1 / 1
一話完結
しおりを挟む
欲しくて、欲しくてたまらなかったモノとか。
どうしても手に入れたかったあの人のキモチとか。
大切に、大切に。
少しずつ目標に近づいて、やっとの思いで自分の手中に入れたのに。
次の日には、全く同じモノ、もしくはそれに近いものを、真紘は持っている。
僕が好きだったあの人は、いつの間にか真紘と付き合い出していて。
僕の思いは、あっけなく、木っ端みじんになる。
最初は、気にしすぎかと思ったんだ。
だんだん真紘とカブる持ち物や好みが頻回になってきて。
偶然.....にしては、できすぎていて。
偶然とは、思えなくなって。
僕の手の中にあるモノが急に色あせて見えたり、あんなに好きだったあの人を見ることさえも億劫になって。
悔しさとか、悲しさとか、裏切りとか。
色んな気持ちが入り混じった僕の心は、サイテーな気分になってしまう。
気分がサイテーだと、人間としてもイヤなヤツに思えて、僕はサイテーな人間なんじゃないだろうかって、落ち込んでしまう。
できれば、もう。
アイツとは関わり合いになりたくないし、正直、僕をほっといてほしい。
僕のことを気にしないでほしい。
だって、僕は知ってるんだ。
低く優しい声で「秋斗」って僕を呼ぶくせに。
一方では、冷たい眼差しで僕を見据える。
蔑む.....って、言うのかな.....?
僕が、一体何をした?
答えが分からないまま、こういう関係が続いてくると、さすがに心も荒れてくるし。
誰にも言えないから、さらに落ち込んでくる。
だから、僕は無意識にも意識的にも、アイツを避けてしまう。
避けてるのに。
あの低く優しい声で、僕を呼ぶんだ.....。
「秋斗」
「......何?真紘」
「そのキーホルダー、かわいいね。どうしたの?」
「キーホルダー?」
僕は、真紘に指摘された身に覚えのないキーホルダーの存在にドキッとした。
そして、カバンを慌てて見たんだ。
あぁ、これ......やられた。
「姪っ子だ。
姪っ子が最近プラ板にハマってて、やたらめったらキーホルダーとか作ってるんだ。
多分、その中の1つだよ」
あれだけやめろ、って言ったのに。
5歳の姪っ子は、僕の目を盗んで遊び感覚でそのプラ板キーホルダーの1つを、僕のカバンに勝手につけたんだ。
姪っ子はめちゃめちゃかわいいけど、こういう時は、かわいくない。
「なんていうキャラクター?」
「なんだったっけな.....えーと、すみっこナントカ。確かこれ、〝とんかつのはじっこ〟だ」
「〝とんかつのはじっこ〟?何それ?」
真紘は、目がなくなるように顔をくしゃっとして、楽しそうに笑う。
「そういうキャラクターなんだって」
「上手だね。
俺、欲しい!姪っ子さんにもらえないかな?」
.......また。
また、始まった。
真似っこ。
いくら写して描いたとはいえ、所詮、5歳児が作ったプラ板キーホルダーをなんで欲しがるんだ、コイツは。
......まぁ、そんなことを言ったら、姪っ子も喜ぶし......。
一応、頼んでみようかな?
「いいと思うよ。
今、幼稚園も夏休みでほとんど毎日、姉ちゃんが連れて帰ってきてるから、帰ったら聞いてみるよ」
「ありがとう!」
「なんで、欲しいわけ?」
「だって、かわいいから!」
本心じゃない、だろ。それ。
だってほら。
僕にまた、いつもの冷たい眼差しをむけて。
なんなんだ、本当に。
僕、何をした?
