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14. 馬車 

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 馬車の窓から見える町並みは、おとぎの国のように見えた。

 望が向かう予定だったヨーロッパを彷彿とさせるが、フランスではなくオランダの町並みのように可愛らしかった。

 高くても3階建位のアパートのように細長い建物が広い石畳を挟むように立ち並び、1区画ごとの隙間から見えるのは運河だろうか。

 陽の光を受けて水面がキラキラ輝いているのが時折見えた。

 偶にすれ違う馬車は互いに挨拶を軽く交わしているのが分かった。

 御者が片手を上げたり、鳥打ち帽を片手で振ったりるからだ。

 黒塗りで何の紋章も入っていないが、見るからに名のある名家の馬車だろうと思えるような4頭立ての馬車に向かい、皆が皆気軽に挨拶をしていくのが分かる。


「身分制度ってどうなってるんです?」


 思い切って王子達に声をかけたのはやっぱり望だ。

 涼子は窓から見える美しい景色に見入っている。彼女の知っているフランスとは趣きが違うからだろう。


「え? 何が?」

「お2人は王族ですよね? ということはこの国は王政だと思うのですが、すれ違う馬車の御者達がどう見ても身分のある者が乗っていそうな馬車に気軽に挨拶をしていくからです。先程からどう見ても庶民階級に相当する様な馬車とすれ違っても、貴族が乗っていそうな馬車でも区別なく御者同士がコミュニケーションを取っている様に見えます」

「へえー。凄い。魔女殿は観察眼が優れてるんだね」


 第2王子と紹介された金髪碧眼のフィンレーが微笑む。

 ――うーん・・・バター顔。外国の俳優みたいだ。


「ねえ、何か言い難いこと考えて無い?」

「滅相もございません・・・」


 笑顔でしらを切る望。


「この国は他国に比べて領土が小さいんだ」


 そう言い出したのは第3王子と紹介されたノワールだ。

 優れた魔術師なのだと言う。


「だからなのか、確かに身分制度が意外と緩いと他国から指摘は受けることが多いな。王族も貴族も平民も垣根は他国より低いが、それで困るような国家運営ではないと自負している」

「そうなんですね」


 赤毛の彼は、兄に比べて若干厳つい。

 イケメンの部類だがフィンレーとタイプが違う。

 俳優ならトム・クルーズとレオナルド・ディカプリオの違いといえば分かりやすいかも知れない――まあどっちにせよイケメンであることには違いがないが・・・



×××



 「なんで今更・・・」


 黒い立派な馬車に並走しながら、自然とその言葉が口から漏れたのに気が付いて溜息を付いたのは『氷の騎士団長』とか『冷血騎士』とか貴族女性達からやたらと揶揄される男、ルーカス・フォルテリアだ。


「団長? 何かありましたか」


 部下が彼の呟きに気が付いて、直ぐ様彼の後ろから声を掛けてくる。言葉少ない彼が何かを言う時は必ずと行って彼等にとっては何らかの指示があるときだけだからだ。


「・・・いや。気にするな」

「ハッ! 了解です」


 部下は馬の手綱を操りながら少しだけ下って黙って並足を続ける。


 もう1度ルーカスは溜息をついたが、今度は彼も気が付かなかった。




 
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