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風紀委員長様は手料理を振る舞う(自室編)
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「豚肉で生姜焼きでもどうだ? 簡単だし」
「おっ、いいな。頼むぞ奥さん」
「誰が奥さんだ」
メニューさえ決まれば、あとは簡単だ。冷奴と味噌汁もつけてやろう。
米を研いで炊飯器にセットし、早炊きボタンを押す。タレを作って肉を漬け込み、包丁でキャベツの芯を切り落として、トトトト……と千切りにする。フライパンと味噌汁用の鍋を出して……と。
「……本当に手慣れたもんだな」
近くに寄ってきた如月が、物珍しそうに俺の手元を覗き込んできた。
「その腕なら、プリンも自分で作れるんじゃないのか?」
「デザート系は、細かく分量を量らなければならないだろう? 目分量で作る俺には向かないんだ。それにプロが作ったものの方が断然うまい」
「ふうん、そんなものか。……ならオムライスは?」
「自分ひとりのために、オムライス作ってケチャップでハートでも描くのか? さすがに、まだそこまでの心境には踏み込めずにいる」
「二人分なら?」
「お前の分は作らないからな。また話をそっちへ持っていこうとしただろう?」
「ばれたか」
「先ほどのエプロンといい……よく俺にまでそういった冗談が言えるものだ。どうせなら可愛い親衛隊にでも言ってやれ。涙流して喜ぶんじゃないのか?」
「親衛隊の顔見て飯なんて食えるか。俺はおまえがいいんだ」
「もう冗談は飽きた。気が散るから向こうへ行っててくれ」
「……冗談じゃねえんだけどなあ」
後頭部をかきながら、如月はテーブルへと戻っていった。
おかしな茶々のせいで、どこまでやってたか忘れてしまったぞ。
そうだ味噌汁だった。具は玉ねぎと……豆腐は冷奴で使うから、あとはワカメでいいか。サービスでキャベツの横に目玉焼きもつけてやろう。そういえば冷蔵庫に、煮物の残りもあったよな……あとは……。
「ずいぶんと豪華な夕飯だな」
「……作った本人が一番驚いている」
いま自覚した。
俺はなんだかんだで、結構この状況を楽しんでいる。
瑞貴以外を部屋に呼んだのも初めてなら、瑞貴以外に手料理を振る舞うことも生まれて初めてなのだ。つまり、初めての【おもてなし】なのだ。
されることには慣れているが、自分からするのはとても新鮮だ。ついテンションが上がって、料理も作りすぎてしまった。
豚の生姜焼き(キャベツ千切りにミニトマト、目玉焼き付き)がメインだったはずなのに、照り大根と鶏肉の煮物にポテトサラダ、冷奴に味噌汁、白菜の漬け物と……テーブルの上が所狭しと料理皿で埋めつくされている。やり過ぎた。
「食いきれなかったら残してくれても構わないぞ?」
「これくらい軽くイケるさ。すごく美味そうだ。いただきます」
その言葉通り、如月は気持ちの良い食いっぷりで、次々と皿を平らげてくれた。
しかもガツガツとかき込む感じではなく、あくまでも上流階級の人間らしく、箸使いも姿勢も美しくて好感のもてる食べ方だった。
何をしても絵になる男だな……と素直に感じた。
「お世辞抜きでどれも本当に美味かった」
「そうか。それは良かった」
「いままで食べた中で最高だった」
「大げさだな。おまえなら高級料理で舌も肥えてるだろうに……」
「いいや一番だ。藤堂頼む。また食わせてくれ。ひとりで食べるのも味気ないだろう? 毎日とは言わない。週末ならどうだ? 材料費は俺が出すから、この幸せをたまには俺にも分けてくれ。頼む」
「断る」
「もうおまえの味を知らない俺には戻れないんだ。身体が覚えてしまった」
「おかしな言い方をするな」
「そうだ。次回から俺がデザートを持参するというのはどうだろう? あのプリンも持ってこられる。俺が言えばあそこのシェフは何でも作ってくれるぞ? 誰の目も気にすることなく、ここで思いっきり好きなだけ食わせてやる。それでも駄目か?」
「そこまで言うなら引き受けよう。次回はチーズケーキを頼む」