真紘と僕は同期なんだ。
背も高くて、男前で、優しくて。
あっという間に人気者になって、真紘は常に人の中心にいる。
正直、真紘のオーラというか、なんというか。
とにかくキラキラしているのが、真紘から発散されてるみたいに。
吸い寄せられるように、人が集まる。
目が離せないくらい、視線を集める。
僕にはそんな、真紘のようなキラキラしたものは、備わっていないし、僕はあんまり人と積極的に接するのが、得意な方ではないから。
人の中心にいたいとか、そんなの、どうでもよかったんだ。
それでも真紘は僕に気を使ってか、話しかけてくる。
......その中心に、僕を呼ぼうとするんだ。
あの低く優しい声で。
僕と真紘は、だんだん話すようになって、親しくなって、意外と気があうのも判明して。
退社後に飲みに行ったり、休みには一緒に出かけたりするようになった。
でも、ある日ー。
僕は、真紘に違和感を感じたんだ。
真紘のネクタイ......僕のと一緒だ。
量販モノだし、どこにでもあるネクタイなんだけど。
その時のその一瞬、僕の胸が大きく音を立てて動いたの感じた。
「........そのネクタイ、いいね」
「でしょ?たまには、ブルーもいいかなぁって」
あたかも、最初から自分のモノって言う感じで話すから、余計、違和感をもったんだ。
ブルー、好きだった?
細いネクタイは、結びににくいとか言ってなかった?
そして。
にこにこ笑いながら話す表情に、重なる、僕を見る冷たい瞳。
その瞬間から。
僕は、真紘に対して微妙な感情を抱いている。
嫌いなのか、好きなのか。
正直分かんない。
だから、僕の心は、荒れてくるんだ。
「真紘、総務の美人と別れたんだって」
「しっ!声が大きいってば」
同じフロアの女の子の話し声が耳に入る。
あ、あの人.....。
真紘と別れちゃったんだ。
.......別に〝チャンス!〟とか〝だから言ったのに〟とか。
あの人に対して、そういう感情すら起こらなくなってしまった自分にうんざりする。
もし、今、真紘が自分の立場だったとしたら、きっと気の利いた言葉をあの人にかけるに違いない。
でも僕は、真紘じゃない。
そしてあの人に対して、僕は勝手に傷ついているから。
そんな、気持ちのままで、あの人に話なんかできないよ......。
やっぱり、僕は。
誰にも言えない複雑な感情を抱えて、さらに落ち込むんだ。
「ねぇ、プラ板のキーホルダー、一つもらっていい?」
僕が家に帰ると、姪っ子はひたすらプラ板に絵を描いていて。
僕の言葉に恥ずかしそうに笑う。
「秋斗には、あげたよ?」
「僕のじゃないよ。僕のお仕事の人が欲しいんだって」
「そうなの?そのヒト、すみっこ、すきなの?すみっこのどれがすき?」
おしゃまな5歳児の特技はおしゃべりで、僕に矢継ぎ早に質問する。
「どうかな?かわいいから、どれでもいいんだって」
「えー?そうなの?.....どれがいいかなぁ?そのヒト、かわいい?」
「かわいい......かな?」
「どんないろがすき?」
「んー.....白かな?」
姪っ子は、しばらくじっと考えて、ひらめいたように明るい顔をして、僕に一つのプラ板キーホルダーを渡してきた。
白い丸っこい、イキモノ。
「これ、何?」
「しろくま」
「......しろくま?かわいいね。僕のお仕事の人も、喜ぶよ。ありがとう」
姪っ子は僕の言葉ににっこり笑う。
「僕のカバンとかに、勝手にキーホルダーつけないでね」
続けて言った僕の言葉に、姪っ子はにっこり笑顔をバツの悪そうな笑顔にかえた。
僕はそのキーホルダーを見つめた。
真紘は、何がしたいのかな?
僕と親密になって。
僕のモノとか片っ端から欲しがって、手に入れて。
それでいて、僕に冷たい眼差しを送って。
僕は、真紘が、よくわからない。
「ありがとう!秋斗!嬉しいっ!」
満面の笑みを浮かべて、真紘は僕から白い丸っこいイキモノのキーホルダーを受け取った。
笑顔なのに、本当に、嬉しいのかどうか。
疑って見てしまう。
だから、一言。
釘を刺してしまった。
「姪っ子が一所懸命作ったヤツだから、大事にしてね、真紘」
その瞬間の、真紘の表情。
瞳に力が入って、いつもとは違う、湿っぽい熱い眼差しで僕を見た。
ほんの一瞬、ほんの一瞬だった。
次に瞬きをしたときは、いつもの真紘に戻っていたから。
一瞬だったのに、脳裏に焼き付いて離れない。
そんな、表情だった。
胸が........ドキッとする。
「ありがとう。大事にする。
そうだ!今日、飲みに行かない?姪っ子さんになんかお礼がしたいから、知恵を貸してよ」
「........いいよ。今日は予定ないし」
「じゃあ、俺、いい店知ってるから!そこにしていい?」
「うん、まかせるよ」
気乗りは、しなかったんだ。
ましてや、心の底では苦手としているヤツと飲むなんてさ。
でも......。
さっきの表情が気になってしまって、さっきの表情の原因が知りたくて、僕はつい了承してしまったんだ。
「んぁ.....はぁ、ぁ......」
ありえないくらい声をあげる。
僕がおかれているこの状況が、うまく理解できない。
真紘の吐息が耳元で聞こえて、僕の中に何が入っててずっと振動しているから、僕の中がかき乱される。
何.....?
