10 / 127
第二章 異世界での生活
2
しおりを挟む
ハイネさんの食堂で食事が終わった僕は、お金を払うと、ハイネさんに連れられ、店の二階にある僕の部屋へと案内された。
「この部屋を使っとくれ。あたしゃまだ仕事があるから、此処でのんびりしとくといいさ。」
「……はい。ありがとうございます。ハ
イネさん。」
「困った時はお互い様だよ。あぁ。そうだ。これを。」
そう言ってハイネは一冊の本を投げてきた。それを広げてみるとそこには、イラストと文字がセットになった、子供向けの文字を覚える絵本みたいなものだった。
「ハイネさん。これは?」
「昔、まだ子供が小さかった頃。文字を覚えさせる為に買ったもんさ。あとから読み方を教えてあげるから、それ見ながら待っていとくれよ。」
「は、い。分かりました。ありがとうございます。」
僕がお礼を言うと、ハイネさんはまた階下の食堂へと戻って行った。
僕は部屋に備え付けられていたベッドに腰掛けると、ハイネさんが渡してくれた本をペラペラと捲った。
「僕の言葉が通じるって事は、文字での表記が違うだけで、同じ物を指しているって事だよな。例えばこの蟻の絵の下に書かれてる文字と、雨(らしい)の絵の下に書かれてる文字を見比べると……。日本語の平仮名読みと同じと仮定するならば、これが"あ”になるんだろう。文字の形が同じだから。って事は……。」
と僕は仮定を元に文字の検証を始めたんだ。
「ふぅ~。今何時だ?スマホ、スマホ。」
僕は制服のズボンのポケットを探ると、そこには愛用のスマホがしっかりと入っていた。
「良かった。何処かに落としたわけじゃなかったんだな。にしても…もう9時か。まぁ、時間軸が元の世界とは違うかもしれないけど……。あ!メッセージ届いてるけど、見れたとしても返信は出来ないよな。充電も出来ないだろうから、大事に使わないとな。」
僕はそっとスマホの電源を落とし、ベッドに横たわるとそのまま目を閉じた。
「なんだ?こいつ寝てるじゃないか。」
「本当だねぇ~。ほら見てご覧よ。まだあどけない顔で寝ているじゃないか。」
(ん?父さん?母さん?)
「きっと異世界から連れてこられて疲れたんだろうよ。本当、可哀想にねぇ。」
「そうだな。何歳なのか分からないが、まだ親が欲しい年頃だろにな。」
「そうだねぇ……。」
「父さん!母さん!僕帰って……?!え?」
「目が覚めたかい?」
「……ハイネさん。」
「服、持ってきてやったぞ。」
「ヨハネスさん……。」
(そうか……異世界転生は夢じゃなかったし、帰れたわけじゃなかったんだな。)
「あ、あの。ありがとうございます、ハイネさん、ヨハネスさん。」
「いいってことよ。それよりお前の名前は?」
とヨハネスさんに名前を聞かれた僕は、
「のぞむ。僕は渡瀬 望です。」
「のぞむ、か。俺はヨハネス。ただのヨハネスだ。ところでのぞむ。異世界人は貴族なのか?」
「え?貴族?ですか?」
「そうさ。望は名前、それから…なんだ?わた…。」
「わたせです。ファーストネームはのぞむで、ラストネームがわたせです。」
「そう、その渡瀬だが……俺たち平民にラストネームは無いんだ。」
「そ、そうなんですね。僕達の世界は、殆どの人がラストネームを持っています。」
「そういう世界なんだね。で、のぞむは今何歳なんだい?」
と、今度はハイネさんに聞かれた僕は
「じゅ……17歳です。」
と答えた。
「17なのかい?あたしゃもっと幼い子かと思ってたよ。」
