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風紀委員長様は生徒会長に要求される(休日編)
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はやる気持ちを抑えて、如月の部屋へと電話を入れる。
子機を片手にソファに座りなおす間もなく、相手はすぐに出てくれた。
『……なんだ? 都合が悪いのか?』
「察しがいいな。すまんが、午後から父と会うんだ。夕方までに帰ってもらう予定だったが、展開がどう転ぶか分からなくなった。これから確認するところだから、返事は少し待って欲しい」
『帰ってもらうってことは、ここにくるのか。例の”留司さん”が』
「ああ。たぶんそうなる」
『へえ。俺も挨拶しとこうかな。息子さんを嫁にくださいって』
「渡したいものとはなんだ? なんなら取りに行くが?」
『無視かよ。 ……おまえ絶対ケーキかなんかだと思ってるだろ? 食いつきっぷりが半端ねえ』
「え? 違うのか?」
『……チョロ過ぎる。これじゃ佐藤も苦労するな』
「ん? なんだって?」
『それは夕飯後のお楽しみだって言ったんだ』
「お楽しみ」
『……上の口から、奥までたっぷりと楽しませてやるぜ?』
「あやしげな物言いはやめろ。耳がゾワゾワする」
口から摂取するなら、食べもの決定じゃないか!
『欲しけりゃ夕飯までに保護者をつまみ出せ。話はそれからだ。中止ならブツは他へと流す。いいな?』
「人の弱みに付け込んで、親子の情を断ち切ろうというのか。血も涙もない脅迫犯だな」
『スイーツひとつと父親を、さっそく天秤にかけてる薄情者に言われたかねえよ。じゃあな』
切れた。
スイーツって言ってたぞ。もう百パーセントそうじゃないか!
大きく天秤が傾いだところで、瑞貴から電話が入った。
「……もしもし」
『朝地さんに確認したところ、やはりホテルまで予約しているそうです。外泊決定ですね。これから届けを持っていきます』
「……わかった」
ポンッと煙のようにケーキが消えて、天秤は一気にバランスを失った。
極上スイーツよ、さようなら。
瑞貴との会話を切って、泣く泣く如月へと電話をかける。
「やはり今夜は無理だ。外泊が決まっているらしい」
『そうか。なら仕方ねえな。それじゃ』
……切られた。随分とそっけなくないか?
断わったのは俺の方だが、もっとこう……なんというか……。
慣れない寂寥感に戸惑っていたら、玄関チャイムが鳴った。瑞貴が外泊届けを持ってきたようだ。まずは、やるべきことをやってしまおう。
扉を開ければ、
「よお」
如月が立っていた。
「お邪魔しまーす」
「え? ちょっと待て…」
勝手知ったる様子で、彼はずかずかとリビングまで上がりこむと、テーブルへ紙袋を置いた。
「……如月、それは?」
「やるよ。今回はシェフ特製のスイーツにしてみた。せっかく親父さんが来るんだ。一緒に食えばいいんじゃないか? 土産に持たせてもいいだろうし」
「……」
「濃厚チョコバナナのパウンドケーキだ。好きだろ? こういうの」
外袋をそっと開けると、いかにもチョコたっぷりのケーキが、長方形の紙箱に綺麗におさめられていた。宝箱か!
「……如月。俺はいますぐ、そのシェフを抱きしめてキスしたい」
「まだ食堂にいるが、むさくるしいヒゲ親父だぞ? ひとまず俺にしとけ」
「そうする」
興奮していた俺は、如月を思いっきりハグしていた。感謝の意を込め、両頬にチュッチュッと笑顔でキスをする。おまえは最高の友人だ。次のスイーツも期待しているぞ。
紙袋を大事に抱えて、ひとまずキッチンへと移動した。ずっしりとした幸せな重みに、ますます笑みが深くなる。このまま常温保存で大丈夫だろうか。父さんは喜んでくれるかな?