なんで?
お洒落な店、だと思ったんだ。
個室っぽい作りで、ソファが大きめで。
天蓋みたいなオーガンジーのカーテンが、個室周りを覆うように遮断して。
野郎2人でくるようなとこじゃないなって。
普通に居酒屋でもよかったのに。
「前に取引先の人と来てさ、こんなとこだけど食事も美味しいし意外と穴場なんだよ」
そう言って真紘は、いつもの無邪気な笑顔を僕にむけて、薄いピンク色のスパークリングワインを差し出したんだ。
一口飲んだところで、そこから記憶がない。
気がついたら、真紘が僕に覆いかぶさっていて。
「やっ!真.......絋....!!」
肌が触れ合ってる感覚と、僕の中で振動する感覚に混乱して、思わず叫んでしまう。
.........真紘と、目が合った。
あの時の目.......湿っぽくて、熱い.......あらゆる感情が渦巻いているような、そんな目。
真紘は優しく笑うと、叫んだ口を塞ぐように僕に唇を重ねる。
口の中を舌が割って入ってきて、余計、混乱する。
でも、なぜか、抗えないんだ。
されるがまま、そんな状態。
「秋斗、舌出して」
そう有無を言わさない真紘の言葉に抵抗することなく、従ってしまう僕がいる。
「お酒、秋斗には効き過ぎちゃったね」
「.....な......なんで.....?」
「周り、見てごらんよ」
僕は薄い布越しに、周りを見た。
........驚愕......って言葉がぴったりくるくらい、息が止まるかと思った。
どの個室からも、男女問わず、媚を含んだ艶めかしい声が響いていて.......シンプルに絡み合う人もいれば、複数人で絡まっていたりして.......。
な、何。ここ。
だから、こんな変な......作り。
いやだ.......。
頭が......痛い.......。
ここから、出たい.......。
「泣かなくていいよ、秋斗。
大丈夫、俺がついてる。俺に任せて。
........やっと、やっと、本物が手に入ったんだ。
俺が乱暴にするわけないじゃないか」
遠くでカチカチ音が聞こえた気がしたと思った瞬間、僕の中で振動していたモノが、より強く、より激しく、振動しだす。
何.....やめて......これ、とって.......。
「あっ.....いぁ......」
「ずっと、ずっと、好きだったんだ、秋斗。
君の何もかもを手に入れたくて、君の持ち物を全部真似した。
君が好きな子だってそう。
俺以外、見ないで欲しいから。
いつの間にか、俺の周りは秋斗のものばっかりになっていて.......。
気がついたら秋斗の偽物ばっかりで.........。
やっぱり、本物の秋斗が欲しい。
秋斗の姪っ子にすら盗られたくない。
.........でも、もう、秋斗は俺のものだ」
そして、また、秋斗は僕に強く唇を重ねる。
「もう、いいかな?」
僕の中でかき乱すくらい振動していたモノが引っ張り出されて、間髪入れず、暖かい指が入ってきて僕の中を弾く。
反射的に体がしなるように.....反り返った。
「んぁっ!.....や、やぁ」
「なんだ、ヒクついてんじゃん。そんなに欲しがらないでよ」
「ち.....違っ.....!!.....ん」
真紘は僕に顔を近づけて、片方の手で僕の頰を優しく撫でた。
その手の感触と、下の手の感触があまりにも違いすぎて、混乱して涙が出てくる。
「泣かないで、秋斗。
ちゃんと、俺のことが〝好きだ〟って、〝欲しい〟って言えたら、もう真似っこも、秋斗のものを横取りしたりもしない。
秋斗を楽にしてあげる。
.........言える?秋斗。ちゃんと、言える?」
僕には、ちゃんと思考できる正常な頭は、もうないのに......。
快楽に溺れそうな体は、何故か、真紘を求めているのに........。
〝NO〟は、言えない.......。
「....... 真紘、好き........真紘が欲しい」
「ごめん、よく聞こえないよ」
「真紘....好き........真紘が、欲しい.......もう、勘弁して.......早く.....」
真紘は僕の頭を撫でて、にっこり笑った。
「おりこうさん、秋斗。ご褒美をあげるよ」
奥、深くを。
真紘が強く突き上げてくる。
絡みつくように、吸い付くように.......真紘が中でかき乱す。
胸をいじる感覚や、僕のを擦る感覚が。
僕の思考を停止させて、本能のまま、体が反り返る。
腰が揺れる.......。
真紘から出る熱いのが僕の中に注がれて、広がる度に、僕は高揚感と絶望感の間で、気が狂いそうになった。
真紘の真似っこから始まったんだ。
真似っこがイヤで、真紘が苦手で。
そんな真紘が、嫌いだったハズなのに.....。
僕は、真紘を求めて、離れたくなくて。
繋がって。
好きになってしまって......。
真紘は、最初からそのつもりだったんだろうか?
「.....やぁ.....中.....やだ.......出さ....ないで」
「.......嫌がってるの?.....それとも、欲しがってるの?.......しょうがないな、秋斗。
たくさん、たくさん出してあげる。
俺ので満たして、愛してあげるよ」
そして、また。
僕を襲う、高揚感と絶望感。
あ......だめだ........。
僕は、もう........正常に戻れない。
どうしても手に入れたかったあの人のキモチとか。
大切に、大切に。
少しずつ目標に近づいて、やっとの思いで自分の手中に入れたのに。
次の日には、全く同じモノ、もしくはそれに近いものを、真紘は持っている。
僕が好きだったあの人は、いつの間にか真紘と付き合い出していて。
僕の思いは、あっけなく、木っ端みじんになる。
最初は、気にしすぎかと思ったんだ。
だんだん真紘とカブる持ち物や好みが頻回になってきて。
偶然.....にしては、できすぎていて。
偶然とは、思えなくなって。
僕の手の中にあるモノが急に色あせて見えたり、あんなに好きだったあの人を見ることさえも億劫になって。
悔しさとか、悲しさとか、裏切りとか。
色んな気持ちが入り混じった僕の心は、サイテーな気分になってしまう。
気分がサイテーだと、人間としてもイヤなヤツに思えて、僕はサイテーな人間なんじゃないだろうかって、落ち込んでしまう。
できれば、もう。
アイツとは関わり合いになりたくないし、正直、僕をほっといてほしい。
僕のことを気にしないでほしい。
だって、僕は知ってるんだ。
低く優しい声で「秋斗」って僕を呼ぶくせに。
一方では、冷たい眼差しで僕を見据える。
蔑む.....って、言うのかな.....?
僕が、一体何をした?
答えが分からないまま、こういう関係が続いてくると、さすがに心も荒れてくるし。
誰にも言えないから、さらに落ち込んでくる。
だから、僕は無意識にも意識的にも、アイツを避けてしまう。
避けてるのに。
あの低く優しい声で、僕を呼ぶんだ.....。
「秋斗」
「......何?真紘」
「そのキーホルダー、かわいいね。どうしたの?」
「キーホルダー?」
僕は、真紘に指摘された身に覚えのないキーホルダーの存在にドキッとした。
そして、カバンを慌てて見たんだ。
あぁ、これ......やられた。
「姪っ子だ。
姪っ子が最近プラ板にハマってて、やたらめったらキーホルダーとか作ってるんだ。
多分、その中の1つだよ」
あれだけやめろ、って言ったのに。
5歳の姪っ子は、僕の目を盗んで遊び感覚でそのプラ板キーホルダーの1つを、僕のカバンに勝手につけたんだ。
姪っ子はめちゃめちゃかわいいけど、こういう時は、かわいくない。
「なんていうキャラクター?」
「なんだったっけな.....えーと、すみっこナントカ。確かこれ、〝とんかつのはじっこ〟だ」
「〝とんかつのはじっこ〟?何それ?」
真紘は、目がなくなるように顔をくしゃっとして、楽しそうに笑う。
「そういうキャラクターなんだって」
「上手だね。
俺、欲しい!姪っ子さんにもらえないかな?」
.......また。
また、始まった。
真似っこ。
いくら写して描いたとはいえ、所詮、5歳児が作ったプラ板キーホルダーをなんで欲しがるんだ、コイツは。
......まぁ、そんなことを言ったら、姪っ子も喜ぶし......。
一応、頼んでみようかな?
