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風紀委員長様も遠回りをする(スーパー編)
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(――如月が来るなら、食材を買い足しておこう)
そんなわけで、俺はいまスーパーにいる。
校内に食料品売り場があるのは知っていたが、これまで足を踏み入れたことは一度もなかった。自室の冷蔵庫は、定期的に瑞貴が買い足してくれていたし、それ以外に欲しいものがあれば、ルームサービスでいつでも届けてもらえたからだ。
だが今夜は、自分で選んだもので料理を振る舞いたい気分だった。
それでここまで足を運んだのだが……。
「ああ玲一様、いけません。そんな高級肉はあのバ会長には勿体ないです。あっちにレトルトが売ってますよ」
「……なぜおまえがココにいる?」
あれこれ献立を悩んでいるところに、ひょっこり瑞貴が現れたのだ。
「……如月が来ることを、いつ知った?」
「たった今です。あなたがご自分の為に、わざわざ食材を買いに来る可能性は低いと読みました。近日中に私が伺う予定もありません。そうなると客は塚崎かバ会長に絞られます。刺激を求めるあなたの性格からして、ランチに誘ったばかりの塚崎を、連続して誘うことはまずありえない。すると残るはバ会長です。たぶん甘い物をぶら下げて誘ってきたんじゃないですか? 以上の推測から、カマをかけてみました。まんまと引っかかりましたね。チョロ過ぎます」
「……おまえは名探偵か」
溜息を吐いた俺を見て、瑞貴がプッと吹きだした。
「……なんだ?」
「いえその、買い物カゴと玲一様という組み合わせが、あまりにもミスマッチで面白すぎて……、かなり注目を浴びてますよ?」
確かに他の買い物客が、チラチラとこちらを見ているな。
「これ以上ギャラリーが増えないうちに、手早く買い物を済ませましょう。そのカゴの中身からして、今夜はアボカドハンバーグでしょうか? トマトを添えると、いろどりが良くなりますよね。カゴはこのカートに載せてください。移動が楽です」
「……おまえ……名探偵通り越して、超能力者になってるぞ」
結局、慣れた瑞貴に助言してもらいながら、無事に買い物を済ませることができた。
初めてのスーパーはなかなか新鮮だった。
「この光景を、藤堂家の使用人たちが見たら気絶するでしょうね。白ネギが飛び出た買い物袋を、玲一様に持たせてるんですから。クックックッ」
「……? なにがそんなに面白いのか、俺にはわからん」
瑞貴から奪うようにして、買い物袋くらいは持たせてもらった。
これは俺の荷物なのだから当然だ。瑞貴は使用人ではない。
ふたり肩を並べて寮へと帰る。……なんだか楽しいな。
「如月の件は、もう反対しないのか?」
「私が反対しても、いつも言うこと聞かないじゃないですか。……それに、バ会長は気に食わないですが、あなたが良しとしていることを、横から妨害する気はないです。ただ、あなたが傷つけられるなら話は別です。誰であろうと息の根を止めます」
「ずいぶんと過激だな」
「ええ。あなたの飼い猫は、とても爪が鋭いんですよ」
クスリと瑞貴が微笑んだ。……ウチのネコ可愛い。
そのとき、寮の方角から見覚えのある顔がやってきた。
あれは確か、同じクラスの……
「……会長の親衛隊隊長です。名前は世羅朔夜」
瑞貴がそっと囁いた。笑みは完全に消えている。
親しくもないので、そのまますれ違うつもりだったが、
「……藤堂様、お疲れ様です。いつもウチの青葉がお世話になっております」
何故か向こうから、笑顔で話しかけてきた。
「……ああ、お疲れさま」
同学年の生徒から、【様】呼ばわりされるのはいつものことだ。特に親衛隊はそういう口のきき方を好む傾向にある。ここで突っ込むのはやめておこう。
ところでこいつは、如月と親しいのか? 親戚かなにかか? その割にアイツは親衛隊を毛嫌いしているようだが? ……まあ、あとで本人に聞けばいいか。
「おやおや、藤堂様ともあろう御方が、そのようなものをぶら下げて……。またずいぶんと庶民的な舌をなさっているのですね。ふふっ」
どこか嘲るような口調で、世羅がなおも話しかけてくる。
相手の意図が全く不明だが、付き合う義理も無いので、終わらせてしまおう。隣りの瑞貴が今にもキレそうだ。
「ああ。この庶民的なネギは、今夜おまえのとこの【青葉】の腹に収まる予定だ。俺の部屋で夕飯を食いたいと駄々をこねられた。本当に世話が焼けて困っている」
「……ッ!」
目を見開いた世羅を置いて、俺はとっととその場から立ち去った。
後ろを付いてきた瑞貴が、とても楽しげに