「如月、コーヒーでも飲むか?」
「……」
返事がない。
キッチンで振り返れば、まだ突っ立ったままの如月がいた。なぜか等身大パネルのようにパッキパキに固まっている。親衛隊なら大喜びで欲しがるだろうが、俺の部屋にはいらないぞ。
「如月? どうした?」
「……なんでもない」
「コーヒーどうする?」
「飲んでく」
「わかった」
再びキッチンへ向き直った俺は、気づいてなかった。
如月が片頬を抑え、目元まで真っ赤になっていたことに……。
「……やっばい。心臓が破裂しそうだ」
子機を片手にソファに座りなおす間もなく、相手はすぐに出てくれた。
『……なんだ? 都合が悪いのか?』
「察しがいいな。すまんが、午後から父と会うんだ。夕方までに帰ってもらう予定だったが、展開がどう転ぶか分からなくなった。これから確認するところだから、返事は少し待って欲しい」
『帰ってもらうってことは、ここにくるのか。例の”留司さん”が』
「ああ。たぶんそうなる」
『へえ。俺も挨拶しとこうかな。息子さんを嫁にくださいって』
「渡したいものとはなんだ? なんなら取りに行くが?」
『無視かよ。 ……おまえ絶対ケーキかなんかだと思ってるだろ? 食いつきっぷりが半端ねえ』
「え? 違うのか?」
『……チョロ過ぎる。これじゃ佐藤も苦労するな』
「ん? なんだって?」
『それは夕飯後のお楽しみだって言ったんだ』
「お楽しみ」
『……上の口から、奥までたっぷりと楽しませてやるぜ?』
「あやしげな物言いはやめろ。耳がゾワゾワする」
口から摂取するなら、食べもの決定じゃないか!
『欲しけりゃ夕飯までに保護者をつまみ出せ。話はそれからだ。中止ならブツは他へと流す。いいな?』
「人の弱みに付け込んで、親子の情を断ち切ろうというのか。血も涙もない脅迫犯だな」
『スイーツひとつと父親を、さっそく天秤にかけてる薄情者に言われたかねえよ。じゃあな』
切れた。
スイーツって言ってたぞ。もう百パーセントそうじゃないか!
大きく天秤が傾いだところで、瑞貴から電話が入った。
「……もしもし」
『朝地さんに確認したところ、やはりホテルまで予約しているそうです。外泊決定ですね。これから届けを持っていきます』
「……わかった」
ポンッと煙のようにケーキが消えて、天秤は一気にバランスを失った。
極上スイーツよ、さようなら。
瑞貴との会話を切って、泣く泣く如月へと電話をかける。
「やはり今夜は無理だ。外泊が決まっているらしい」
『そうか。なら仕方ねえな。それじゃ』
……切られた。随分とそっけなくないか?
断わったのは俺の方だが、もっとこう……なんというか……。
慣れない寂寥感に戸惑っていたら、玄関チャイムが鳴った。瑞貴が外泊届けを持ってきたようだ。まずは、やるべきことをやってしまおう。
扉を開ければ、
「よお」
如月が立っていた。
「お邪魔しまーす」
「え? ちょっと待て…」
勝手知ったる様子で、彼はずかずかとリビングまで上がりこむと、テーブルへ紙袋を置いた。
「……如月、それは?」
「やるよ。今回はシェフ特製のスイーツにしてみた。せっかく親父さんが来るんだ。一緒に食えばいいんじゃないか? 土産に持たせてもいいだろうし」
「……」
「濃厚チョコバナナのパウンドケーキだ。好きだろ? こういうの」
外袋をそっと開けると、いかにもチョコたっぷりのケーキが、長方形の紙箱に綺麗におさめられていた。宝箱か!
「……如月。俺はいますぐ、そのシェフを抱きしめてキスしたい」
「まだ食堂にいるが、むさくるしいヒゲ親父だぞ? ひとまず俺にしとけ」
「そうする」
興奮していた俺は、如月を思いっきりハグしていた。感謝の意を込め、両頬にチュッチュッと笑顔でキスをする。おまえは最高の友人だ。次のスイーツも期待しているぞ。
紙袋を大事に抱えて、ひとまずキッチンへと移動した。ずっしりとした幸せな重みに、ますます笑みが深くなる。このまま常温保存で大丈夫だろうか。父さんは喜んでくれるかな?
「如月、コーヒーでも飲むか?」
「……」
返事がない。
キッチンで振り返れば、まだ突っ立ったままの如月がいた。なぜか等身大パネルのようにパッキパキに固まっている。親衛隊なら大喜びで欲しがるだろうが、俺の部屋にはいらないぞ。
「如月? どうした?」
「……なんでもない」
「コーヒーどうする?」
「飲んでく」
「わかった」
再びキッチンへ向き直った俺は、気づいてなかった。
如月が片頬を抑え、目元まで真っ赤になっていたことに……。
「……やっばい。心臓が破裂しそうだ」
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