「いいと思うよ。
今、幼稚園も夏休みでほとんど毎日、姉ちゃんが連れて帰ってきてるから、帰ったら聞いてみるよ」
「ありがとう!」
「なんで、欲しいわけ?」
「だって、かわいいから!」
本心じゃない、だろ。それ。
だってほら。
僕にまた、いつもの冷たい眼差しをむけて。
なんなんだ、本当に。
僕、何をした?
真紘と僕は同期なんだ。
背も高くて、男前で、優しくて。
あっという間に人気者になって、真紘は常に人の中心にいる。
正直、真紘のオーラというか、なんというか。
とにかくキラキラしているのが、真紘から発散されてるみたいに。
吸い寄せられるように、人が集まる。
目が離せないくらい、視線を集める。
僕にはそんな、真紘のようなキラキラしたものは、備わっていないし、僕はあんまり人と積極的に接するのが、得意な方ではないから。
人の中心にいたいとか、そんなの、どうでもよかったんだ。
それでも真紘は僕に気を使ってか、話しかけてくる。
......その中心に、僕を呼ぼうとするんだ。
あの低く優しい声で。
僕と真紘は、だんだん話すようになって、親しくなって、意外と気があうのも判明して。
退社後に飲みに行ったり、休みには一緒に出かけたりするようになった。
でも、ある日ー。
僕は、真紘に違和感を感じたんだ。
真紘のネクタイ......僕のと一緒だ。
量販モノだし、どこにでもあるネクタイなんだけど。
その時のその一瞬、僕の胸が大きく音を立てて動いたの感じた。
「........そのネクタイ、いいね」
「でしょ?たまには、ブルーもいいかなぁって」
あたかも、最初から自分のモノって言う感じで話すから、余計、違和感をもったんだ。
ブルー、好きだった?
細いネクタイは、結びににくいとか言ってなかった?
そして。
にこにこ笑いながら話す表情に、重なる、僕を見る冷たい瞳。
その瞬間から。
僕は、真紘に対して微妙な感情を抱いている。
嫌いなのか、好きなのか。
正直分かんない。
だから、僕の心は、荒れてくるんだ。
「真紘、総務の美人と別れたんだって」
「しっ!声が大きいってば」
同じフロアの女の子の話し声が耳に入る。
あ、あの人.....。
真紘と別れちゃったんだ。
.......別に〝チャンス!〟とか〝だから言ったのに〟とか。
あの人に対して、そういう感情すら起こらなくなってしまった自分にうんざりする。
もし、今、真紘が自分の立場だったとしたら、きっと気の利いた言葉をあの人にかけるに違いない。
でも僕は、真紘じゃない。
そしてあの人に対して、僕は勝手に傷ついているから。
そんな、気持ちのままで、あの人に話なんかできないよ......。
やっぱり、僕は。
誰にも言えない複雑な感情を抱えて、さらに落ち込むんだ。
「ねぇ、プラ板のキーホルダー、一つもらっていい?」
僕が家に帰ると、姪っ子はひたすらプラ板に絵を描いていて。
僕の言葉に恥ずかしそうに笑う。
「秋斗には、あげたよ?」
「僕のじゃないよ。僕のお仕事の人が欲しいんだって」
「そうなの?そのヒト、すみっこ、すきなの?すみっこのどれがすき?」
おしゃまな5歳児の特技はおしゃべりで、僕に矢継ぎ早に質問する。
「どうかな?かわいいから、どれでもいいんだって」
「えー?そうなの?.....どれがいいかなぁ?そのヒト、かわいい?」
「かわいい......かな?」
「どんないろがすき?」
「んー.....白かな?」
姪っ子は、しばらくじっと考えて、ひらめいたように明るい顔をして、僕に一つのプラ板キーホルダーを渡してきた。
白い丸っこい、イキモノ。
「これ、何?」
「しろくま」
「......しろくま?かわいいね。僕のお仕事の人も、喜ぶよ。ありがとう」
姪っ子は僕の言葉ににっこり笑う。
「僕のカバンとかに、勝手にキーホルダーつけないでね」
続けて言った僕の言葉に、姪っ子はにっこり笑顔をバツの悪そうな笑顔にかえた。
僕はそのキーホルダーを見つめた。
真紘は、何がしたいのかな?
僕と親密になって。
僕のモノとか片っ端から欲しがって、手に入れて。
それでいて、僕に冷たい眼差しを送って。
僕は、真紘が、よくわからない。
「ありがとう!秋斗!嬉しいっ!」
満面の笑みを浮かべて、真紘は僕から白い丸っこいイキモノのキーホルダーを受け取った。
笑顔なのに、本当に、嬉しいのかどうか。
疑って見てしまう。
だから、一言。
釘を刺してしまった。
「姪っ子が一所懸命作ったヤツだから、大事にしてね、真紘」
その瞬間の、真紘の表情。
瞳に力が入って、いつもとは違う、湿っぽい熱い眼差しで僕を見た。
ほんの一瞬、ほんの一瞬だった。
次に瞬きをしたときは、いつもの真紘に戻っていたから。
一瞬だったのに、脳裏に焼き付いて離れない。
そんな、表情だった。
胸が........ドキッとする。
「ありがとう。大事にする。
そうだ!今日、飲みに行かない?姪っ子さんになんかお礼がしたいから、知恵を貸してよ」
「........いいよ。今日は予定ないし」
「じゃあ、俺、いい店知ってるから!そこにしていい?」
「うん、まかせるよ」
気乗りは、しなかったんだ。
ましてや、心の底では苦手としているヤツと飲むなんてさ。
でも......。
さっきの表情が気になってしまって、さっきの表情の原因が知りたくて、僕はつい了承してしまったんだ。
「んぁ.....はぁ、ぁ......」
ありえないくらい声をあげる。
僕がおかれているこの状況が、うまく理解できない。
真紘の吐息が耳元で聞こえて、僕の中に何が入っててずっと振動しているから、僕の中がかき乱される。
何.....?
なんで?
お洒落な店、だと思ったんだ。
個室っぽい作りで、ソファが大きめで。
天蓋みたいなオーガンジーのカーテンが、個室周りを覆うように遮断して。
野郎2人でくるようなとこじゃないなって。
普通に居酒屋でもよかったのに。
「前に取引先の人と来てさ、こんなとこだけど食事も美味しいし意外と穴場なんだよ」
そう言って真紘は、いつもの無邪気な笑顔を僕にむけて、薄いピンク色のスパークリングワインを差し出したんだ。
一口飲んだところで、そこから記憶がない。
気がついたら、真紘が僕に覆いかぶさっていて。
「やっ!真.......絋....!!」
肌が触れ合ってる感覚と、僕の中で振動する感覚に混乱して、思わず叫んでしまう。
.........真紘と、目が合った。
あの時の目.......湿っぽくて、熱い.......あらゆる感情が渦巻いているような、そんな目。
真紘は優しく笑うと、叫んだ口を塞ぐように僕に唇を重ねる。
口の中を舌が割って入ってきて、余計、混乱する。
でも、なぜか、抗えないんだ。
されるがまま、そんな状態。
「秋斗、舌出して」
そう有無を言わさない真紘の言葉に抵抗することなく、従ってしまう僕がいる。
「お酒、秋斗には効き過ぎちゃったね」
「.....な......なんで.....?」
「周り、見てごらんよ」
僕は薄い布越しに、周りを見た。
........驚愕......って言葉がぴったりくるくらい、息が止まるかと思った。
どの個室からも、男女問わず、媚を含んだ艶めかしい声が響いていて.......シンプルに絡み合う人もいれば、複数人で絡まっていたりして.......。
な、何。ここ。
だから、こんな変な......作り。
いやだ.......。
頭が......痛い.......。
ここから、出たい.......。
「泣かなくていいよ、秋斗。
大丈夫、俺がついてる。俺に任せて。
........やっと、やっと、本物が手に入ったんだ。
俺が乱暴にするわけないじゃないか」
遠くでカチカチ音が聞こえた気がしたと思った瞬間、僕の中で振動していたモノが、より強く、より激しく、振動しだす。
何.....やめて......これ、とって.......。