「はぁ……そうですか。」
聞くとこの世界では、貴族という身分の人々は15歳で社交界というものにデビューする。そして、殆どの貴族は18で結婚するらしい。が、平民と呼ばれる人達はデビューとかいうのは無くて、結婚も独立も人それぞれだが、大概は学校を18で卒業し仕事を見つけて親元を離れるのだという。(元の世界の、"高卒で就職する”のとあんまり変わらないんだな。)
「ところでのぞむ。」
「……はい。なんでしょうか、ヨハネスさん。」
「のぞむは王様が呼び寄せた異世界人なんだろ?それがなんでまた此処にいるんだ?城にいるんじゃないのか?」
そう聞かれ、僕は召喚されてからの話を、コミュ障なりに、2人に一生懸命話して聞かせた。
「なんだい!その身勝手な話は!」
「俺もそう思うぞ。大体召喚とかいうのをする時に、必要な人物だけを連れてくるようにすりゃ良かったじゃないか!!」
「そうだよ。それを必要無いからって追い出すとは。やり方が酷過ぎるっていうんだよ。のぞむが可哀想じゃないか。知らない世界に1人放り出すなんてさ。」
と王達の身勝手なやり方に憤慨してくれる2人に感謝する。
「僕なんかの為に怒ってくれてありがとうございます。」
と頭を下げれば、
「いいんだよ。のぞむはまだ子供なんだ。我慢なんてしなくていいのさ。」
「ハイネの言うとおりだぞ、のぞむ。俺らがお前を皆で守ってやるから安心しろ。」
そう言って僕を抱き締めてくれるヨハネスさんの優しさに、僕は密かに嬉し涙を流したんだ。きっと2人には分かってたと思うけど……。
「この部屋を使っとくれ。あたしゃまだ仕事があるから、此処でのんびりしとくといいさ。」
「……はい。ありがとうございます。ハ
イネさん。」
「困った時はお互い様だよ。あぁ。そうだ。これを。」
そう言ってハイネは一冊の本を投げてきた。それを広げてみるとそこには、イラストと文字がセットになった、子供向けの文字を覚える絵本みたいなものだった。
「ハイネさん。これは?」
「昔、まだ子供が小さかった頃。文字を覚えさせる為に買ったもんさ。あとから読み方を教えてあげるから、それ見ながら待っていとくれよ。」
「は、い。分かりました。ありがとうございます。」
僕がお礼を言うと、ハイネさんはまた階下の食堂へと戻って行った。
僕は部屋に備え付けられていたベッドに腰掛けると、ハイネさんが渡してくれた本をペラペラと捲った。
「僕の言葉が通じるって事は、文字での表記が違うだけで、同じ物を指しているって事だよな。例えばこの蟻の絵の下に書かれてる文字と、雨(らしい)の絵の下に書かれてる文字を見比べると……。日本語の平仮名読みと同じと仮定するならば、これが"あ”になるんだろう。文字の形が同じだから。って事は……。」
と僕は仮定を元に文字の検証を始めたんだ。
「ふぅ~。今何時だ?スマホ、スマホ。」
僕は制服のズボンのポケットを探ると、そこには愛用のスマホがしっかりと入っていた。
「良かった。何処かに落としたわけじゃなかったんだな。にしても…もう9時か。まぁ、時間軸が元の世界とは違うかもしれないけど……。あ!メッセージ届いてるけど、見れたとしても返信は出来ないよな。充電も出来ないだろうから、大事に使わないとな。」
僕はそっとスマホの電源を落とし、ベッドに横たわるとそのまま目を閉じた。
「なんだ?こいつ寝てるじゃないか。」
「本当だねぇ~。ほら見てご覧よ。まだあどけない顔で寝ているじゃないか。」
(ん?父さん?母さん?)