「……相変わらずの変わり身の早さだな」
なんとでも言え。
甘いものこそ正義なのだ。
「おっ、いいな。頼むぞ奥さん」
「誰が奥さんだ」
メニューさえ決まれば、あとは簡単だ。冷奴と味噌汁もつけてやろう。
米を研いで炊飯器にセットし、早炊きボタンを押す。タレを作って肉を漬け込み、包丁でキャベツの芯を切り落として、トトトト……と千切りにする。フライパンと味噌汁用の鍋を出して……と。
「……本当に手慣れたもんだな」
近くに寄ってきた如月が、物珍しそうに俺の手元を覗き込んできた。
「その腕なら、プリンも自分で作れるんじゃないのか?」
「デザート系は、細かく分量を量らなければならないだろう? 目分量で作る俺には向かないんだ。それにプロが作ったものの方が断然うまい」
「ふうん、そんなものか。……ならオムライスは?」
「自分ひとりのために、オムライス作ってケチャップでハートでも描くのか? さすがに、まだそこまでの心境には踏み込めずにいる」
「二人分なら?」
「お前の分は作らないからな。また話をそっちへ持っていこうとしただろう?」
「ばれたか」
「先ほどのエプロンといい……よく俺にまでそういった冗談が言えるものだ。どうせなら可愛い親衛隊にでも言ってやれ。涙流して喜ぶんじゃないのか?」
「親衛隊の顔見て飯なんて食えるか。俺はおまえがいいんだ」
「もう冗談は飽きた。気が散るから向こうへ行っててくれ」
「……冗談じゃねえんだけどなあ」
後頭部をかきながら、如月はテーブルへと戻っていった。
おかしな茶々のせいで、どこまでやってたか忘れてしまったぞ。
そうだ味噌汁だった。具は玉ねぎと……豆腐は冷奴で使うから、あとはワカメでいいか。サービスでキャベツの横に目玉焼きもつけてやろう。そういえば冷蔵庫に、煮物の残りもあったよな……あとは……。
「ずいぶんと豪華な夕飯だな」
「……作った本人が一番驚いている」
いま自覚した。
俺はなんだかんだで、結構この状況を楽しんでいる。
瑞貴以外を部屋に呼んだのも初めてなら、瑞貴以外に手料理を振る舞うことも生まれて初めてなのだ。つまり、初めての【おもてなし】なのだ。
されることには慣れているが、自分からするのはとても新鮮だ。ついテンションが上がって、料理も作りすぎてしまった。
豚の生姜焼き(キャベツ千切りにミニトマト、目玉焼き付き)がメインだったはずなのに、照り大根と鶏肉の煮物にポテトサラダ、冷奴に味噌汁、白菜の漬け物と……テーブルの上が所狭しと料理皿で埋めつくされている。やり過ぎた。
「食いきれなかったら残してくれても構わないぞ?」
「これくらい軽くイケるさ。すごく美味そうだ。いただきます」
その言葉通り、如月は気持ちの良い食いっぷりで、次々と皿を平らげてくれた。
しかもガツガツとかき込む感じではなく、あくまでも上流階級の人間らしく、箸使いも姿勢も美しくて好感のもてる食べ方だった。
何をしても絵になる男だな……と素直に感じた。
「お世辞抜きでどれも本当に美味かった」
「そうか。それは良かった」
「いままで食べた中で最高だった」
「大げさだな。おまえなら高級料理で舌も肥えてるだろうに……」
「いいや一番だ。藤堂頼む。また食わせてくれ。ひとりで食べるのも味気ないだろう? 毎日とは言わない。週末ならどうだ? 材料費は俺が出すから、この幸せをたまには俺にも分けてくれ。頼む」
「断る」
「もうおまえの味を知らない俺には戻れないんだ。身体が覚えてしまった」
「おかしな言い方をするな」
「そうだ。次回から俺がデザートを持参するというのはどうだろう? あのプリンも持ってこられる。俺が言えばあそこのシェフは何でも作ってくれるぞ? 誰の目も気にすることなく、ここで思いっきり好きなだけ食わせてやる。それでも駄目か?」
「そこまで言うなら引き受けよう。次回はチーズケーキを頼む」
「……相変わらずの変わり身の早さだな」
なんとでも言え。
甘いものこそ正義なのだ。
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