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第五章 変わったヲタ

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ほんと、全然使えないな。と、勇達の戦いぶりを見て、内心思ってしまう。

それは、先程のレオの事も、今戦っているベアの事からも分かる様に、自分達がこれから戦う魔獣についての知識が全くついていないからだ。
きっと彼等は、僕には無い魔力を持っている事に過信し、魔獣についての知識を得る事を怠り、いつもワンパターンの戦い方をしていたんだろう。
よくもまぁ今まで被害者が出なかったものだ。と感心さえしてしまう。

とりあえず、現状で2人も怪我人を出した事だから、今後は少しは考えて行動する様になるだろうけど。と、氷の中で眠っている寺田を見ながらそう思っていた。すると
「どうして先生を助けようとするんですか?君はこの人から相当 嫌がらせを受けていたと思いますが……。」
と風魔法を使い、必死で寺田の身体を浮かせ運んでいる賢がそう聞いてきた。
なので、
「だからこそですよ。僕を理不尽な事で貶め続けてくれた先生を助ける事で、先生には思い知って貰いたいんです。」
「思い知って貰いたい?」
「そうです。だってそうじゃないですか。落ちこぼれの劣等生に助けられたという事実は、この人にとってかなりの屈辱になると思うんです。」
「そうかもしれませんが、先生のこの状態では、君に助けられたかどうかなんて分からないのでは?」
「上を見て下さい。」
「上?」
賢にそう言いながら、僕は人差し指を空に向け、話を続けた。
「数十羽の鳥が飛んでいるのが見えますよね?」
と言うと、賢は寺田の身体を落とさない様にしながらも、上を仰ぎ見た。そして
「見えますね。」
「今、僕達の頭上にもそれは飛んでいます。でもそれ。"鳥”ではありません。」
「え?どう見ても鳥「に見える魔道具なんです。しかも映像記録が出来る。」え?映像!?」
「そう。アレは云わば、この世界におけるところのドローン・・・・だ。」
「ド、ドローン!?だって?」
そう言いながら再び頭上を仰ぎみる賢は、集中力を切らせてしまったのか、寺田を地面に落としてしまう。
「う……うう……。」
地面に落とされた衝撃が伝わったのか、寺田が呻き声をあげた。
「ほら、もう一度上げて下さい。」
と賢に言うも、
「無理!限界だ!」
と言ってその場にしゃがみこんでしまった賢に、僕は盛大に溜息を付き、
「魔力の枯渇ですか?これしきの事で枯渇する様では、領域の封印なんて無理なんじゃないですか?まぁ、良いです。一応ここ迄来れたので。あとは僕がなんとかしますから、田代君は直ぐに相田君達の所へ帰って戦って下さい。でないと、僕の仲間の冒険者達に、手柄を横取りされてしまいますよ。」
と右手の親指で、賢に後ろを見るよう促すと、どうやら勇達が、冒険者達に煽られ揶揄われているところが目に入った様だ。
当然僕は、勇達のへっぽこぶりを揶揄う冒険者達の声を通信機で聞いていたからよく分かっている。が、寺田を運びながら僕と話をする事が精一杯だった賢は、後ろを見る余裕等なかったのだろう。仲間たちがベアに翻弄されているにも拘わらず、助けに入る事もせず笑っている冒険者達に腹を立てている賢。そんな彼に、
「さっきの君達と同じ事をしているよね?冒険者達はさ。」
「さっきの俺達?」
僕の言葉の意味が分からずに聞いてくる賢に半ば呆れながらも、
「レオの攻撃を受けている中島先輩を笑っていた。」
と指摘すれば、賢は座り込んだままの状態で項垂れていた。

僕はそんな賢を一瞥すると、異空間鞄の中からロープを一本と先端が曲がっている引っ掛け棒二本を取り出し、ロープの両端に棒を付け、棒で氷を引っ掛けると、ずるずると氷漬けの寺田を引っ張り、ミランダさんが作る結界の中に入った。

「ミランダさん。この人の火傷を治して貰えますか?」
と、彼女に寺田の治癒を依頼した。
「それは……簡単に出来るでしょうけれど……。宜しいのですか?この方はのぞむ君を虐めていた方なのでしょう?」
と心配そうな表情を浮かべ、ミランダさんが聞いてきた。
「大丈夫です。この男にとって、僕は愚図で出来損ない、ストレス発散の対象でしか無いんです。が、そんな対象の僕に助けられたと分かったら、きっと屈辱でしか無いでしょう。」
「でも……気を失っているこの方では、のちに自分はのぞむ君によって救われたと明かされたとしても、記憶が無いのでは?」
と言われた僕は、
「大丈夫です。これからこれで、しょうこの映像を撮影するので。」
と、異空間鞄から"スマホ”を取り出した。
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