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yui's prescription

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「……っあ!……や、やめっ!!ぁあっ!!」


………やっぱ、ツイてない。


優しそうだし、紳士だし。
僕のこと、それはそれはお姫様みたいに大事に抱いてくれると思ったのに。


今日も………コレだ。


着ていたシャツで両手の自由を奪われて、僕とソイツのベルトで足を無理矢理開かされて。

そういう出会いのバーで知り合って、いい感じになったから、お互いの合意っつえば、合意なんだろうけど。


僕が求めてるのは、こんなんじゃないんだよ!!


そう……もっと、普通の。
もっと、やわらかな。
普通の恋人同士がするセックスがしたいんだってば!!

僕がそうさせてるのか分からないけど、100%の確率で、こういうアブノーマルな人に出会す。

今日は、レイプよろしく犯す人でしょ?

直近のあの人は、赤い縄で僕をギチギチに縛った緊縛師さんだった。

その前は、やたら飲み物を勧めてくる人で。
断ったら強引に飲まされた挙げ句、入っていたイカガワシイ薬で、ボロボロになるし。


その前だって………あぁ、やだやだ……思い出したくもない。


………ツイてない。


………と、いうか………なんでこんな目にばっかり、合うんだ。


僕は、幸せになりたいだけなのに。
ギュッと肌を重ねて抱きしめあって。
お互いの深いところまで確かめあって。
僅かな時間で愛を囁き合ったりして。


そんな、そんな………小さな幸せが欲しいだけなのに………。


「っ……らめ………とん………じゃう」
「………とんじゃうの、好きなんだろ?」

その人のがゴリゴリ中を擦って、激しく揺さぶるように奥まで突き上げる。

「や……やら………や……ぁ」

好き、じゃない………好きじゃないよ、そんなの。

もっと、優しく僕に触れて欲しい。
僕のことを「好き」って、言って欲しい。

ただ、それだけなのに………。









「ねぇ、僕。ビッチっぽい?」
「?!?!」

一緒の席で社食を食べていた僕の憧れだったイケメン総務部長の秘書である、超ド田舎者出身の霧島さんが、僕の唐突な一言に目を白黒させながら口をパクパクさせている。

そんなに驚かなくたっていいじゃないか。

僕の長いゲイ歴は、霧島さんがそういう性癖を隠していたって、同類だってすぐ分かるんだよ。
それに………見ただけで分かる。
総務部長の顔、霧島さんをみる総務部長の顔が、腑抜け過ぎてダダ漏れなんだよ!

くそーっ!

狙ってたのに、総務部長!!

そっちの人だって分かってりゃ、めちゃめちゃオしたのに!

こんなモサいヤツのどこがいいんだよーっ!

「正直に言って!僕、ビッチっぽい?」

コイツは馬鹿正直な田舎者だし、決して忖度しないと踏んだのは僕で、素直に僕のイメージを聞きたかっただけなんだよ。

「な、何をいきなり、言い出すんでしょうか?舞田さん」
「同類だってのは分かってる!さらに同じネコだということも分かってる!さぁ、どうなの!?僕は、ビッチなの?!」
「いやぁ、その………」
「宮崎だか沖縄だかわかんないくらいド田舎出身なんでしょ?!田舎者なら田舎者らしく、ストレートに言ってよ!!」
「………ビッチ………に見えないことない、です。
ちなみに俺は鹿児島出身です」
「………九州の位置関係なんて、定かじゃないよ!ってか、〝ビッチに見えないことない〟って?!」
「………慣れてるっていうか、なんでもオッケーそうというか」
「なん…でも?」
「舞田さんはキレイだし、話しやすい感じなんですけど………なんちゅーか、その………小悪魔的な?スキモノそうな?そんな感じです」


………小悪魔?!


スキモノ?!


僕、そんな風に見えるワケ?!


