供に期待してるんならさぁ・・・そのおっさん45歳だっけ? いくらイケオジでも種が古いよね~。種は新しい方が発芽し易いの常識だもん」
「・・・種・・・発芽・・・そうね」
えらい事態になったもんだと思い切り肩を落とす望である。
×××
その頃、王国騎士団長であるフォルテリア侯爵の執務室で絶叫が響き渡った。
窓の外で囀っていた小鳥達が慌てて飛び立ち執務室のすぐ窓の下にいた鍛錬場で訓練中の騎士達がぎょっとした顔で、自分達のボスの部屋を見上げていた。
「うわぁああぁッ! ローザがッ! ローザがッ うわぁ~あぁあ!!」
ガタガタと何かが倒れる音と共にドアが乱暴に開く音がしたと思ったら、続き廊下を血相を変えて走って行く騎士団長の背中が見えた。
「なんだ、アレ?」
「団長、顔色悪かったよなぁ・・・」
「夫人の名前叫んでたから、また夫婦喧嘩じゃねーの?」
「「「どうせ負けるのになぁ」」」
部下の皆さんはよくご存知である。
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