「……ざまあ」
と呟いたが、俺にはその日本語が、どういう意味だかわからなかった。
そんなわけで、俺はいまスーパーにいる。
校内に食料品売り場があるのは知っていたが、これまで足を踏み入れたことは一度もなかった。自室の冷蔵庫は、定期的に瑞貴が買い足してくれていたし、それ以外に欲しいものがあれば、ルームサービスでいつでも届けてもらえたからだ。
だが今夜は、自分で選んだもので料理を振る舞いたい気分だった。
それでここまで足を運んだのだが……。
「ああ玲一様、いけません。そんな高級肉はあのバ会長には勿体ないです。あっちにレトルトが売ってますよ」
「……なぜおまえがココにいる?」
あれこれ献立を悩んでいるところに、ひょっこり瑞貴が現れたのだ。
「……如月が来ることを、いつ知った?」
「たった今です。あなたがご自分の為に、わざわざ食材を買いに来る可能性は低いと読みました。近日中に私が伺う予定もありません。そうなると客は塚崎かバ会長に絞られます。刺激を求めるあなたの性格からして、ランチに誘ったばかりの塚崎を、連続して誘うことはまずありえない。すると残るはバ会長です。たぶん甘い物をぶら下げて誘ってきたんじゃないですか? 以上の推測から、カマをかけてみました。まんまと引っかかりましたね。チョロ過ぎます」
「……おまえは名探偵か」
溜息を吐いた俺を見て、瑞貴がプッと吹きだした。
「……なんだ?」
「いえその、買い物カゴと玲一様という組み合わせが、あまりにもミスマッチで面白すぎて……、かなり注目を浴びてますよ?」
確かに他の買い物客が、チラチラとこちらを見ているな。
「これ以上ギャラリーが増えないうちに、手早く買い物を済ませましょう。そのカゴの中身からして、今夜はアボカドハンバーグでしょうか? トマトを添えると、いろどりが良くなりますよね。カゴはこのカートに載せてください。移動が楽です」
「……おまえ……名探偵通り越して、超能力者になってるぞ」
結局、慣れた瑞貴に助言してもらいながら、無事に買い物を済ませることができた。
初めてのスーパーはなかなか新鮮だった。
「この光景を、藤堂家の使用人たちが見たら気絶するでしょうね。白ネギが飛び出た買い物袋を、玲一様に持たせてるんですから。クックックッ」
「……? なにがそんなに面白いのか、俺にはわからん」
瑞貴から奪うようにして、買い物袋くらいは持たせてもらった。
これは俺の荷物なのだから当然だ。瑞貴は使用人ではない。
ふたり肩を並べて寮へと帰る。……なんだか楽しいな。
「如月の件は、もう反対しないのか?」
「私が反対しても、いつも言うこと聞かないじゃないですか。……それに、バ会長は気に食わないですが、あなたが良しとしていることを、横から妨害する気はないです。ただ、あなたが傷つけられるなら話は別です。誰であろうと息の根を止めます」
「ずいぶんと過激だな」
「ええ。あなたの飼い猫は、とても爪が鋭いんですよ」
クスリと瑞貴が微笑んだ。……ウチのネコ可愛い。
そのとき、寮の方角から見覚えのある顔がやってきた。
あれは確か、同じクラスの……
「……会長の親衛隊隊長です。名前は世羅朔夜」
瑞貴がそっと囁いた。笑みは完全に消えている。
親しくもないので、そのまますれ違うつもりだったが、
「……藤堂様、お疲れ様です。いつもウチの青葉がお世話になっております」
何故か向こうから、笑顔で話しかけてきた。
「……ああ、お疲れさま」
同学年の生徒から、【様】呼ばわりされるのはいつものことだ。特に親衛隊はそういう口のきき方を好む傾向にある。ここで突っ込むのはやめておこう。
ところでこいつは、如月と親しいのか? 親戚かなにかか? その割にアイツは親衛隊を毛嫌いしているようだが? ……まあ、あとで本人に聞けばいいか。
「おやおや、藤堂様ともあろう御方が、そのようなものをぶら下げて……。またずいぶんと庶民的な舌をなさっているのですね。ふふっ」
どこか嘲るような口調で、世羅がなおも話しかけてくる。
相手の意図が全く不明だが、付き合う義理も無いので、終わらせてしまおう。隣りの瑞貴が今にもキレそうだ。
「ああ。この庶民的なネギは、今夜おまえのとこの【青葉】の腹に収まる予定だ。俺の部屋で夕飯を食いたいと駄々をこねられた。本当に世話が焼けて困っている」
「……ッ!」
目を見開いた世羅を置いて、俺はとっととその場から立ち去った。
後ろを付いてきた瑞貴が、とても楽しげに
「……ざまあ」
と呟いたが、俺にはその日本語が、どういう意味だかわからなかった。
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