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57. 離縁の危機・・・!?

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 「申し訳ありません」


 出会いがしらからいきなりローザ夫人に頭を下げられ途方に暮れる望。


 ここは彼女が執務をこなすために滞在する客間だ。

 因みに聖女と魔女向けに構えられた客室は3階にあるがローザ夫人が滞在する場所は2階にあり、その斜向かいの客室はルーカスが滞在する場所だ。

 当然今はいないが。


「何かありましたか?」

「あった、というかありそうと言うか。実は兄がノゾミ様を妻に迎えたいと言い出しまして・・・」

「あ。あぁ~・・・」


 昨晩ルーカスから聞いたな、と目が泳ぐ望。


「私としましては、兄は絶対にお勧め出来ない人物なのです・・・」


 ――実の兄なのに?


「実の兄だからこそ言えるのですが、あの女性に下半身の緩い男など女性の敵です」

「おうふ・・・成程」

「あの人に似た顔で、昔は苦労しましたのよ? 私が女性にしか興味のない王女と言われた時期があったんですの。あの時の屈辱今でも忘れられませんわ・・・」


 そう言いながら夫人の握り拳がプルップルに震えているのが目の端に引っかかった・・・

 目が笑っていない・・・



×××



 「昔から私を猫可愛がりしてはいましたが、あの人は自分の顔が好きなだけで、別段私の事を大切にしていた訳ではないのですわ」

「・・・」

「小さい時はそれがわかりませんでしたけれど思春期になれば自ずとああ、私を隠れ蓑にして貴族子女に近付いていいようにしてるな、と気が付きまして極力距離を取ってからはその手も通用しなくなったら、今度は正攻法で女性を誑し込む技術を身に着けて悪い遊びを始めましたの」


 ――コイツって淑女が言ったちゃったよ・・・しかも技術って・・・詐欺?


「そんな訳で捌きさばききれないほど愛人を囲っておりまして、未だに独身なのですが、どうやらこの間のお披露目パーティーでノゾミ様を見初めて妻に欲しいと、陛下に直訴したらしく・・・」


 ――直訴って・・・


「『悪い遊びはもうしないから魔女殿を妻に貰いもらい受けたい』などという厚かましい世迷言を陛下と重鎮の前でほざいたらしいのです」


 ――あ~、直訴ね。確かにね・・・え? ほざいた?


「で。陛下が」

「? 陛下が?」

「『それならば直接魔女殿に告白して来い』と言ったらしく・・・」

「はぁ・・・」


 ――陛下、私に丸投げですかい? フィンレー王子と一緒だわ。



×××



 要するに、今日の午後ここに訪れたいという先触れが先程来たらしい。


「はぁ、成程」

「しかも陛下と重鎮の会議はノゾミ様と、ルーカスの婚姻許可証を作るか否かという話し合いだったらしくて。そのせいで発行が遅れてしまいましたの・・・」


 最後は手元に置いてあった扇子をへし折りそうな勢いで両手で曲げながら、額に青筋が立っていた・・・



×××



 『コホン』と一旦落ち着こうと、咳払いをするローザ夫人。


「あと、実は許せないのが、夫なのです」

「え? 侯爵様ですか?」

「ルーカスとノゾミ様がここで仲睦まじく過ごしているという私の言い分を全くもって信じておりませんの。『あの無表情男が女性に睦言など言えるのか??』等と申しまして。『一目惚れなど信じられん』と言い出す始末」


 ――あぁ~成る程。普段の鉄面皮のルーカス健一から考えると、信じられないのかも


「挙句の果てには、兄の面会を勝手に許してツノウサギ達の警備を緩めましたの。例の公爵のドラ息子騒ぎで通過人員制限をルーカスが掛けていたのに」

「え、侯爵様がそんな事できるんですか? 警備隊のリーダーじゃないのに?」

「王族の護衛騎士団は、王国騎士団に所属する別働隊ですから。夫は騎士団長権限が使えるのですわ」

「あー。成る程」


 ――上司権限かぁ・・・


 成る程ねえ、と納得している望に向かって夫人がにっこりといい笑顔になり・・・


「あの人には絶縁状を先程送りましたから、大丈夫です」

「えッ?! 絶縁状って! え? 何が?」

「婚姻した時に交わした約束ですのよ? 『夫婦で信じ合えないと感じたら即離縁して実家に帰らせていただきます』というのが」


 うふふふと笑うローザ夫人。


「ええええぇ~・・・・」


 やっぱり目が笑っていなかった・・・


 ――いや、私のせいですかね? 


 と思わず天を仰いだ望である・・・・


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