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第十章 領域封印(クリスタルドラゴン討伐)

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「のぞむ。彼奴ら大丈夫なのか?」
相田君たちの戦いを1歩引いたところで見守る僕達。
そんな中カールソンさんが、インカムでボソッっとそう呟いた。

目の前でクリスタルドラゴンとの攻防を繰り広げる相田君達の戦いぶりは、実践向きではないし、いちいちオーバーリアクション過ぎて隙がありまくっている。
「ハァーーーーーーーーー!」とか「くらえーーーー!」とか言ってないで、とっとととどめを刺せば良いのにと思ってしまう僕は、すっかりカールソンさんの脳筋色に染められてしまったのかもしれない。

「のぼる。呆れている場合じゃないぞ。」
と言うルードリッヒさんの言葉で相田君達を見ると、ドラゴンのしっぽ攻撃から逃げようとしている最中だった。

しまった!
ドラゴンがあれをやった後、決まって次に行う攻撃があるんだ。
そもそも敵に背中を見せるとか有り得ないのに!
相田君達彼奴ら馬鹿なのか?
と思いはするが、今はそんな事言ってはいられない。

僕は逃げる相田君達に向かって叫んだ。

「来るぞ!ブレスだ!!」

僕達(ルードリッヒさんとカールソンさん、それと魔導士のダイバードさん)はこの前の大規模討伐の時と同じ様にインカムをしている。だけど、相田君達には渡さなかった。
だって自分達の力でクリスタルをドロップするって約束だったからね。

だからインカムをつけてない彼等への指示は、大声で叫ぶしか方法が無かったんだ。
だけど、喉が痛くなってちょっと後悔した。
これがもし吹雪いてたら、確実に僕の気管は凍ってたな。
まぁ今のでも十分気管が痛くてヤバいんだけどさ。

僕の叫びで、ドラゴンがブレス攻撃を仕掛けようとしてる事に気づいた相田君に、僕は尚も叫んだ!
「相田!逃げてる場合じゃない!打て!早く!!」

僕の言葉の意味が分かったらしい相田君は、すぐ様ドラゴンに向けて火力最大の火を放ったんだ。
きっとテントの中で、僕が『ピンチになったらこの石を握れ』って言った事を思い出して実行したんだろう。
あとは彼奴らにやらせればいいや。と思った僕だったけど、もう一度だけ檄を飛ばさなきゃならなくなったんだ。
だって彼奴ら、さっきの一撃だけで勝った!って思ってるみたいだったから。

甘いんだっての!
あのクリスタルドラゴンは知能指数がチンバンジー並に高いんだ。
姿形は、僕達の世界で大昔に地球上を支配していた肉食恐竜に似てるけど、ドラゴンアイツは捕食が命の脳筋竜なんかじゃないんだ。

「もう一度だ!今度は剣を振り下ろさず ずっと構えてろ!田代!お前は相田を援護!風で炎をブーストするんだ!もたもたしないで早く!中山!相田の手をお前の氷で直ぐに冷やせる様にそばにいてやれ!」
と言った僕の言葉に、相田君達は一瞬ビビったみたいだったけど、直ぐに気持ちを切り替え動き出した。

僕は、彼等がやっと本来の戦い方を始めた事に安堵し、ネックウォーマーで口を隠す事にした。
魔石入のネックウォーマーで、凍りつきそうだった喉を温めようとすると、
「俺がやりますよ」
と言って、ダイバードさんがネックウォーマー越しに治癒魔法をかけてくれた。
ダイバードさんが言うには、僕の喉は凍傷になりかけていて、とても危ない状況だったらしい。

「ダイバードさん。ありがとうございます」
と言うと、
「君は仲間思いの、本当に優しい子ですね。」
と言って帽子を被った頭を撫でられてしまった。

僕は恥ずかしくて俯いてしまったんだけど、それを見たカールソンさんが、
「確かにのぞむは優しいだよな」
と言って、わざわざ僕の帽子を取ってまで、頭をワシャワシャとさせたから、少しムッとしながらカールソンさんを睨みつけてやったんだ。

そんな僕達をルードリッヒさんは笑って見てくれてたんだけど、
「おや?どうやら彼等。ドラゴンにとどめを刺そうと動き出したようだよ?見てごらん、のぞむ。」
と言って、相田君達の方を指さしていた。

ルードリッヒさんの言うとおり、そこにはさっきとは打って変わった表情をした彼等が、今まさにドラゴンを討ち取ろうとしている姿があったんだ。
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