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3章 辺境の地ライムライトへ
21、キーリとシルフィはどっちもどっち
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※題と作中のシルフィオーネ(シルフィ)は、『デュラハンのギルマスはハーフオーク』に登場の、デュラハンギルドのサブギルドマスターです。
=====
レオンハルトの案内でオーインの鍛冶屋へとやってきた。店の中はがらんとしていて、受付には誰の姿もない。ただ、裏手にある工房から金属を打つ音が聞こえているので、そちらにいるのだろう。
鍛冶屋では包丁、鋏などの刃物や鋤、鍬、鉈などの農具、冒険者の武具、猟具など様々なものを幅広く作っているが、中には刀や剣だけを専門に作る刀剣鍛冶師がおり、このオーインもそういった者たちの一人だ。
「裏の工房にいるみたいだな。行ってみるか」
「そうだね」
レオンハルトと共に裏手の工房へと回る。中に入ると、轟々と燃え盛る火床の横に分厚い革エプロンを着けた二人のドワーフが向かい合っていた。一人は座って、持っている小槌をカンカンと鳴らしている。対面には長い顎ひげを三つ編みにした頑健なドワーフが立ち、大きくていかにも重そうな槌を小槌の音に合わせて軽々と振るっている。
「僕と変わらないくらいの身長なのに、あんなにも重そうな槌を軽々と振り下ろせるなんてすごいですね」
「ああ」
流れる汗もそのままに、熱した金属を縦横に折り返しては叩くことを繰り返す二人は息ぴったりだ。感心して見ていると、白いタオルを首にかけた、背が小さめのずんぐりとした体型のドワーフが工房入り口の暖簾を手で払って中に入って来た。
「あら、お客さん? ごめんなさいね、席を外してて……って、あら? あらあらまあまあ!」
ドワーフは男女共に長い髭を伸ばしているので、一見しただけでは男女の区別はつきにくいが、柔らかな女性の声だった。性別を確認するために喉と胸につい目が行ってしまったけれど、これは仕方がないことだろう。だからレオンハルトはそんなジト目でこっちを見ないでほしい。
ドワーフの女の人はすごい勢いで距離を詰め、僕を守るように立ちはだかったレオンハルトをどんっと押しのけて、唖然としていた僕の手を力強く握りしめた。レオンハルトがたたらを踏んでいる。さすが怪力のドワーフ、女の人なのにあのレオンハルトをよろめかせるなんてすごい膂力だ。
「ねえねえ、アンタ、鍛治師に興味ないかい? 研ぎ師は? 白銀師は? 今なら弟子入り大歓迎!」
「おい、勝手にケイを勧誘するな!」
いきなりのことに面食らっていると、彼女はレオンハルトの存在を完全に無視し、僕を掴んでいた手を離して居住まいを正すと、胸を張って自己紹介をした。
「ああ、ごめんね。あたいはこのオーイン工房の研ぎ師、キーリっていうの、よろしくね! で、あそこで座ってるのがダンナのオーインよ」
そう言って指差したのは、火の中に金属を入れたり小槌を叩いたりしている、座っている方のドワーフだった。ドワーフ自慢の白く長い髭が煤で真っ黒に汚れてしまっているが、全く気にしていないとばかりに集中して作刀している。
「ほら、見て。ああやって小槌を使って拍子を取ったり強弱をつけたりして、叩く場所や強さを指示しているの。相手はその指示に従って大槌を振るうのよ」
「なるほど。力任せに適当に叩いているわけではないんですね」
「そうなのよ!」
金属を操作するオーインの動きに全くの無駄はなく、相方のドワーフは腕だけでなく体全体を使って大槌を振り下ろしている。それにより鳴る槌音は高く澄み、聞いていると心地が良い。力強くて大胆なのにそれでいて繊細な作業。ドワーフたちの鍛治の腕には感嘆しかない。目が離せなくて鍛錬につい見入ってしまう。
「どう? 面白いでしょう」
「ええ。二人の息がぴったりと合っていて、リズミカルな槌の音がまるで音楽を聴いているかのようです」