「あっ.....いぁ......」
「ずっと、ずっと、好きだったんだ、秋斗。
君の何もかもを手に入れたくて、君の持ち物を全部真似した。
君が好きな子だってそう。
俺以外、見ないで欲しいから。
いつの間にか、俺の周りは秋斗のものばっかりになっていて.......。
気がついたら秋斗の偽物ばっかりで.........。
やっぱり、本物の秋斗が欲しい。
秋斗の姪っ子にすら盗られたくない。
.........でも、もう、秋斗は俺のものだ」
そして、また、秋斗は僕に強く唇を重ねる。
「もう、いいかな?」
僕の中でかき乱すくらい振動していたモノが引っ張り出されて、間髪入れず、暖かい指が入ってきて僕の中を弾く。
反射的に体がしなるように.....反り返った。
「んぁっ!.....や、やぁ」
「なんだ、ヒクついてんじゃん。そんなに欲しがらないでよ」
「ち.....違っ.....!!.....ん」
真紘は僕に顔を近づけて、片方の手で僕の頰を優しく撫でた。
その手の感触と、下の手の感触があまりにも違いすぎて、混乱して涙が出てくる。
「泣かないで、秋斗。
ちゃんと、俺のことが〝好きだ〟って、〝欲しい〟って言えたら、もう真似っこも、秋斗のものを横取りしたりもしない。
秋斗を楽にしてあげる。
.........言える?秋斗。ちゃんと、言える?」
僕には、ちゃんと思考できる正常な頭は、もうないのに......。
快楽に溺れそうな体は、何故か、真紘を求めているのに........。
〝NO〟は、言えない.......。
「....... 真紘、好き........真紘が欲しい」
「ごめん、よく聞こえないよ」
「真紘....好き........真紘が、欲しい.......もう、勘弁して.......早く.....」
真紘は僕の頭を撫でて、にっこり笑った。
「おりこうさん、秋斗。ご褒美をあげるよ」
奥、深くを。
真紘が強く突き上げてくる。
絡みつくように、吸い付くように.......真紘が中でかき乱す。
胸をいじる感覚や、僕のを擦る感覚が。
僕の思考を停止させて、本能のまま、体が反り返る。
腰が揺れる.......。
真紘から出る熱いのが僕の中に注がれて、広がる度に、僕は高揚感と絶望感の間で、気が狂いそうになった。
真紘の真似っこから始まったんだ。
真似っこがイヤで、真紘が苦手で。
そんな真紘が、嫌いだったハズなのに.....。
僕は、真紘を求めて、離れたくなくて。
繋がって。
好きになってしまって......。
真紘は、最初からそのつもりだったんだろうか?
「.....やぁ.....中.....やだ.......出さ....ないで」
「.......嫌がってるの?.....それとも、欲しがってるの?.......しょうがないな、秋斗。
たくさん、たくさん出してあげる。
俺ので満たして、愛してあげるよ」
そして、また。
僕を襲う、高揚感と絶望感。
あ......だめだ........。
僕は、もう........正常に戻れない。
4
お気に入りに追加
17
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
俺の幼馴染はストーカー
凪玖海くみ
BL
佐々木昴と鳴海律は、幼い頃からの付き合いである幼馴染。
それは高校生となった今でも律は昴のそばにいることを当たり前のように思っているが、その「距離の近さ」に昴は少しだけ戸惑いを覚えていた。
そんなある日、律の“本音”に触れた昴は、彼との関係を見つめ直さざるを得なくなる。
幼馴染として築き上げた関係は、やがて新たな形へと変わり始め――。
友情と独占欲、戸惑いと気づきの間で揺れる二人の青春ストーリー。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる