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風紀委員長様は級友を招く(自室編)

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 ここの寮は、各部屋ごとに二人暮らしが基本だ。

 生徒をどう組み合わせるかは、入学時にどのクラスに配属されるかでほぼ決まる。寮の部屋割りは、同じクラスの生徒同士でランダムに組み合わされるからだ。

 この学園のクラスは、家柄や成績を基準にして、S―A―B―C―D―E―Fの順で、ランク付けされている為、近い価値観の者同士で暮らせるように配慮されている。

 例えば、入学していきなりAクラスの者がFクラスの者と同室になるということは、まず有りえない。しかし入学当時と比べて片方のランクが著しく上下してしまった場合については、本人や同室者からの希望があれば部屋替えを申し出ることも出来る。そのまま継続で良いなら、異なるレベル同士でも、三年間同じ部屋で暮らすことも可能だ。

 部屋の中はプライベートを守るために更に細かく区画割りされている。
 生徒それぞれには完全防音の勉強部屋と寝室が与えられ、同室者が侵入できないように内側から鍵もかけられる。
 二人でくつろげる共有リビングや、台所や風呂、洗面所も完備されている。

 ただし各委員会で役職についた生徒や、裕福な家で学園に多額の寄付をしている者は、同室者無しでも部屋を使用できる特権が与えられる。つまりは二人用の部屋を好き勝手に独り占めできるのだ。

 しかし更にその上をいく特権を与えられた生徒たちがいる。
 それが生徒会メンバー全員と、風紀委員長と副委員長だ。
 好成績さえ維持すれば授業もある程度は免除され、部屋も一般生徒とは一線を画した上層階が与えられる。生徒会・風紀専用のエレベーターでしか上がれない、セキュリティが最も強化されたエリアとなる。

 俺としては、そんな大仰で寂しい階層には住みたくないのだが、風紀委員長という立場上、学園の方針には従わざるを得ない。

 ちなみに、生徒会メンバーとは階が違うため、プライベートでは一切交流したことは無い。それに、この階に生徒会役員がうろついていれば、同じくこの階に住んでいる瑞貴が、問答無用で叩きだしてしまうだろう。瑞貴は病原菌のごとく生徒会を毛嫌いしている。

 だから今回、瑞貴以外で誰かをこの部屋に招くのは初めてだ。
 それも相手が生徒会長の如月だというのだから、どこか現実味のない不思議な感覚だった。
 あれから瑞貴を説き伏せるのに、ずいぶん骨が折れたのだ。
 まるで黒船を受け入れるような気分である。

「まあ適当にくつろいでくれ」
「ああ。邪魔する」

 自分の部屋から宿泊に必要なものを持って、如月がやってきた。
 ペリー来航だな。

「生徒会メンバーとは鉢合わせしなかったか?」
「ああ」

 おそらく彼らは、明日の定例会資料を作成するために、今頃は生徒会室で血眼になっていることだろう。今朝から、大好きなはずの転校生を放置し、ずっと生徒会室にこもりきりだという情報はすでに入っている。まあ頑張れ。

「藤堂、服を着替えたいのだが……」

 そういえば、如月も俺もまだ制服のままだった。

「ああ、俺も着替える。そっちの部屋が空いているからクローゼットも好き勝手に使用してくれて構わない。掃除もしてあるし、シーツも取り替えてある。共有部も自由に使ってくれ」
「助かる」

 部屋で互いに普段着に着替え、再度リビングで合流する。
 Tシャツにジーンズという、意外とラフな姿で現れた如月がなかなか新鮮だった。

「……おまえはまさかの黒ジャージか」
「悪いか。もう外には出ないし、これが一番楽なんだ」
「もっとこう……色気のある服はなかったのか。普段きっちりしてるんだから、鎖骨くらいサービスしてくれたっていいだろうに」
「おまえは本当にそういう冗談が好きだな。まあいい。それより夕飯はどうする? 自炊か、ルームサービスか……いっそ瑞貴に頼むか?」
「……おい待て。佐藤にだと? いつもそうなのか?」
「いつもではない。帰ってからも束縛したら可哀想だろう? 瑞貴は世話好きだから毎日来たいと申し出てはくれたが断った。この寮生活は、自立した暮らしを学ぶいい機会だと思っている。だから掃除や洗濯も自分でやっている」
「……それは驚きだ」

 この学園の寮には、ホテル並みのオプションサービスが充実している。
 金さえ出せば、掃除や洗濯・シーツ交換なども、定期的に頼むことが出来る。裕福な家の者はまず頼んでいる。如月もそうだろう。

「家事は人並みにこなせるようになったが、料理はあまり得意ではない。客に振る舞う程の腕ではないから、瑞貴に頼もうかルームサービスにするかでいま悩んでいる」
「……おまえさえ良ければ、作ってみてもらえないだろうか?」
「いいのか? あまりお勧めできないが……」
「おまえの手料理を是非食べてみたい。どんなにまずくなっても構わない。焦げようが胃が融けようが爆発しようが全部平らげてみせる。だから頼む」
「さすがにそこまで下手ではないぞ? レパートリーが少ないだけだ」

 だがそんなに食いたいのなら、作ってやろうか。
 役職持ちが作る料理が物珍しいのだろうか? ずいぶんと好奇心旺盛なやつだ。

「ならこれから作るから、好きに過ごしていてくれ」

 とりあえずテレビをつけて、リモコンをテーブルに置いた。

「俺も手伝おうか?」
「最近仕事漬けでおまえも疲れているだろう? いいから客はゆっくりしていろ」
「……嫁に欲しいなあ」
「なにか言ったか?」
「いいや。ならそうさせてもらう。すまないな」

 リビングキッチンなので、背中でテレビの音を聞きながら、冷蔵庫を開ける。
 さてと……何を作ろうか。

「……なあ藤堂」

 呼ばれたので振り返ると、テーブルに座った如月が、上機嫌な様子でこちらを眺めていた。なにがそんなに楽しいんだ? テレビがそんなに面白いのか?

「エプロンはしないのか?」
「そんなものない」
「つまんねえなあ。よし、今度持ってきてやる」

 今度? コイツまた来る気か?

「……慣れ合うつもりはないと言ったはずだが?」
「生徒会長としてではなく、友人としてもう少し親交を温めたいだけだ」
「いつの間に、おまえとの間に友情が生まれていたんだ?」
「一緒にプリンを食った仲だろうが」
「……ふっ」

 食堂でのコイツの顔を思い出して、つい笑ってしまった。 

 ……本当にまずそうに食ってたなあ。

 如月が甘いモノ嫌いだということを、俺はあのとき初めて知ったのだ。

 確かに、プリンを食べたことで、ふたりの距離は近づいたのかもしれない。
 ほんの少しだけどな?
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