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40. 姿形

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 思い起こせば神殿から離宮に向かう馬車に乗り込む望に向けて、ウルトラマリンブルーの双眸がもの言いたげに瞬いていたような気がする。

 但しその時彼は既に馬に乗っていたので望も何となく気になっただけで、すぐに忘れた。

 なんせ1番最初に目が会った時に睨まれていると思った彼女としては、敢えて関わりたいとは思えない相手だというカテゴリーに彼を振り分けていたのだから仕方ないだろう・・・今更だが。


「そういえば、ツノウサギを初めて見た時に『ディズニーランド』って私が口にしたら簡単に否定してたし、手も離してくれなかったわね・・・それに今朝は涼子ちゃんのスマホを見て『アイフォン』って口走ってたわ」


 色々と違和感はあったな、と思い出す。


「それは1回手を離したら王子達か部下が絶対に望の手を取るから、手を離すのが嫌だったんだけどさ・・・流石にスマートフォンがアッチと繋がってたのには正直驚いたよ。望も翠さんと話したのか?」


 今は望の私室に構えられている小さな応接セットのソファーに2人並んで座っている。

 ラブチェアーサイズなのでぎっちぎちだが・・・

 まあ、好き合った者同士なので問題ないだろう。


「うん。なんで繋がるかはわからないけどアンテナが立ってたから試してみたら繋がったんだよ」

「どういう理屈だ・・・?」


 首を傾げるルーカス健一


「ねえ、それより」

「うん?」

「どうして健一の姿じゃないの? それにローザさんの息子なんでしょう? どういう事か説明してくれる?」


 昔から文武両道だった彼は彼方此方のクラブに助っ人として引っ張りだこだったので大概のスポーツは熟せていた。

 なので馬に乗れようが、剣を振れようが望にも疑問はない。で使えなかった魔法が使えるのは望も同じなので、似たようなものだろう。

 だが姿は完全に別人だ。


「簡単に言うと身体はルーカス・フォルテリア侯爵子息で、中身はお前の幼馴染の稲田健一だよ。さっき言った通り死ぬ間際で魂だけが異世界転移したんだ。ノワール王子の説明だとね」

「じゃあ元々のルーカスさんは?」

「魔物に襲われて魂が消滅したらしい。そういう呪いの一種らしいんだけど、ノワールの魔術で身体だけは生かし続けてて、そこに俺の魂を入れて結局馴染んで今の状態さ。この事は父の侯爵とノワール王子しか知らないんだ」


 呪いに侵され徐々に魂が溶けるように消えていったルーカスは隨分家族想いだったらしい。

 上の兄が自分と同じ様に魔物と戦い死んだせいで、母親が更に弱るのを危惧して従兄であるノワールに自分の身体を託したのだという。


『必ず相応しい魂が何処かに存在するはずだから、その魂を呼び寄せて生き返らせて欲しい』


 それは酷くひどくエゴイスティックな頼みだったし何よりも禁術だった為、頼まれたノワールも隨分悩んだらしい。

 それでもローザ夫人が心配だったルーカスは他に手はないと死に向かう病床でノワールと父親を説得した。

 何しろ彼が魔物に襲われたのは、兄が死んで1ヶ月も経っていない頃で、立て続けに息子を失ってしまってはローザ夫人の精神がもたないとルーカスに言われたのだという。


『私が死んだことで母上にもし何かあれば、今度はマーシャルとリアナが自分達を責めるでしょう』


 その一言で父の侯爵も折れたという。


「ルーカスの下に双子の弟と妹がいるんだが、夫人はその出産時に身体を壊して、本当は今も決して丈夫な体とは言えないんだよ。彼女はこの世界の人間にしては小さいだろう?」

「あ。そういえば小柄だと思った」


 最初に会った時にルーカスのような大きな男性の母親なのに、隨分小柄で華奢な女性だと思った事を思い出した。


「王家には聖女や魔女の血が流れてるから小柄な女性が偶に生まれるんだけど、そういう人は得てして魔力量が他の王族よりかなり多いけど大抵は体が弱いんだ。彼女はまんまそれだよ。理由は分からないけど」


 ルーカスの死の間際の遺言は確かに傲慢だったかもしれない。

 しかし家族を心から愛していたであろう彼の気持ちを望は解る気がした。


 自分だって健一が死んだ時に、何もかもがそれこそ世界が色を失った。

 覚悟の伴わない不慮の死は、周りに悲しみしか残さない。

 ルーカスが家族思いだったからこそ、その傲慢とも言える願いが無関係だった異世界人の健一を結局巻き込むことになった。

 それでも、そのお陰でもう一度健一と巡り会えて心から嬉しいと望が感じている事には違いなかった。






 但し健一のほうは姿が隨分グレードアップしてしまったが・・・


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