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風紀委員長様は電話をかける(自室編)

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 寮に帰ってから、溜息を吐くこと数回……。

 気が重いが……非常に気が重いが、面倒なことは先に片づけてしまおう。
 俺はスマホを手に取り、二年ぶりに親父へと電話をかけた。

『――もしもし、玲……』

 ブチッ!

 しまった。声を聞いたら、つい反射的に切ってしまった。
 いかんいかん、かけ直さないと……あ、速攻かかってきた。

「はい」
『……ああ、玲……、私の玲……ようやく声を聞かせてくれたね』
「……親父」
『親父? いま親父って言ったかい? ああ、なんてことだ。私の可愛い玲が、この二年ですっかり反抗期に……』
「ああ、すみません。ずっと【クソ親父】と脳内で罵倒していたもので、すっかり親父呼びが板についてしまいました」
『……まだ怒っているんだね。しかし電話をしてきたからには、なにかお願いごとがあるのだろう? 後生だから前のように【お父さん】と呼んでくれないか。そんな口汚い言葉は、私の玲には似合わない。悲しすぎて集中できずに、お願いごとも聞き漏らしてしまうかもしれない』
「……わかりましたよ。お父さん」
『玲! なんて素直なんだ』
「それで用件ですが……」
『切り替えが早すぎやしないか? ああ、夢にまでみた玲の生声がようやく聞けた。今日は仲直り記念日だね。カレンダーに花マルをつけてお……』

 ブチッ!

 ……また切ってしまった。
 ひと息つく暇も与えずに、またスマホが鳴る。

「……はい」
『すまない玲、真面目に話をきくから切らないでくれ』
「まったく、お父さんは相変わらずですね」

 離れていれば、少しは子離れしてくれるかと期待したが、むしろ悪化していた。

「俺と仲直りしたければ、裏で瑞貴とやりとりしないでください」
『おや、ばれてしまったのか。玲に告げ口とは、あの子も辛抱が足りない』
「二年もこきつかえば充分でしょう。それに告げ口ではなく【報告】です。彼が悪く言われるのは不愉快です」
『そんなにあの子を気にいっているのか。……妬けるな。オモチャを取り上げてしまおうか』
「もう切ります」
『冗談だよ。わかった、わかった。瑞貴君を困らせていたのは、お父さんが悪かった。反省している。玲と話が出来て浮かれているんだ。これからは定期的に声を聞かせてほしい。それだけがお父さんの望みだよ』
「……はい」

 久しぶりに聞く、包み込むような低く穏やかな声……。
 昔から大好きだった声……。

 海外で暮らしていた時も、この人は頻繁に訪れては、いつも俺のことを笑顔で見守ってくれていた。大事なものを失くしたときも、真っ先に駆けつけ抱きしめてくれた。

 だからこそ、合格していた志望校を無理やり変えられた時は、怒りよりも戸惑いの方が大きかった。一番の味方だったはずなのに何故……、理由も話してもらえなかったのだ。納得できるわけが無かった。

 しかし声を聞いているうちに、怒りで凝り固まっていた心が、次第にほぐれていくのがわかる。結局俺は、この人のことが好きなのだ。

 それに入学してみれば、思っていたほど悪い高校ではなかった。変わり者は多いが、それなりに学園生活を楽しめている。
 結果オーライという事で、もう意地を張るのは止めよう。瑞貴にこれ以上、迷惑をかけるわけにもいかないしな。

『学校はどうだい? 風紀委員長になったらしいが……心配だな。私としては、危険の少ない生徒会に入ってほしかったよ。玲なら軽くイケただろう?』
「兄さんと違って、俺は愛想が足りないですから無理ですよ。風紀の方が性に合います」
『そうか。くれぐれも無理はしないように……』

 そのあとも父から質問攻めにあい、電話を切ったときには、思いのほか時間が経過していた。電話をかける前は憂鬱だったが、かけてしまえば、普通に話せて、心が軽くなっていた。

 兄については……さてどうするか。
 瑞貴のことだから上手く対処するだろうが……、よし決めた。
 さっそく瑞貴へ電話をかける。

『もしもし』
「この先、兄さんからの連絡は着信拒否にしろ。電話もメールもだ。別ルートで連絡がきたら俺に知らせるように」
『……は?』
「おまえはもう兄と話すな、声を聞かせるな。わかったな? 返事は?」
『わ、わかりましたっ!』
「いい子だ。この通話が終わり次第設定しろ。なお、一分以内に設定しないと、そのスマホは自動的に爆発する」
『はああああ?』
「健闘を祈る」

 さて……、やることやったし、風呂にでも入ってのんびりするか。


 まさか瑞貴が、「あの人ならやりかねない!」と爆破解除に本気で焦っていたことなど、そのときの俺は知る由もない。

 もちろん、次の日のおやつは抜きにされた。


 ……冗談の通じない奴め。
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