「あんた、見ただけでそこまで分かるなんて、絶対鍛治の才能があるわよ! ぜひうちに弟子入りしてほしいわあ」
そう言って僕の背を叩こうとした彼女の手を、レオンハルトが邪険に払った。
「おいキーリ、気安く俺のケイに触んじゃねえ!」
「おお、痛。いいじゃないか勧誘するくらい! 全く、これくらいで嫉妬するなんてみっともない。狭量な男は嫌われるよ」
「俺のってなんですか……」
キーリさんはぷりぷりと怒ってレオンハルトに払われた手を痛そうにさすった。そんなに痛むほど強くは叩いてないと思うけれど。レオンハルトはさっと僕の後ろに回ると内緒話をするように耳元で囁いた。
「ケイ、いいか、キーリには気をつけろ。あいつは新規の客が来る度に鍛治師にならないかって勧誘するんだ。それも若い男限定だ」
それに対してキーリさんが即座に心外だと言い返す。
「ちょっと、何よ。人を危険人物みたいに! 男の子限定なのは、鍛治の仕事は女の子には重労働だからだし、若い子に声を掛けるのは、鍛治師になるには下積みの期間が長くかかるからだよ。それに若い方が体力もあるし、仕事の飲み込みが早いからね」
キーリさんの言い分にレオンハルトは目を細める。
「なら若い男なら誰だっていいハズじゃねえか。それなのになんでキーリが勧誘するのはいっつも自分好みの見目いい美少年ばっかなんだよ」
図星を突かれたのか一瞬遠い目をしたキーリさんだったが、すぐに開き直ったのか声を上げて、本音をぶちまけはじめた。
「だってさあ! 一緒の工房で仕事するんだったら、やっぱ好みの若いイケメンと仕事したいじゃないか。そうすりゃ明日への活力にもなるし、あたいの仕事の効率も爆上がりさ!
……ああ、青少年の仕事に真剣な表情、飛び散る汗、槌を持つ腕の筋肉と浮き出る血管、頬についた煤をぐいっと拭く仕草……。最高かよっ!!」
キーリさんは指を組み、天に祈りを捧げた。その行動にちょっと引く。
「はいはーい、ケイはちょいっとキーリから離れようか。変態がうつるぞ」
「う、うん……」
レオンハルトは急いで挙動不審なキーリさんから僕を引き離した。うーん、キーリさんの若い男の子好きというこの性癖、誰かを彷彿とさせるんだけど……。誰だっけ?
「ああ、『童貞喰い』のシルフィオーネだろ」
「ああ! 確かに!」
首をひねっていると、僕が何を考えているのか分かったのかレオンハルトが僕の疑問にさらっと答えた。若い男の子が好きだというところが共通している。
「はあ!?」
その名前を聞いた途端、キーリさんは苦虫を噛み潰したように眉を顰めた。
「ちょいと『紅竜』! あたいとあんなクッソエロフと一緒にしないでもらいたいね! あたいは若い男の子の一生懸命な仕事風景を見てるだけで幸せだけど、あンのクソエロフは実際に手を出すし、その挙句捨てるじゃないか」
「わははは! クソエロフって」
レオンハルトが腹を抱えて大笑いした。
僕としてはどっちもどっちだと思うけれど、実害が無い分だけキーリさんの方がまだマシだと思う。
二人の嗜好は似通っているようなのに、キーリさんはシルフィさんのことをあまりよく思っていない。これが同族嫌悪というものか……。
「二人って仲悪いの?」
レオンハルトに聞いてみた。僕なんかが及びもつかない確執が過去にあり、種族的にもドワーフとエルフの仲は悪いのだ。
「そうだなぁ。滅多に二人が会うことはねえが、たまにフィランゼアの付き添いでこっちのギルドにシルフィオーネも寄ることがあってな、顔合わすたんびに大喧嘩してるぜ。まあ俺は二人を見ていると喧嘩するほど仲がいいんじゃねえかと思うんだけどな」
「ちょっと! やめてよね!!」
キーリさんは本当に嫌そうに身体を震わせた。
それにしても、若くてもおじいさんのような見た目のドワーフと、キーリさんが好きそうな見目良い若い男の子では、全くの正反対だと思うけれど、キーリさんはなぜオーインさんと結婚したんだろう……?
