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15. ルーカス・フォルテリア侯爵令息①

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 『ここ、何処だ?』


 ルーカス・フォルテリアと呼ばれる青年の記憶はそこから始まる。



×××



 目覚めた時、見たことのないような女神のフレスコ画の描かれた天井に仰天して上半身を起こそうとしたが、身体は全く動かなかった。


「ああ、ルーカス気がついたのね!」


 頭を動かすことも出来ない状態の自分の耳元で、女の声がした。


「良かったわ、旦那様に早く知らせて頂戴、ああ。神様感謝します・・・」


 涙声で神に感謝を述べる女性の声に聞き覚えはなく、誰か他人の事なのだろうなとボンヤリと考えていた。


「半年も目覚めないから、もう駄目だと思っていたのよ。よく戻って来てくれたわね・・・」


 そう言いながら自分の頬をそっとなでた後で声の主は何故か自分の右手を握ってくる。


 ――え? あれ? 俺の事を言ってる?


 ギョッとして彼女の方に何とか頭を動かそうとすると


「どうしたのルーカス? 私はここにいるわ」


 眼の前に金髪碧眼の女の顔が現れた。

 え、誰だよ? と目を見開いて呆然としていると、彼女の目からポタポタと涙の雫が自分の顔に落ちてきた――あ、人違いですと言いたかったが声が出ない。


「ルーカスが目覚めたって!!」


 『バターン!』と大きな音――多分ドアが空いた音なんじゃないかと思うが、それ以上の大声で叫びながらバタバタという足音が聞こえる。


「よく無事で・・・」


 自分の顔を覗き込む黒髪に濃い青色の瞳の男は見事な口髭を生やしていたが、その立派なフサフサの髭は若干水が垂れていた――涙だろうか。鼻水じゃないといいな、と現実から目を逸らすように考えた後でそのまま気を失った・・・



×××



 次に目を覚ました時は誰かの話し声に気がついたからだった――今度は複数の男の声だ。


「じゃあ、上手くいったんですね?」

「ああ、上手く定着したようですね。叔母上にはこのまま何も知らせなくて良いんですか?」

「ええ。彼女は息子を失うことにはもう耐えられないでしょう・・・既に出産も叶わない身ですから」

「確かにそうですが。ルーカスのが違うと気がついたら、もっと酷い事になりかねません。気を付けて下さい」

「ノワール殿下、本当にありがとうございました」

「いえ、ルーカスは俺にとっても従兄弟です。死んで欲しくはありませんでしたから・・・」


 急激に目眩がして、そのまま意識を失った。



×××



 「ルーカス?」


 次に目が覚めたときには、又あの女性が自分の寝かされているベッドのすぐ横に置かれている椅子に座っていることに気がついた。


「半年も眠っていたのだから、声も身体も動かないのは仕方がないわ。それでも戻ってきてくれてありがとう」


 そう言って彼女は又自分の手を握り、微笑みながら涙ぐんだ――






 1ヶ月ほど浅い眠りと突然の目覚めの繰り返しをしている内に知った事は、自分の名前はルーカス・フォルテリアだという事。

 どうやら貴族制度のある国の人間だという事。

 父親は高位貴族の当主で、母親はどうやら元王族である事。

 自分の上には兄が1人いた筈だが、既に死んでいるらしいという事。

 弟と妹が1人ずついるらしいこと――面会謝絶なので未だに会ったことはないが。

 自分は魔物に襲われ生死の淵をさまよい、半年も寝たきりで意識がなかったという事。




 そしてここは異世界でもう2度と元の世界には戻れないという絶望的な真実だった・・・



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