秘密のサクラと秘密の朔

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「勒にイタズラされたのか?」
「………んっ、、、あ……やめ……」
「違うな……また、客とヤッたんだな?」
「…………や……痛っ…」

店から帰って、シャワーを浴びているところを見計らっていたかのように、父は僕の体の自由を奪って、僕の中の全てを支配するように、激しく突き上げる。
父が僕に触れる手や舌は、勒のそれとは違って強引で荒々しい。

それは、僕が中坊の頃から変わらない。

いつも強引で独りよがりで、僕のことを「愛している」と言うわりには………。
レイプされてるみたいに、お互いの心と心は通じ合わないんだ、決して。

「この淫乱め……俺はこんな風にした覚えはないぞ?あ?」
「………ゃあ……や…だぁ」


………あんたが、一番の原因なんだよ。


母親があんたと再婚して、僕の全てを奪って支配した。

あんたが、僕の全てを狂わしたんだ。

優しい笑顔で「今日から勒くんと朔くんのお父さんになるから」って言ったあの日から。
………生まれた時から〝父親〟なんていなかったから、そういう存在ができて嬉しかった。
僕はすでに中坊だったけど。
キャッチボールしてくれるかな、とか。
一緒にテレビ見てくれるかな、とか。

でも………僕の、そんな純粋な期待は………。
砂で作った城のように、あっという間に消え去ってしまった。

母も兄もいない、ある日。

僕はあんたに押し倒されたんだよ。
口にタオルを押し込められて、手はあんたのネクタイで縛られて。
力づくで僕を犯して、言葉のアツで僕を支配して。
そして、僕に秘密が生まれた。
その時の僕は、あまりにも幼くて弱かったから、その事を兄である勒に相談したんだ。

その瞬間、勒も変わった。

あんたと同じように勒も、僕を犯す。
毎日毎日、かわるがわる僕を犯して、2人して支配して………秘密が、さらに増えてしまったんだ。
僕は何も、してない。
何もしていないのに、秘密だけは増え続ける。
だから……だから……僕が、悪いわけじゃない。

僕が悪いわけじゃないのに………。

2人は口を揃えて言う。

「おまえが、誘ってるんだ」って………。

「……っ!出すぞ、朔」
「……んはぁ、やめっ……中……や……やぁ……」

………中が、アツイ…………。

終わったんなら、さっさと抜いてどっかに行って。
早く……。

「終わらないよ、まだね」
「………やめ…て、無理………無理だ、から」
「いくら俺以外を咥え込んでも俺の形を忘れないように………まだまだ、その中に叩き込んであげるよ、朔」

………いつも、そう。
僕は、体のいいオモチャなんだ。

言うことを聞く、心を持たないオモチャで。
いつか今の状況から抜け出して、自由になれることを夢みて………。
さっき、見ず知らずのあの人から、少し強さを分けてもらったのに………。
僕は、弱くて………。
また、元に戻ってしまったかのように、父からも兄からも逃れなれなくなるんだ。
僕の足や腕には、そのカズラが絡まってしまっている。
暴れれば暴れるほど、もがけばもがくほど。
そのカズラはボクを締め付けて、余計、動かなくなって。

………ただ、我慢して。

されるがままに、僕は支配されている。






あれから勒とも肌を重ねて、途中でトンじゃって。
流石に、腰がダルくてしょうがない。
ヤリすぎだよな、ほんと。
僕はたいてい、大学ではあまり人気のない、奥まったリフレッシュルームで過ごす。
紙パックの自販機とにょきにょき成長した観葉植物、それに古臭いパイプ椅子とカタカタ音がするテーブルしかないから、こんなところにリフレッシュルームがあるなんて、学生にも印象が薄いみたいで……昼の顔の僕みたいだ。
教科書を見直してレポートの下準備をしながらパックジュースのイチゴミルクを口に含む。
その甘さが、歯茎が痙攣しそうなくらい甘くて。
僕に甘く接してくれるなんて、このイチゴミルクか………昨日のあの人だけだって思うと、たまらず苦笑いしてしまった。
僕は、変わってるよな。
こんなジュースと、些細な思い出に癒されてるなんてさ。
皆、アオハルを謳歌してるんだ。
こんな隅っこの空間に、こんなに腰に違和感を抱えた大学生なんて、僕以外いないだろうし………。
あえて、友達や知り合いを作らないようにして………。
昼の朔と夜のサクラの秘密を保持する。

この先も、誰の目にも止まらず。
自然と風景になじむようにして………。
僕の今までを塗り替えて、新しい僕に作り替える準備をして………。

自由を手に入れたその時に、僕はたくさん抱える秘密までなかったことにしようとしているんだ。

「相席、いいですか?」
レポートもだいたい仕上がった頃、その存在すら知られていないリフレッシュルームに、透き通るようないい声が響いた。

………この、声。

ドキッと、そして、チクッと。

胸が小さく疼いて………。

僕は、出入り口の方向に視線を向けた。

………やっぱり、昨日の………あの人だ。

学生、しかも同じ大学だったんだ。
ノーマルな、って僕のカンはあたった。
でも、なんで………あんなとこにいたんだ、この人は。

「………いや、自分もう終わったので。どうぞ」
「ここ、誰もこないし集中できるから穴場ですよね。俺もよく来るんです」
「そうですね、では………」

荷物をバッグに入れて立ち去ろうとした、その時。
僕の耳にありえない言葉が突き刺さった。

「……サクラさん、ですよね?」

………咄嗟に、否定できなかった。

こんな昼の朔の時に、夜のサクラで身バレしたことなんてなかったから………。


この人は、無垢な笑顔で僕の腕を掴むとさらに続けた。
「本当は、新庄朔さんって言うんですよね?サクラさん」
「……………」
「すぐ分かった。朔さんからもサクラさんからも同じ匂いがする。イチゴミルクの甘い、甘い香り」

イチゴミルクの香りなんて、ごまんといるじゃないか………いる、じゃないか………。

なのに………。

数少ない、僕を甘やかせてくれるアイテムから、身バレしてしまうなんて………最悪だ……。

別々だった朔の秘密とサクラの秘密が、一つに交わった瞬間だった。
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