やっぱり外見より性格で選んだんだろうか。それとも、
「はっ!? もしかして若い頃のオーインさんはキーリさん好みの美少年ドワーフだったとか……?」
「「ぶっ!」」
クソエロフの衝撃がようやく収まったレオンハルトと、シルフィさんに似てると言われてぷりぷりと怒っていたキーリさんは、僕の呟きに対し同時に吹き出して大笑いしたのだった。
ここに追記するとキーリさんとオーインさんは幼馴染とのことでした。
「まあそれはともかく、今日は何の用だい? 新しい武器でも頼みに来たのかい?」
「ああいや」
レオンハルトはようやく仕事モードになったキーリさんに首を振り、僕を手で示した。
「今日はケイの付き添いだ。手入れしてもらいてえ武器があるんだとよ」
「見せてみな」
「おう、これだ」
レオンハルトは僕が預けていたフォールディングナイフ、投げナイフ、ダガーをマジックバッグから取り出した。黒く光る投げナイフを見た時、一瞬キーリさんの目が驚いたように見開き、ダガーを見た瞬間、声を上げてレオンハルトの横から奪うように手に持った。
「こりゃ幻の天才鍛治師スヴィーオルの作じゃないか! それも素材は最高級アダマンタイトかい」
「刀工を知ってんのか」
キーリさんは無言でダガーの刃に爪を掛けたり、指の腹に当ててみたり、刃の上で指の腹をスライドさせたりして品定めをはじめた。
しばらくの後、一度大きく息を吐いたキーリさんは僕たちの方へ向き直った。
「その昔、スヴィーオルはドワーフの里で工房の兄弟子とモメてねぇ。居辛くなってある日突然里を出ちまったんだ。里を出たばっかの頃は修行と称して色んな工房を巡ってたようだけど、最近は姿を見てないねえ……。無事だといいんだけど。でも、時たまこうして思い出したかのようにスヴィーオルの作った刀剣が工房に持ち込まれるんだよ」
少し悲しげな声で喋りながら器用に柄を外したキーリさんが刀身に魔力を通すと、漆黒の刃が煌めき、金色で描かれた魔法文字が浮かび上がった。
「ほら、ここの印がスヴィーオルの銘だよ。あとは錆防止、切れ味上昇、歪み自動調整、汚れの浄化、刃が欠けないようにするための硬化の付加がしてあるね。五個も刃物に付加できる者はドワーフでもほとんどいないんだよ。ああ……、錆防止と硬化の魔法文字がちょいっと掠れてるね」
キーリさんは机の上に魔法陣が一面に書いてある布を敷き、その上に僕のナイフを三種類とも置いて僕に聞いた。
「じゃあこれはこのまま預かるね。メンテナンスは明日まででいい? というか今からだと、これにかかりっきりになって手入れしたとしても明日の朝まではかかるよ」
僕がレオンハルトの顔を見ると、レオンハルトが軽く頷いた。
「じゃあ明日の朝に工房まで取りにきますね。どうぞよろしくお願いします」
頭を下げるとキーリさんは「任せといて!」と、ドンと自分の胸を叩いた。
=====
レオンハルトの案内でオーインの鍛冶屋へとやってきた。店の中はがらんとしていて、受付には誰の姿もない。ただ、裏手にある工房から金属を打つ音が聞こえているので、そちらにいるのだろう。
鍛冶屋では包丁、鋏などの刃物や鋤、鍬、鉈などの農具、冒険者の武具、猟具など様々なものを幅広く作っているが、中には刀や剣だけを専門に作る刀剣鍛冶師がおり、このオーインもそういった者たちの一人だ。
「裏の工房にいるみたいだな。行ってみるか」
「そうだね」
レオンハルトと共に裏手の工房へと回る。中に入ると、轟々と燃え盛る火床の横に分厚い革エプロンを着けた二人のドワーフが向かい合っていた。一人は座って、持っている小槌をカンカンと鳴らしている。対面には長い顎ひげを三つ編みにした頑健なドワーフが立ち、大きくていかにも重そうな槌を小槌の音に合わせて軽々と振るっている。
「僕と変わらないくらいの身長なのに、あんなにも重そうな槌を軽々と振り下ろせるなんてすごいですね」
「ああ」
流れる汗もそのままに、熱した金属を縦横に折り返しては叩くことを繰り返す二人は息ぴったりだ。感心して見ていると、白いタオルを首にかけた、背が小さめのずんぐりとした体型のドワーフが工房入り口の暖簾を手で払って中に入って来た。
「あら、お客さん? ごめんなさいね、席を外してて……って、あら? あらあらまあまあ!」