「きっと異世界から連れてこられて疲れたんだろうよ。本当、可哀想にねぇ。」
「そうだな。何歳なのか分からないが、まだ親が欲しい年頃だろにな。」
「そうだねぇ……。」
「父さん!母さん!僕帰って……?!え?」
「目が覚めたかい?」
「……ハイネさん。」
「服、持ってきてやったぞ。」
「ヨハネスさん……。」
(そうか……異世界転生は夢じゃなかったし、帰れたわけじゃなかったんだな。)
「あ、あの。ありがとうございます、ハイネさん、ヨハネスさん。」
「いいってことよ。それよりお前の名前は?」
とヨハネスさんに名前を聞かれた僕は、
「のぞむ。僕は渡瀬 望です。」
「のぞむ、か。俺はヨハネス。ただのヨハネスだ。ところでのぞむ。異世界人は貴族なのか?」
「え?貴族?ですか?」
「そうさ。望は名前、それから…なんだ?わた…。」
「わたせです。ファーストネームはのぞむで、ラストネームがわたせです。」
「そう、その渡瀬だが……俺たち平民にラストネームは無いんだ。」
「そ、そうなんですね。僕達の世界は、殆どの人がラストネームを持っています。」
「そういう世界なんだね。で、のぞむは今何歳なんだい?」
と、今度はハイネさんに聞かれた僕は
「じゅ……17歳です。」
と答えた。
「17なのかい?あたしゃもっと幼い子かと思ってたよ。」
「はぁ……そうですか。」
聞くとこの世界では、貴族という身分の人々は15歳で社交界というものにデビューする。そして、殆どの貴族は18で結婚するらしい。が、平民と呼ばれる人達はデビューとかいうのは無くて、結婚も独立も人それぞれだが、大概は学校を18で卒業し仕事を見つけて親元を離れるのだという。(元の世界の、"高卒で就職する”のとあんまり変わらないんだな。)
「ところでのぞむ。」
「……はい。なんでしょうか、ヨハネスさん。」
「のぞむは王様が呼び寄せた異世界人なんだろ?それがなんでまた此処にいるんだ?城にいるんじゃないのか?」
そう聞かれ、僕は召喚されてからの話を、コミュ障なりに、2人に一生懸命話して聞かせた。
「なんだい!その身勝手な話は!」
「俺もそう思うぞ。大体召喚とかいうのをする時に、必要な人物だけを連れてくるようにすりゃ良かったじゃないか!!」
「そうだよ。それを必要無いからって追い出すとは。やり方が酷過ぎるっていうんだよ。のぞむが可哀想じゃないか。知らない世界に1人放り出すなんてさ。」
と王達の身勝手なやり方に憤慨してくれる2人に感謝する。
「僕なんかの為に怒ってくれてありがとうございます。」
と頭を下げれば、
「いいんだよ。のぞむはまだ子供なんだ。我慢なんてしなくていいのさ。」
「ハイネの言うとおりだぞ、のぞむ。俺らがお前を皆で守ってやるから安心しろ。」
そう言って僕を抱き締めてくれるヨハネスさんの優しさに、僕は密かに嬉し涙を流したんだ。きっと2人には分かってたと思うけど……。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
モン・シッター!〜元SS級天才テイマーが、モンスターのお世話をしたら〜
はーこ
ファンタジー
あたらしい街へやってきてすぐ、お財布を落としてしまってトホホなソラ。そこへ偶然通りがかった見知らぬモンスターと、シュシュのおかげで、なんかお財布が戻ってきた!?
シュシュはずいぶん変わった子。しかもモンスターのお世話をする『モン・シッター』という、聞いたことのないお仕事をしていて。
だけどポジティブ少年ソラは、そんなことはどうでもよかった。しかたない、行くあてがないんだもの。
「僕をしもべにしてくれませんか!」
そんなこんなではじまった、ソラとシュシュの奇妙な旅。ちっちゃいトレントにスライムもどき。モンスターさまのごはんやおさんぽ、なんでもござれ! ただしヒトさまはおことわり!
異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。
ninjin
ファンタジー
魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。
悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。
しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。
魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。
魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。
しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる