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第三章 逆行~中学 高校~

第十話 遭遇(動悸)

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冴島亮太郎の成人を祝う会は、冴島家の広い庭で行われた。

冴島家は香住家と違い旧華族では無いが、明治時代初期から続く由緒ある家系だ。

「成人おめでとう、亮太郎君。」
「おめでとうございます、亮太郎さん。」

慎也と2人冴島家に訪れた姫菜子は、揃って祝いの言葉を述べた。

「やぁ、姫菜ちゃん。ありがとう。慎也さんも、お忙しい中ありがとうございます。」

亮太郎は婚約者の田嶋 麻耶たじま まやを伴っていた。

「紹介しますね。此方、田嶋物産の田嶋麻耶さん。麻耶、此方は香住リゾート開発社長 香住慎也さんとお嬢様の姫菜子ちゃんだよ。」

そう。副社長だった慎也は、社長に就任していた。

「田嶋麻耶と申します。姫菜子さんのお噂は亮太郎さんからお聞きしていますわ。宜しくお願い致しますね。」

「こ、こちらこそ、宜しくお願い申し上げます。」

麻耶の年齢を聞くと、亮太郎と同じ20歳なのだという。
美男美女でとてもお似合いだと姫菜子は思った。

「亮太郎さん。お姉ちゃんは?」

「あぁ。姉貴なら、ほら!」

そう言って亮太郎が指差した先を姫菜子が辿ると、そこにはメイドと話す愛美の姿があった。

だが、姫菜子はそのメイドを見た瞬間俯き震えだしてしまう。
動悸が激しい。まるで身体中が心臓になったかのように。

姫菜子の異常に気付いた麻耶が

「姫菜子ちゃん?どうしたの?」

と言って顔を覗き込む。と、その顔は蒼白で尋常ではない汗が滝の様に流れていた。

「亮太郎。姫菜子ちゃんが……。」

(な……何で?何で此処にアノ女がいるの?まだ現れる時期ではないはずよ。)

亮太郎や慎也が呼び掛けるも、姫菜子の耳には届かない。

(いや!何で?だってまだ……まだ早いじゃない!それにまだ…まだなんの準備も出来てない。)

慎也に抱き締められ背中をさすられながらも、姫菜子の震えは一向に止まらない。
汗が噴き出し、慎也のスーツに汗が染み込んでいく。
呼吸も荒く、きっと瞳孔が開いてしまっているだろう。

(で、も。もしかしたら……もしかすると違う人かもしれないわね。あぁ、主よ我を守りたまえ。)

人違いである事を願いながら、姫菜子は

「亮太郎さん。愛美お姉ちゃんが話しているメイドさんの名前は?」

「ん?姉貴が?…………あぁ、最近母娘でメイドになったの方だね。確か……比嘉とか言ってたな。」

(比嘉……やっぱり……陽子なのね。)

「姫菜子、大丈夫か?」

(大丈夫よ、姫菜子。愛美お姉様とは距離があるし、間に人もいる。陽子にまだきっと見つかっていないわ。落ち着くのよ、姫菜子。今ここで騒ぎになれば、見つかってしまうわ。)

慎也の腕の中にいてしがみついていないと倒れてしまいそうになりながらも、

「パパ、大丈夫。でも…家に帰りたいかな。」

顔を上げて慎也を見た。

(挨拶も済んだし、ここで帰っても失礼じゃ無いはず。お姉様への贈り物は亮太郎さんに預けよう。)

「分かった。そうしよう。車をよこす様電話をかけてくるよ。姫菜はお宅で休ませて貰うか?」

「ううん、パパの傍にいたいな。だめ?」

「分かったよ。……すまないな、亮太郎君。ちょっと席を外すよ。」

「勿論です。大丈夫か?姫菜子ちゃん。」
「姫菜子ちゃん。また来てね。」

亮太郎と麻耶の言葉に、無理矢理笑顔を貼り付けた姫菜子はぺこりと頭を下げると、慎也に抱えられる様にして歩きだした。
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