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38. 謁見の間③
しおりを挟む涼子の爆弾発言に、大広間はアチコチで論争が起きている。
聞こえて来る声は様々だが、神殿から聖女のパートナーを選ぶのは不公平だという言葉が時折聞こえて来る。
その言葉から察するにこの世界の神官達は伴侶を得ても良いらしいので、涼子にとっては幸いかも知れない――彼女にはこの世界で幸せになって欲しいと思っているからだ。
――収拾がつきそうにないなぁ・・・
大きなため息をつく望。
「こんなにインパクトがある事を涼子ちゃんがやった後で、残った私はどうしたらいいんでしょうね・・・」
思わず遠い目になり、隣に立つフィンレー王子に問いかける望。
できる事なら逃げ出したい気分だ。
「すごいね~異世界の女子高生ってパワフルだねえ」
未だに
「イエ~イ!」
と、目が点になった国王陛下にVサインを送る涼子にハハハと笑うフィンレー王子と苦笑いのノワール。
「好きにやれとは言っといたがなぁ~ここまで自由にやるとは思わなかったよ」
「殿下。収拾がつきそうにありません」
後ろにそっと近寄って来たルーカスが3人に声を掛けてきた。
「そうだね~、じゃあノゾミなんとかして?」
「え? 私がですか?」
「うん、なんかアイデアないかなぁ」
――来たな、丸投げか! この雑把王子様め!
・・・と口には出さず目を細める望。
「何でもいいですか?」
「任せるぞ魔女殿」
急に真後ろからフィンレーそっくりの声がした。
驚いて振り返るとフィンレーによく似た顔に銀縁眼鏡を掛けた王太子殿下が呆れ顔で立っていた。
「王太子様? ですか? はじめまして魔女の望・川嶋です」
「ああ。宜しくな魔女殿。レナートだ王太子をやってる」
何故かそのままの流れで握手する2人。
――なんかツンデレ上司の匂いが・・・
――なんか使い勝手の良い文官の匂いが・・・
ハッと気が付きバッと思わず手を離す2人。
「駄目です王太子殿下。何故か主従関係を一瞬で構築しそうでした。給与と待遇を聞く寸前でした」
「うむ。俺もだ魔女殿。気が合うな。実に優秀そうだ。是非とも部下に欲しいと思ってしまった」
「「「・・・」」」
コホンと咳払いをする2人を、何なんだよアンタら? という目で見るフィンレー、ノアール、ルーカスの3人。
「じゃあ。今騒ぎの中心は涼子ちゃんとカインさんですから、手っ取り早く2人を別の場所に運びましょうか。ついでに私が自己紹介も済ませてしまえば一石二鳥ですし」
「「「「は?」」」」
望がちょっとだけ首を捻り、指をぱちんと鳴らした。
その途端。
国民的アイドルの青い丸い耳なし猫型ロボットがよく使う、ど○でもドアが広間の中央に『ドンッ』と現れて『バタン!』と勢いよく開いた。
そこから出てきたのは、カラフルなペイントを施された白い木馬・・・スウェーデン土産のダーラナホースだ。
但し普通の競走馬サイズでとにかくデカい。
唖然としている王侯貴族を完全に無視して、4本の足を優雅にカポカポと動かして涼子の近くに歩いていくと、彼女の襟首を咥えてポイッと自分の背中に放り上げる木馬。
「え、ええっ!?」
ついでにカインの襟首も咥えてポイッと放り上げる。
「うわっ」
木馬は2人を仲良く自分の背中に乗せて満足気に『ブルルッ』と鼻を鳴らす。
鼻が何処にあるかは謎。
間を置かずに、ドアから飛び出し望の元に飛んできたのはスカーフを柄に巻いた魔法の箒マートルである。
早く乗れと言わんばかりに彼女の眼の前にふわふわ浮いた。
「じゃあ、殿下方。後はヨロシクお願いしますわ」
よっこいしょと彼女は箒に横乗りになるとそのまま空中に浮き上がり、ポカンとしている貴族達を上から見下ろした。
「皆様、お騒がせして申し訳ございません。私魔女の望・川嶋と申します。以後お見知りおきを。陛下?」
「お、おお。これは魔女殿の魔法か?」
「はい。私の魔法です。涼子ちゃんが大変お騒がせしました。良く言い聞かせますので、お許しを」
「う、うむ、大丈夫だ。問題ない!」
「まあ。流石ですわ陛下。御心が広くていらっしゃる。それでは皆様、ご機嫌よう」
望がそう言うと天井から赤い薔薇の花びらがふわふわと降ってきて・・・
次の瞬間には
ドアも。
聖女と副神官を乗せた木馬も。
箒に乗った魔女も。
あっという間に広間から消えてしまった――
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