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32. 仰天

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 望が隣の続き部屋、つまり涼子と2人で使うリビングに異動したのは通話を終わらせしばらくした後、既に昼近くになった頃だった。



×××



 あの後。

 何とか充電が出来ないものかと散々考えた結果、化粧ポーチを点検した時の思いつきを実行してみたのである。

 赤いスーツケースの中、メッシュのサイドポケットに戻すと一瞬で電池残量が100%に戻ったのを見てやはりホッとした。

 母に会えなくとも連絡が取れるのがやはり嬉しかったからだ。

 長い間母一人子一人で支え合って暮らしてきたのだそう簡単には割り切れるものではない――望はまだ生きているのだから。


 朝使って減った基礎化粧品もスーツケースの中に戻すとあっという間に小さな手のひらサイズのボトルに満杯になったのを見て更に納得した・・・


「おお~、便利!」


 試しに救急セットの中からリバテープを1枚引き抜き、またトランクに戻した後で中を確認すると元の枚数に戻っていた。


「魔法の箱だわ・・・」


 何だか赤いスーツケースから後光が差すように見えてついつい拝んでしまったが、忘れずに赤い埴輪ちゃん達にこのトランクを『自分以外に触らさない』ように厳命する。

 こんな便利なモノ誰でも欲しがるだろう。

 盗まれて悪用されたりしたら大変だ。


 そもそもお肌に合った化粧品がなくなってしまうと自分が困るではないか。


 そんな訳で、隣の部屋に行くのが遅れたのである・・・



×××


 「あ。望しゃん、おはようございまふ~」


 涼子がまたしても何かを食べている。


「おはよう涼子ちゃん。良く眠れた?」

「ハイ! ふかふかのお布団があまりにも気持ちよくて、今さっき起きました!」


 ・・・朝食だったようだ。



×××



 「えぇ~~、じゃあ電話が異世界同士でも繋がるって事ですか?」


 隣の私室で色々と試した事を話すと、大きな目が倍のサイズになる涼子。


「私は繋がったわ。涼子ちゃんも試してみたら?」

「オッケーです。やってみます!!」


 サッと肩から掛けたポシェットからリンゴマークのスマホを取り出す涼子。


「持ってたんだ」

「はい。動画撮っとこうと思って、あ~! ホントにアンテナ立ってる!」

「・・・撮ってどうするの?」

「夜寝る前に見ます。昨日はそのまま寝ちゃいましたが・・・おお!」

「おお?」

「繋がりました! お父さん! 私~涼子だよ~! おはよう~!!」


 おはようって・・・電話の向こうから聞き取れない位には早口のフランス語が途切れ途切れに聞こえて来た。

 どうやら泣かれているようで、涼子がワタワタしている。


「でもまあ、適応が早いわね~涼子ちゃん・・・」


 若いからかもしれないが・・・


 通話中の涼子を微笑ましく思いながら、紅茶のカップを手にして良い薫りにうっとりしていると、ドアをノックする音がした。


「ハイ?」

「おはようございます。入室しても?」


 ルーカスの声だ。


「良いですよ、どうぞ」


 昨日と同じように隙の無さそうな感じで群青色の騎士服をピシッと着こなしているな、と思いつつ不意に彼の顔を見て望は仰天した。

 無表情が標準装備と王子達に聞いていた彼の目が見開き、口がポカンと開いていたのである。


「!??」


 彼の視線はスマホを手に両親と話し込んでいる涼子に注がれている。

 そして彼の口から漏れた言葉は・・・


「なんで此処でアイフォンが使えるんだ・・・嘘だろ・・・」



 ・・・だった。



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