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「……くん、と……ま、く……当麻くん!!」


……あぁ、相変わらず。

泉の声は、いい声だなぁ。


耳から入って、脳内を心地よくするその声が、体を熱くさせて再び欲情する。


………泉の声は、媚薬。


どんなクスリより、僕の脳を揺らして、興奮させる。


だから、「泉」って言いたかったのに。
口から出た言葉が、あろうことか「ぁ、はぁん」だった。


………な、なんだよ。それ。


普通に淫乱、単なる変態じゃないか………僕。


「ごめんね、当麻くん。湧が変なの飲ませちゃって………。まだ、どうかある?具合悪い?」


そんな、声で………喋らないで………。


喋るから、また、脳が誤作動する。


「………ん、シたぁ……い。シ、てぇ……」


………またしても、そんなことを!


おばあちゃんが聞いたら、卒倒しちゃうようなことを!!
なんてことを言っちゃうんだ、僕は!!

自由になった僕の手は、怪しい器具によって無理矢理広がされた足を左手で隠して、右手で顔を隠すという恥じらいは、かろうじて僕の意識下で残っていて。

そんな恥ずかしい限りの僕を見て欲しくないから。
僕は身を捩って、泉から視線を外した。

「………当麻くん、それ。恥ずかしいの?煽ってるの?どっち?」
「やん………」
「………ダメ………じゃん、それ」

その泉の声が、〝よーい、どん!〟みたいな合図のように響いて、同時に………僕の中に泉の熱が容赦なく入って、奥を突き上げる。
湧がさっき、僕の中に注いだクスリのせいか、はたまた、欲してやまなかった泉の感覚のせいか。
僕の中は、自分でもビックリするくらいグチョグチョになって………。

泉が僕の中を激しくかき乱して、奥に触れるたびに。

………僕じゃないみたいな、媚を含んだ艶めかしい声が上がる。

「ぁあっ、あ“ーっ………やぁんっ」
「だから………煽んないで、っばぁ………」

泉の動きがより一層激しくなって、その気持ちよさが、クスリでグラグラな脳天まで一気に貫いた。


………ムリ。


………これは、ヤバいヤツだ。


………ずっと、シていたいもん……セックス。


「もっと………もっとォ…………」
「………当麻……っ!!」


快楽でおかしくなってしまった乱れる体と、危うい思考の中、僕はふと、さっきの変な夢を思い出した。


あれ、凄かったなぁ………。


だって、めちゃめちゃリアルな龍だったんだよ?


後で………泉に教えよう。


だって、今は。
コレが………泉と一つになってるこの感覚から、逃れられないんだもん。


泉が僕の太腿に巻きついているベルトを掴んで、全身を揺さぶって、僕のさらに奥まで貫いた。


「……あ“ぁっ!!あ“ーっ!!」


僕の口から出る嬌声は、自制が効かないくらい大きくて、潰れていて………。

僕は………溺れるようなセックスを………。

初めて経験したんだ。



「…………」


「気がついた?」


「…………」


「当麻くん、大丈夫?さっき、めちゃくちゃ乱れてたから………」


………えぇ、そうですよ………覚えてますとも。


無意識に泉を煽って、泉のを咥え込んでガンガン腰を振って、「もっとぉーっ!」なんて言ってセックスをやめなかったのは、紛れもなく………僕ですよ、僕。

体の熱は、スッカリ覚めたのに。
全く別の、恥ずかさの熱が全身の包む。


………ぁあ、ああ。


泉の顔が、まともに見られないんですけど???


………穴があったら、入りたい。
入ったら、そこから一生出たくない。


いたたまれず、そして、耐えきれず。
僕は、両手で顔を覆った。

「………見ないで」
「どうして?」
「………さっきのは、僕じゃない」
「え?」
「………別人なので、忘れてください」

本当、なかったことにしたいくらい確実に、覚えている範囲の黒歴史を、封印したかった。

「しょうがないよ。当麻くんは、変なクスリを飲まされてたんだから。気にしないで」


………そんなに、優しいコトを言わないでよ。


恥ずかしいけど、嬉しくて。
覆う両手の指の隙間から、覗くように泉を見た。

いつもの、優しげな………泉の笑顔に、安心してしまって。
僕は無性に、泣きたくなってしまった。

「ごめんね、当麻くん。………俺、最近、当麻くん見てると自制が効かなくなるんだよ。………この間だって…。乱暴にしちゃって、ごめん」
「…………」
「………怒ってる?」

指と指の隙間から見える泉が、なんとも言えない………悲しさとか、後悔とか、全てが入り混ざった表情を浮かべるから………。
僕は、脊髄反射のように、咄嗟に泉の体に腕を回してしがみついたんだ。

「泉ー、泉ーっ!!」


激しく抱いても、乱暴に抱いても。


僕は、泉が好きで。


たとえ、泉が人以外のモノだったとしても、僕は泉が大好きで。


そんな思いが、目から、口から、少し汚いけど鼻からも微量に出てきて。


その思いを抑えることができずに、泉に抱きついて泣きじゃくった。
そんな駄々っ子のような僕を、泉はフワッと抱きしめる。
柔らかいのに、力強い。


だから………すごく、安心する。


僕の駄々っ子状態は、しばらく続いて。
その間泉は、僕に優しく言葉をかけながら、ずっと抱きしめてくれていた。










「おつかれさまです!」

結局その日は午後から大学に行って、その帰りにバイト先である「彼女の家」に向かった。


カランカランー。


ドアベルが渇いた音を立てて、センスの良い重たいドアが開くと、「おつかれ」って言うマスターと、その真ん前のカウンターに腰掛ける小さな子どもがいた。

キレイな子………そう思ってその子を見ていたら、バツが悪そうに僕から視線をはずす。

「マスターのお子さんですか?」
「………いや。………ってか、分かんない?」
「?」
「………湧だよ」
「………は?」
「湧なんだよ、この子」
「!!」


驚きのあまり、声が出なかった………。


そう言われてみれば、面影がある………。


でも!!


湧は、大人だったよね???


なんで、子どもになっちゃってるワケ???


えーっ?!
なんでーっ!?


「まぁ、佐々木くんはそんな反応すると思ったから、あとでゆっくり話すよ」

マスターが心底ウンザリしたような声で呟いたんだけど………僕はバイト中、小さくなった湧が気になって気になって、仕方がなかったんだ。


「ハッキリ言ってない泉が悪いから………」

そう、前置きして。
マスターは、自分で淹れたブレンドコーヒーに口をつけた。


湧と泉は、少し変わった兄弟らしい。


マスターは外戚関係にあって、湧と泉が何者なのかは、詳細にはわからないそうだ。

ただ。
この2人の兄弟喧嘩は、小さい頃から半端なくって。

「冷蔵庫のゼリーを勝手に食べた」だの「分度器を勝手に使った」だの、ほんの些細なコトで勃発する喧嘩に、一族郎党迷惑を被っている。
この2人が一戦交えれば、その周りに旋風や落雷がおきる、周りの人は雷に打たれたようになったり、強風に煽られて転倒したり、そんな感じ。

マスター的には、エスパーの肉弾戦のように見えるらしいけど、ほかの人には様々な形でその戦いの様子が見えるらしく。
マスターのお兄さんには、〝ゴジラ対メカゴジラ〟みたいに映るし。
いとこの子は、〝アナコンダ対巨大サソリ〟に見えるらしいのだ。

朦朧とする意識の中、僕が夢と認識した〝龍同士〟の戦いは、実は、湧と泉の兄弟喧嘩………だったのかもしれない。


………ヤバすぎだろ、この兄弟。


「それで、どうして湧さんは、こんなになったんですか?」

僕は、小さくかわいくなった湧に視線を落としてマスターに聞いた。
湧が居心地悪そうに、肩を竦める。

「喧嘩に負けたらな、こんなんなるんだよ」
「えっ?!」

マスターは、コーヒーを啜りながら続けた。

「その日の体調とかによるんだろうけど、湧みたいに子どもになったり、泉はよく猫になってたな。毛並みの綺麗な茶トラに。あれだな。RPGの勇者みたいな感じだ。攻撃を受けてダメージ喰らったらちっちゃくなるだろ?あれだよ、あれ」
「………それって、大丈夫なんですか?」
「本人達がなんともなきゃ、大丈夫だろ」


………そんな、もんなのか???


「まぁ、佐々木くんも。泉がイヤになったら全力で逃げろよ?これ、マスターとして忠告ね」
「………はぁ」

そう言ってマスターは、飲み終わったコーヒーカップをカウンターに置いで厨房へ入っていく。
小さな湧は、床に届かない足をプラプラさせて、今日、本人が原因となる一連の出来事を黙秘したまま、僕とマスターの話を聞かないフリをしていて。

今なら、僕も湧に勝てそうな気がする………なんて、卑怯なことを考えながら。

僕はマスターが飲む終わった後のコーヒーカップを洗った。


………よく、考えてみろよ?


今のマスターの情報って、よくゲームの攻略本に載ってるような、隠れてアイテムを助言してくれたようなもんで。
泉が何者か………普通の人ではないってことは、分かったけど………依然として、その正体は不明のまま。


………でも、そんな泉が。

不思議と怖くない自分に、少し驚いていたんだ。


むしろ………もっと、知りたい。


本当の泉を、もっと知りたいと思ったんだ。












「大丈夫?今日は、やめる?」

バイトが終わって家に帰ると、泉が優しい笑顔で待っていて。
そして徐に、泉は僕を玄関からお姫様抱っこ状態でベッドへ運ぶと、真綿に触れるような、繊細なキスを僕に落として聞いたんだ。

「………大丈夫だよ。………むしろ、抱いて欲しいくらいだ」
「どうして?俺………あんなに酷くしたのに」

僕がいない間、泉はどうやら自己嫌悪に陥っていたらしい。
よく見ると、目と目の周りがほんのり赤く染まっていて………泣いていたんだ、ってのが手にとるようにわかった。

僕は、泉の広い背中に腕を回す。

「どうして、だと思う?」

逆に質問をされた泉は、目を少し見開いて首を横に振った。

「泉をもっと、知りたい。………肌を重ねるたびに、キスするたびに。僕は泉の中に入り込んでいくみたいな………。だから、シたい。………だから、抱いてよ………泉」


僕は泉のシャツをめくると、均整のとれた胸を手でなぞって………。


その先にある小さな膨らみに、歯を立てた。
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