ドワーフは男女共に長い髭を伸ばしているので、一見しただけでは男女の区別はつきにくいが、柔らかな女性の声だった。性別を確認するために喉と胸につい目が行ってしまったけれど、これは仕方がないことだろう。だからレオンハルトはそんなジト目でこっちを見ないでほしい。
ドワーフの女の人はすごい勢いで距離を詰め、僕を守るように立ちはだかったレオンハルトをどんっと押しのけて、唖然としていた僕の手を力強く握りしめた。レオンハルトがたたらを踏んでいる。さすが怪力のドワーフ、女の人なのにあのレオンハルトをよろめかせるなんてすごい膂力だ。
「ねえねえ、アンタ、鍛治師に興味ないかい? 研ぎ師は? 白銀師は? 今なら弟子入り大歓迎!」
「おい、勝手にケイを勧誘するな!」
いきなりのことに面食らっていると、彼女はレオンハルトの存在を完全に無視し、僕を掴んでいた手を離して居住まいを正すと、胸を張って自己紹介をした。
「ああ、ごめんね。あたいはこのオーイン工房の研ぎ師、キーリっていうの、よろしくね! で、あそこで座ってるのがダンナのオーインよ」
そう言って指差したのは、火の中に金属を入れたり小槌を叩いたりしている、座っている方のドワーフだった。ドワーフ自慢の白く長い髭が煤で真っ黒に汚れてしまっているが、全く気にしていないとばかりに集中して作刀している。
「ほら、見て。ああやって小槌を使って拍子を取ったり強弱をつけたりして、叩く場所や強さを指示しているの。相手はその指示に従って大槌を振るうのよ」
「なるほど。力任せに適当に叩いているわけではないんですね」
「そうなのよ!」
金属を操作するオーインの動きに全くの無駄はなく、相方のドワーフは腕だけでなく体全体を使って大槌を振り下ろしている。それにより鳴る槌音は高く澄み、聞いていると心地が良い。力強くて大胆なのにそれでいて繊細な作業。ドワーフたちの鍛治の腕には感嘆しかない。目が離せなくて鍛錬につい見入ってしまう。
「どう? 面白いでしょう」
「ええ。二人の息がぴったりと合っていて、リズミカルな槌の音がまるで音楽を聴いているかのようです」
「あんた、見ただけでそこまで分かるなんて、絶対鍛治の才能があるわよ! ぜひうちに弟子入りしてほしいわあ」
そう言って僕の背を叩こうとした彼女の手を、レオンハルトが邪険に払った。
「おいキーリ、気安く俺のケイに触んじゃねえ!」
「おお、痛。いいじゃないか勧誘するくらい! 全く、これくらいで嫉妬するなんてみっともない。狭量な男は嫌われるよ」
「俺のってなんですか……」
キーリさんはぷりぷりと怒ってレオンハルトに払われた手を痛そうにさすった。そんなに痛むほど強くは叩いてないと思うけれど。レオンハルトはさっと僕の後ろに回ると内緒話をするように耳元で囁いた。
「ケイ、いいか、キーリには気をつけろ。あいつは新規の客が来る度に鍛治師にならないかって勧誘するんだ。それも若い男限定だ」
それに対してキーリさんが即座に心外だと言い返す。
「ちょっと、何よ。人を危険人物みたいに! 男の子限定なのは、鍛治の仕事は女の子には重労働だからだし、若い子に声を掛けるのは、鍛治師になるには下積みの期間が長くかかるからだよ。それに若い方が体力もあるし、仕事の飲み込みが早いからね」
キーリさんの言い分にレオンハルトは目を細める。
「なら若い男なら誰だっていいハズじゃねえか。それなのになんでキーリが勧誘するのはいっつも自分好みの見目いい美少年ばっかなんだよ」
図星を突かれたのか一瞬遠い目をしたキーリさんだったが、すぐに開き直ったのか声を上げて、本音をぶちまけはじめた。
「だってさあ! 一緒の工房で仕事するんだったら、やっぱ好みの若いイケメンと仕事したいじゃないか。そうすりゃ明日への活力にもなるし、あたいの仕事の効率も爆上がりさ!
……ああ、青少年の仕事に真剣な表情、飛び散る汗、槌を持つ腕の筋肉と浮き出る血管、頬についた煤をぐいっと拭く仕草……。最高かよっ!!」
キーリさんは指を組み、天に祈りを捧げた。その行動にちょっと引く。
「はいはーい、ケイはちょいっとキーリから離れようか。変態がうつるぞ」
「う、うん……」
レオンハルトは急いで挙動不審なキーリさんから僕を引き離した。うーん、キーリさんの若い男の子好きというこの性癖、誰かを彷彿とさせるんだけど……。誰だっけ?
