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風紀委員長様は飼いネコを愛でる(風紀委員会室編)
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如月から聞きだした経緯は、なんとも拍子抜けする内容だった。
あの晩、俺が父さんの名前を?
まったく身に覚えがないが、寝言ならば当然か。
それでコイツは、友人の恋愛対象が男ではないかと、瑞貴に探りを入れたらしい。
「ベッドで呟く名前はみんな恋人か? 単純な発想だな」
「男はベッドの中では、単純な生き物なんだ」
「俺も男だ、一緒にするな。……まったく、直接聞けば、すぐに答えてやったのに」
「周辺の聞き込みから始めるのが基本だろ?」
「パパラッチか」
とばっちりを受けた瑞貴は、あとで入念にケアしてやらねば。
「謎の【リュウジ】が、まさか父親の名前だったとはなあ。おまえの家族は、みんな名前で呼び合ってんのか?」
「いや俺だけだが、それも昔の話で今は【父さん】呼びに切り替えた」
「へえ。理由を聞いても?」
……パパラッチの取材が、案外しつこい。
「家庭の事情だ。おまえが、そんなに好奇心旺盛な奴だったとは……」
「俺は、おまえの父親が藤堂財閥当主で、天真先輩の弟ってことしか知らねえんだぞ? 友人なら、もう少し心の扉を開いてくれてもいいだろうが。いつもガッチガチに鍵かけやがって。こじ開けたくもなるってもんだ」
「別に身構えているつもりはないが、こじ開けたとしても、俺の中身はスッカスカの空っぽだぞ?」
「ちなみに、藤堂は俺のことを何処まで知ってる? 役職のことは抜きにして」
「上の階に住んでいる同級生」
「……少しは俺に興味を持て」
「もう立ち話はいいだろう。そろそろ行こうか」
役職ふたりがこんな場所で、いつまでも油を売ってはいられない。
しかし俺が歩き始めても、如月がついてくる気配はまるで無かった。
「どうした? ほら、行くぞ」
再び声をかければ、男はようやく動き出す。
「……? 何を笑ってる?」
「いや、別に」
如月が追いついてくるのを待ち、肩を並べて仕事場へと向かう。
他に話すことも無く、その後は二人して無言だったが、別れ際の如月は機嫌よさげに微笑んでいた。
(……なんだコレは)
今日も今日とて、数多くの報告書が机上に提出されていた。
血気盛んな新参者が入る春は、とかく諍い事が絶えず、風紀への通報も多くなる。
椅子に座りパソコンを起動したところで、タイミングよく紅茶が置かれた。
「ありがとう」
顔を上げれば、しょんぼりプルプルしている青白い顔の瑞貴がいた。
「先程は、非常にお見苦しいところをおみせしました」
「仔細は如月から聞いたが……、どんな理由にせよ、風紀委員の身で生徒会長に掴みかかるのは感心しないな。他の生徒に示しがつかない」
「申し訳ありません」
いまにも消え入りそうな声だ。
まんまと如月の挑発に乗せられた己を恥じているのだろう。
「右手を出せ」
「……は?」
戸惑う彼の手首をとって、手のひらを上へと向けさせる。
「れ……玲一様?」
俺はそれを両手で包み込むと、親指で優しくツボを刺激し始めた。
「あ、あのっ! 玲一様? 何をっ!」
「わからないか? 肉球マッサージだ」
「……は?」
「ストレスを抱えたネコを、飼い主としては放っておけないだろう」
「……」
「おまえは俺のことになると、冷静さを失うことが多い。いじらしいが困ったものだな」
ピクンと跳ねた手のひらを、なだめるように揉み続ける。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「……はい。とても」
「左手も出せ」
「はい」
手のひらに視線を向けたまま、瑞貴に語りかける。
彼がいまどんな表情をしているのか、俺にはわからない。
「……玲一様。もう充分です。ありがとうございました」
「楽になったか?」
「はい。おかげさまで目が覚めました」
「ブラッシングもしてやろうか?」
「いりません」
「チャ〇チュールでも舐めるか?」
「調子に乗らないでください」
視線を上げると、いつもの調子を取り戻した瑞貴がいた。
「なにか甘いものをつまみたいな」
「その書類すべてに目を通し終わったら考えます」
……マッサージ前に、ねだっとけば良かった。
あの晩、俺が父さんの名前を?