そんな、そんなこと………あるワケない。
僕は、甘くて優しい普通の恋人が欲しいし、とろけるような優しいセックスがしたいのに。
そんなオーラ全開なハズなのに………。

田舎者に「ハッキリ言って」と自ら言ったのに、その言葉に少なからず、傷ついてしまった僕がいる。

「………あの、舞田さん。出会い系サイトは、利用したことあります?」

僕の落ち込み具合を察したのか、霧島さんは静かに僕に聞いてきた。

「ないよ……そんなもの」
「自分にぴったりの相手を探す、というか処方してくれるサイトがあったんです、よ?多分」


んな、夢のようなサイトがあるワケな………あったよ。


執務机で霧島さんが言っていたサイトを偶然見つけてしまって、僕は机にうつ伏せるようにしてスマホを隠した。


〝happy prescription siteー。あなたのお望みどおりを処方します。次の質問にお応えください〟


………あやしさ、満点だよな。


だいたい僕はそこそこモテるし、出会い系なんて必要ない。
実際、目で見て相手を選ぶのが僕の主義で………。

その審美眼がアテにならないから、今までロクでもないヤツとヤッてしまったわけなんだけど………。


………えーい!!もうヤケくそだっ!!


僕の理想の人と出会えるなら、質問でもなんでも答えるよ!!
勢い、で。
僕はそのあやしさ満点のサイトを開いたんだ。



「どうも……初めまして。ユイと言います」
「………こちらこそ、初めまして。カイです」

なんつーか、その………また、僕の好みのタイプとは真逆の人が目の前に現れて。
あのイカガワしいサイトと、霧島さんに対して怒りが込み上げてきた。

背は高い、スタイルもいい。
でも、190くらいあるんじゃないかってくらい、馬鹿でかい。

でも、黒縁眼鏡をかけてモッサリしてて………普段の僕なら絶対に声をかけないタイプだ。


………ツイてない。


本当、僕って………とことん、ツイてない。

こんなイカガワしいサイトに一縷の望みを託した僕が悪いんだけど………神様にとことん見放されてるような気がして………苦しく、なった。


………うまく巻いて、逃げよっかな。


「ユイさん」
「は、はい?!」
「実は俺、先走ってこの先のホテルを予約してまして………よかったら、まずラウンジで一杯ってのは、どうですか?おごります」


この先って、まさか………本当に………TRUNK(HOTEL)とは、思わなかった。


いつもなら僕がひっかけたロクでもない男と、場末感漂う安っいラブホに行って、散々人をオモチャにしたくせに、そのホテル代さえもケチられたりしてたのに………。


よく分かんないな、この人。


でも………僕の………ツイてなさはこの程度じゃ、覆らない。

この人だって………今までの人と同じだよ、きっと。


って、思ってたのが、約2時間くらい前。


僕は今、未知の領域にいる。


「あ、あぁっ!…いいっ!!いっ……やぁ」
「ユイさん………最高にエロい」

気付いたんだけど、こんなノーマルで気持ちのいいセックスなんて、初めてかも。

カイの大きくて温かな手が、僕の身体を滑るようになぞって………僕の中のイイトコを弾いて、グズグズにしていく。
カイが僕の固くなって敏感になった胸の突起を舌で転がして、強く吸い付いてくる。


………ヤバい。


めちゃくちゃに感じる………。

ハードなのより、虐げられるのより、ずっとクる。

なにより、カイは眼鏡を外したら……少女漫画の設定みたいに、めちゃめちゃイケメンだということが判明して。

たまらず、カイの体に両手を伸ばして、しがみつくように抱きついた。

モッサリしてるとか思ってごめんなさい、カイ。

タイプじゃないって思ってごめんなさい。

「ユイ……さん?………泣いてる?」
「こうしてて……今だけで、いい………」
「いいよ、ユイさん」
「初めて、なんだ………こんなに、優しくされるの………。だから、もう少し………幸せでいさせて………お願い」

