上 下
3 / 8

この子が欲しい

しおりを挟む
Side兄(イヴ)


誕生日。誰もが媚びへつらうような挨拶を繰返しそろそろ飽きていた頃。
一人の美しい少年が入ってきた。

年の頃は12、3歳くらいだろうか。腰ほどまである美しく艶やかな白に近い銀髪に冷悧な美貌。

誰もがその少年に目を奪われ先程まで騒がしかった会場が一瞬で静まり返るが、少年の方は、対して気にした風でもなく、こちらへと近付いてくる。
少年が一歩踏み出すだけで自然と道が出来る。

「兄上、お久しぶりです。この度は.....」

は?兄上?あまりにも予想外の言葉に少年が何か言っているが頭に入ってこない。

兄上.......そう呼ぶことが出来る人物はひとりしかいない。
遠く離れた地にある別邸へと移された弟.....

「ッルイ.....ス?......なのか」

最後に会ったのはルイスが3歳の時だったはず。
彼の母親、マリアが甘やかしたのだろう。
この頃には既にパーティー太っており、かなり我が儘でこの親にしてこの子ありという感じだったが、まさかこんなに美しい少年になるとは......

「あの兄上?どうかなさいましたか?」

私が片間ッしまったからだろうが、幼子のように首をかしげ訪ねる姿は一見、冷たい印象を受ける美貌とのギャップ?というのだろうか、
何故か守ってあげたくなるような庇護欲と逆に泣かせたくなるような嗜虐心を掻き立てた。


「あ、いやごめんね。何でもないよ、久しぶりだから少し驚いちゃってね。元気そうでよかったよ。」

「ありがとうございます。......ところで少しお耳に入れたいことがあるのですが、よろしいですか?」

先程までとは違いグッと潜められた声。
何だろうね?

「うん?良いよ」「......失礼します。」

ルイスがグッと近付き耳元に口を寄せる。
柑橘系の香りが鼻孔をくすぐる。

「出された料理は一切口にしないでください。」
  
あぁ、やっぱりか。

今日は父上が私を正式な後継者として発表する日。

会うたびに敵意むき出しの視線を投げ掛けてきて、ルイスに幼い頃から「あなたが次期、公爵よ」と言い聞かせていたルイスの母、マリア。

何かあるだろうことは予想済みだ。でも、予想外だったこともある。ルイスだ。
あなたが次期、公爵だと小さい頃から言い含められていたんだ。

当然、ルイスも公爵の座を狙っていると思っていたんだが......やはり罠だろうか

「......そう。でも何故、私に教えてくれたんだい?」

「それは爵位に興味がないからです。そんなものに捕らわれず私は自由に暮らしたい。ですから、兄上には悪いと思いますがあなたには生きていて頂かなくては」

ルイスは真っ直ぐ目を見てそれはもう清々しいほどに言い切ったのだ。

「自分のためだ」と。

......あぁ、面白い。媚びを売るわけでもなく実に真っ直ぐにハッキリと物を言う。
本当にルイスは予想外だ。

「クスクスクスクス。お前は随分と素直に育ったみたいだね。」

「素直......ですか?」

「うん。素直だよ。普通はもう少しオブラートに包むものだろう?」

「そう......ですね。でも、まぁ事実なので......というか兄上は楽しそうですね。先程からずっと笑われてますけど大丈夫ですか?」

「大丈夫。でも、久しぶりにすごく楽しかったよ」

大体の人間は私が公爵家の人間であることを知っている。そして反応は媚びを売るか敵意を剥き出すのどちらか。

その反応に飽きていたし他人にも興味を持てなくなっていた。

それだけにルイスの反応は新鮮だった。

......あぁ、何だろう?今まで他人に興味は無かったのに。ルイスのことはすごく知りたい。......この子が欲しい。

クス。自分から誰かを欲しいと思うなんて

自分の変わりようがおかしくて思わず笑ってしまうと、ルイスに不思議な顔をされた。

「楽しいなら良かったです。まだ、アンリ様(イヴの母)や父上に挨拶を済ませていないのでそろそろ失礼します。」

そう言って一礼しさがろうとしたルイスが息を飲んだかと思うと突如、声をあげた。

「ッ危ない‼ッグ!」

見ればルイスの右肩に深々と矢が刺さっている。

「ッルイス!」

悲鳴があがり周りがざわざわ騒がしくなる。ルイスを抱き止め声をかけるが、目の焦点が合っていない。

「チッ速効性の毒か」

近寄ってきた騎士にルイスを私の部屋に運び、すぐさま医者を呼ぶよう指示を出す。

父上と母上に大まかな事情を話し、パーティーはお開きになった。




ルイスを傷つけたこと死んだ方がましだと思うくらい後悔させてあげる


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。

ジャン・幸田
SF
 銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。  それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・  思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!  

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

処刑された女子少年死刑囚はガイノイドとして冤罪をはらすように命じられた

ジャン・幸田
ミステリー
 身に覚えのない大量殺人によって女子少年死刑囚になった少女・・・  彼女は裁判確定後、強硬な世論の圧力に屈した法務官僚によって死刑が執行された。はずだった・・・  あの世に逝ったと思い目を覚ました彼女は自分の姿に絶句した! ロボットに改造されていた!?  この物語は、謎の組織によって嵌められた少女の冒険談である。

【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目
BL
オメガの富永円(28歳)には、自分のルールがある。 「職場の人にオメガであることを知られないように振る舞うこと」「外に出るときはメガネとマスク、首の拘束具をつけること」「25年前に起きた「あの事件」の当事者であることは何としてでも隠し通すこと」 そんな円の前に、純朴なアルファの知成が現れた。 ある日、思いがけず彼と関係を持ってしまい、その際に「好きです、付き合ってください。」と告白され、心は揺らぐが…… 純朴なアルファ×偏屈なオメガの体格差BLです 18禁シーンには※つけてます

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

Black & white

いっくん
ファンタジー
突如、命を狙われる西園寺凛(さいおんじりん) 必死に逃げるが追い詰められてしまう 絶体絶命かと思われたその時 「生きたいか?」 頭の中から聞こえてくる声 凛はそれに応える 気が途切れる瞬間彼女の目に映る 黒く大きな怪物 目覚めたら病院だった その後も命を狙われる凛 あの時見た黒い怪物は何だったのか? 100年前 呪われた地域とその根源となった一族 西園寺家の末裔である凛 呪いの証である呪印は体に一部に刻まれ 西園寺家とその周囲の人間に 刻まれてしまう そして現代、体に刻まれた呪いは呪印 と呼ばれ呪印された人間は呪印師と呼ば れている 呪印には人離れした力が宿るがその能力 を使うには寿命を削る 呪印の力を使い暴虐のかぎりを尽くす者 が近年社会問題となっていた それに対して出来たのが解印師協会 彼等は光印と呼ばれ呪印を元に作られた 力を体の一部に刻んでいて解印師と呼ば れる 世界は悪事を行う呪印師と解印師が ぶつかり合う 100年前の呪いとは何なのか 一族が知る秘密とは ※キャラ設定にはネタバレを含む部分が多々有りますのでネタバレが嫌な方はスルーして下さい。

カップル奴隷

MM
エッセイ・ノンフィクション
大好き彼女を寝取られ、カップル奴隷に落ちたサトシ。 プライドをズタズタにされどこまでも落ちてきく。。

処理中です...