まったく身に覚えがないが、寝言ならば当然か。
それでコイツは、友人の恋愛対象が男ではないかと、瑞貴に探りを入れたらしい。
「ベッドで呟く名前はみんな恋人か? 単純な発想だな」
「男はベッドの中では、単純な生き物なんだ」
「俺も男だ、一緒にするな。……まったく、直接聞けば、すぐに答えてやったのに」
「周辺の聞き込みから始めるのが基本だろ?」
「パパラッチか」
とばっちりを受けた瑞貴は、あとで入念にケアしてやらねば。
「謎の【リュウジ】が、まさか父親の名前だったとはなあ。おまえの家族は、みんな名前で呼び合ってんのか?」
「いや俺だけだが、それも昔の話で今は【父さん】呼びに切り替えた」
「へえ。理由を聞いても?」
……パパラッチの取材が、案外しつこい。
「家庭の事情だ。おまえが、そんなに好奇心旺盛な奴だったとは……」
「俺は、おまえの父親が藤堂財閥当主で、天真先輩の弟ってことしか知らねえんだぞ? 友人なら、もう少し心の扉を開いてくれてもいいだろうが。いつもガッチガチに鍵かけやがって。こじ開けたくもなるってもんだ」
「別に身構えているつもりはないが、こじ開けたとしても、俺の中身はスッカスカの空っぽだぞ?」
「ちなみに、藤堂は俺のことを何処まで知ってる? 役職のことは抜きにして」
「上の階に住んでいる同級生」
「……少しは俺に興味を持て」
「もう立ち話はいいだろう。そろそろ行こうか」
役職ふたりがこんな場所で、いつまでも油を売ってはいられない。
しかし俺が歩き始めても、如月がついてくる気配はまるで無かった。
「どうした? ほら、行くぞ」
再び声をかければ、男はようやく動き出す。
「……? 何を笑ってる?」
「いや、別に」
如月が追いついてくるのを待ち、肩を並べて仕事場へと向かう。
他に話すことも無く、その後は二人して無言だったが、別れ際の如月は機嫌よさげに微笑んでいた。
(……なんだコレは)
今日も今日とて、数多くの報告書が机上に提出されていた。
血気盛んな新参者が入る春は、とかく諍い事が絶えず、風紀への通報も多くなる。
椅子に座りパソコンを起動したところで、タイミングよく紅茶が置かれた。
「ありがとう」
顔を上げれば、しょんぼりプルプルしている青白い顔の瑞貴がいた。
「先程は、非常にお見苦しいところをおみせしました」
「仔細は如月から聞いたが……、どんな理由にせよ、風紀委員の身で生徒会長に掴みかかるのは感心しないな。他の生徒に示しがつかない」
「申し訳ありません」
いまにも消え入りそうな声だ。
まんまと如月の挑発に乗せられた己を恥じているのだろう。
「右手を出せ」
「……は?」
戸惑う彼の手首をとって、手のひらを上へと向けさせる。
「れ……玲一様?」
俺はそれを両手で包み込むと、親指で優しくツボを刺激し始めた。
「あ、あのっ! 玲一様? 何をっ!」
「わからないか? 肉球マッサージだ」
「……は?」
「ストレスを抱えたネコを、飼い主としては放っておけないだろう」
「……」
「おまえは俺のことになると、冷静さを失うことが多い。いじらしいが困ったものだな」
ピクンと跳ねた手のひらを、なだめるように揉み続ける。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「……はい。とても」
「左手も出せ」
「はい」
手のひらに視線を向けたまま、瑞貴に語りかける。
彼がいまどんな表情をしているのか、俺にはわからない。
「……玲一様。もう充分です。ありがとうございました」
「楽になったか?」
「はい。おかげさまで目が覚めました」
「ブラッシングもしてやろうか?」
「いりません」
「チャ〇チュールでも舐めるか?」
「調子に乗らないでください」
視線を上げると、いつもの調子を取り戻した瑞貴がいた。
「なにか甘いものをつまみたいな」
「その書類すべてに目を通し終わったら考えます」
……マッサージ前に、ねだっとけば良かった。
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