正常位でするのとか騎乗位でするのとか、拘束されていない自由な体で奥まで突き上げられるのって、どれぐらいぶりなんだろう。
カイが僕の表情を読みながら、僕の気持ちイイとこを擦って、奥深くまで僕を満たしてくれて………。


僕が求めていたのって、これなんだよ……。


だから、嬉しくて………幸せで………涙が止まんない………。



「大丈夫?ユイさん」
「………大丈夫です」

あんなに喘いで、自分で腰をふって、ビックリするくらいイキまくったのって初めてで、その結果、ビックリするくらい腰がたたない。
あのサイトのおかげで、今日の僕は初体験満載だったな………。

「あの、カイさん。今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
「本当に、幸せなひと時でした。………僕、本当ツイてなくて。今までこんな気持ちのいいセックスなんてしたことなくて……。僕、ビッチに見えるんですって………。なんでもヤらせてくれる、スキモノのビッチに」
「………ユイさん」
「本当はそんなの全く好きじゃない。好きじゃないのに、流されて、イイようにヤられて、捨てられて。………でも、もういい。カイさんに出会えてよかった。本当にありがとうございます」

素直な気持ちだった。
素直にカイにお礼をいって、今日のこの瞬間をずっといい思い出にしたかったから。

「これで………終わりじゃない、ですよ。ユイさん」
「………え?」
「俺、ユイさんがずっと好きだったんです」
「え???」
「二丁目の〝スラッガー〟、よく出入りしてるでしょ?ユイさん」
「え?あ?……はい」
「俺もよく行くんです」
「………えぇ???」
「ユイさんは、いつもカッコいい人と店から出て行く。しばらくしたら公園で一人泣いてて………。
ユイさんが辛そうなのに、俺は黙って見てるしかなくて………。だから、出会い系にユイさんと思しき人がアップされてて………もう、これしかない!っって」

………この人、僕のツイてない日常を知ってたんだ。
しかも、ずっと好きだったなんて………こんな告白ってある?!


………流されないハズが、ない。


好きにならない、ハズがない!


でも、僕は………。

「僕は、カイさんも知ってるように。ビッチだよ?それでも、いいの?」

カイは僕の頬に手を添えると、僕に向かってニッコリ笑った。

「ビッチ?ユイさんは、ビッチじゃないよ。こんなに素直で、かわいくて、ウブで。俺のお姫様だよ」

お姫様………そんなこっぱずかしいこと、平気な顔して言うなよ。

体がゾワゾワするくらい………嬉しい!!

「なんか………慣れないから、変な気分」
「徐々に慣れてよ、お姫様」

カイは僕の背中から腕を回して抱きしめると、肩越しにキスをした。


………絡まる舌も、重なる唇も。


こんなにキスが感じるなんて、初めて知った。


………まだまだあったんだな、僕の初体験。


「うん、ねぇ。僕、舞田結人っていうんだ。カイさんの名前、教えて?」
「………甲斐輝。………ねぇ、結人は………俺のこと好き?」

そう言って、不安げに瞳を揺らすカイこと輝が、殊の外、胸にキた。

「好き……。これから、もっと好きになる」

そして僕らはまた、ベッドになだれ込んだんだ。









「霧島さん!!ありがとう!!」
「はい?」

輝とそういう仲になって、毎日の何から何まですべてバラ色に見える僕は、社食でうどんを食べている霧島さんの手を握った。

「あのサイト!!教えてくれて本当にありがとう!!僕、今すごく幸せ!!」
「………サイト、見つかったんですか?」
「?……うん!結構、簡単に見つかったよ?」
「そうですか………。でも、よかった!舞田さんが幸せで!!」

笑顔で僕の手を握り返す霧島さんが、異様にキレイに見えて………あれかな。


霧島さんまで、バラ色に見えるなんて。


………僕は今、本当に幸せなんだ。
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