「ああ、『童貞喰い』のシルフィオーネだろ」
「ああ! 確かに!」
首をひねっていると、僕が何を考えているのか分かったのかレオンハルトが僕の疑問にさらっと答えた。若い男の子が好きだというところが共通している。
「はあ!?」
その名前を聞いた途端、キーリさんは苦虫を噛み潰したように眉を顰めた。
「ちょいと『紅竜』! あたいとあんなクッソエロフと一緒にしないでもらいたいね! あたいは若い男の子の一生懸命な仕事風景を見てるだけで幸せだけど、あンのクソエロフは実際に手を出すし、その挙句捨てるじゃないか」
「わははは! クソエロフって」
レオンハルトが腹を抱えて大笑いした。
僕としてはどっちもどっちだと思うけれど、実害が無い分だけキーリさんの方がまだマシだと思う。
二人の嗜好は似通っているようなのに、キーリさんはシルフィさんのことをあまりよく思っていない。これが同族嫌悪というものか……。
「二人って仲悪いの?」
レオンハルトに聞いてみた。僕なんかが及びもつかない確執が過去にあり、種族的にもドワーフとエルフの仲は悪いのだ。
「そうだなぁ。滅多に二人が会うことはねえが、たまにフィランゼアの付き添いでこっちのギルドにシルフィオーネも寄ることがあってな、顔合わすたんびに大喧嘩してるぜ。まあ俺は二人を見ていると喧嘩するほど仲がいいんじゃねえかと思うんだけどな」
「ちょっと! やめてよね!!」
キーリさんは本当に嫌そうに身体を震わせた。
それにしても、若くてもおじいさんのような見た目のドワーフと、キーリさんが好きそうな見目良い若い男の子では、全くの正反対だと思うけれど、キーリさんはなぜオーインさんと結婚したんだろう……?
やっぱり外見より性格で選んだんだろうか。それとも、
「はっ!? もしかして若い頃のオーインさんはキーリさん好みの美少年ドワーフだったとか……?」
「「ぶっ!」」
クソエロフの衝撃がようやく収まったレオンハルトと、シルフィさんに似てると言われてぷりぷりと怒っていたキーリさんは、僕の呟きに対し同時に吹き出して大笑いしたのだった。
ここに追記するとキーリさんとオーインさんは幼馴染とのことでした。
「まあそれはともかく、今日は何の用だい? 新しい武器でも頼みに来たのかい?」
「ああいや」
レオンハルトはようやく仕事モードになったキーリさんに首を振り、僕を手で示した。
「今日はケイの付き添いだ。手入れしてもらいてえ武器があるんだとよ」
「見せてみな」
「おう、これだ」
レオンハルトは僕が預けていたフォールディングナイフ、投げナイフ、ダガーをマジックバッグから取り出した。黒く光る投げナイフを見た時、一瞬キーリさんの目が驚いたように見開き、ダガーを見た瞬間、声を上げてレオンハルトの横から奪うように手に持った。
「こりゃ幻の天才鍛治師スヴィーオルの作じゃないか! それも素材は最高級アダマンタイトかい」
「刀工を知ってんのか」
キーリさんは無言でダガーの刃に爪を掛けたり、指の腹に当ててみたり、刃の上で指の腹をスライドさせたりして品定めをはじめた。
しばらくの後、一度大きく息を吐いたキーリさんは僕たちの方へ向き直った。
「その昔、スヴィーオルはドワーフの里で工房の兄弟子とモメてねぇ。居辛くなってある日突然里を出ちまったんだ。里を出たばっかの頃は修行と称して色んな工房を巡ってたようだけど、最近は姿を見てないねえ……。無事だといいんだけど。でも、時たまこうして思い出したかのようにスヴィーオルの作った刀剣が工房に持ち込まれるんだよ」
少し悲しげな声で喋りながら器用に柄を外したキーリさんが刀身に魔力を通すと、漆黒の刃が煌めき、金色で描かれた魔法文字が浮かび上がった。
「ほら、ここの印がスヴィーオルの銘だよ。あとは錆防止、切れ味上昇、歪み自動調整、汚れの浄化、刃が欠けないようにするための硬化の付加がしてあるね。五個も刃物に付加できる者はドワーフでもほとんどいないんだよ。ああ……、錆防止と硬化の魔法文字がちょいっと掠れてるね」
キーリさんは机の上に魔法陣が一面に書いてある布を敷き、その上に僕のナイフを三種類とも置いて僕に聞いた。
「じゃあこれはこのまま預かるね。メンテナンスは明日まででいい? というか今からだと、これにかかりっきりになって手入れしたとしても明日の朝まではかかるよ」
僕がレオンハルトの顔を見ると、レオンハルトが軽く頷いた。
「じゃあ明日の朝に工房まで取りにきますね。どうぞよろしくお願いします」
頭を下げるとキーリさんは「任せといて!」と、ドンと自分の胸を叩いた。
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