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49. お墨付き

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 『コンコン』


 ドアをノックする音がして、現れたのはルーカスだった。

 今日は見慣れたいつもの濃紺の騎士服では無く白いウイングカラーのシャツに臙脂色のジレ、グレーのアスコットスカーフとピッタリとした黒のパンツ姿で休暇という言葉がぴったりだった。


「あれ? 私服なの?」


 ドアから入ってきた彼の姿を見て望が目をパチパチとさせる。


「ああ。披露目の後は夜会の予定だったから、午前中は休みを取っていた。殿下達も今日は午後から動く予定だ」


 パーティー、特に夜会等の翌日の王侯貴族は通常は朝の起床が遅い。貴族同士が交流し情報交換するので真夜中遅くに解散となるのが大分おおかたの理由だ。

 昨日は聖女の暴走と魔女の独断でパーティーそのものが継続不可になった為、早いお開きになったらしく、参加した貴族達も多くは通常の動きだろうとルーカスは言う。


「俺達は人数が少ない師団だから休みはマチマチなんだ。基本的に王族が外出しない日は仕事はほぼ無くて訓練が主だ」

「へー」

「そうなんだ」


 望達のリビングのソファーで座るルーカスが、運ばれてきた簡易の朝食を摂る。

 その隣はもちろん望で、向かい側に座るのは彼と涼子に阻止されほぼ強制だった・・・望としてはまだちょっと恥ずかしいのだが、早く慣れろ、――顔に――ということらしい。

 事情を知らない涼子は顔云々より望がルーカス自体に早く慣れる様に気を使っただけだ。


「昨晩訓練場にフィンレー殿が来て、何故か俺と望の事を祝福して帰って行ったんだ」

「え? 何で?」

「ほらやっぱりバレてるじゃん」


 と、望がニシシと、笑う。


「どうも陛下に関しては、母上が犯人らしい。神官長は・・・」

「あ~カインさん」

「多分な」


 ――そうだあの人って副神官だったわ。忘れてたけど・・・帰った時点で、上司に報告するよね。


 神殿の神官長と、国王陛下。この2人がこの世界では望と涼子の寄親よりおや――保護責任者――なので、この2人の許可がないと異世界の乙女達との婚姻はできないらしい。


「なので、お前と俺は王族と神殿からのお墨付きで今度正式に婚姻誓約書、つまり婚約者として届けられる事になった」

「展開が早すぎるんじゃ・・・」

「母上が陛下を脅し・・・いや、お願いしたのかもしれん」

「「・・・ローザさん?」」


 壁際で猫獣人のメイドとウサギ獣人のメイドがニコニコしていた――



×××



 時間があるというのなら、この世界の『災厄』である『空から降って来る』とういう魔物? の事や歴代の乙女たちの仕事はどういうものだったのかを知りたいと、望と涼子はルーカスに頼んだ。


「離宮に連れて来られたのは単に宿泊施設に来ただけに過ぎないわ」


 と望は割り切っているし、


「そうそう。それよりサッサと仕事を済ませたいよ。実は夏休みの初日に宿題は終わらせる派なんだよね」


 と効率を上げて残る時間ををのんびり過ごしたいという涼子の言い分だ。


「いや、でもサッサと終わらすことが出来るようなもんじゃない。何しろ天人の次の王が決まるまでは続くんだ」

「持久戦か~・・・」

「持久走嫌いなんだよね」

「「・・・」」

「ゴホン、2人はとにかく力を使う事に慣れなければいけないので、各々に指導が付く」

「カインさんとノワール王子よね?」

「そうだ。明日の午後2人が離宮に来るから、それからだな」


 個別指導か~・・・ノワール王子といえばこの世界に健一を連れて来た? 張本人だったな、と考えてふと隣に座りパンを頬張るルーカス健一の横顔を眺めた。


「・・・」

「どうした望?」

「何でもないよ」

 顔が赤くなって頬を両手で押さえて、ふと前に視線を向けると頬杖を付いてニヤニヤ笑う涼子と、その後ろで顔は平静を装っているが三角の耳と長い耳をプルプルさせる獣人のメイドが2人・・・






 ――切実に彼の顔に慣れたい望だ・・・


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