上 下
107 / 111

107話  絆

しおりを挟む
大規模の神聖魔法が降り注いだからか、案内人はだいぶ後ろに下がってしまった。その隙に、レジスタンスのリーダーとプリストたちは俺がいるところに集まる。


「カイ様……!!ひ、左腕が!」
「私たちができるだけ時間を稼いでみます。神官様たちには、カイ様の治療をお願いします!」
「お前ら……なに、やってんだ……!」


そして、急に現れたそのメンツを見て、俺は驚愕するしかなかった。


「なんでここにいる!?帝国軍が一発で全滅されるのを見ただろ!?どうして街に戻らなかったんだ!!」
「英雄様たちですら勝てなかった怪物に、私たちが勝てるわけがありませんから」


聞きなれた声に、見知った顔だった。治癒魔法でぼやけていた意識が戻ると同時に、俺は目の前にいるのがキリエルだと知る。

俺から退却命令を受けたはずの、レジスタンスのリーダーだった。


「どうせ、ここでヤツを倒せないとすべてが終わってしまいます。なら、英雄様たちのサポートをした方がよっぽどいいとは思いませんか?」
「っ……!」
「それと、こちらを」


キリエルは笑って見せた後に、ポーチから小さいガラスの瓶を取り出した。


「リエル様が用意してくださったものです。市場には出回っていない、カイ様たち専用のエリクサーだと言っておりました。私たちが引き返そうとしたときに偶然、リエル様にお会いしたので」
「リエルが……?あいつ、街にいたんじゃ―――」
「帝国軍を全滅させたあの大爆発を見て、さすがに居ても立っても居られなかったのでしょう。この森まで来ようとしたのをかろうじて引き留めて、代わりにこのエリクサーをもらったのです」


かしこいリエルは、知っている。

戦場では自分が活躍できないと、彼女ならちゃんと知っているはずだ。にも関わらず、こんな危ないところまで来ようとしてたのか。

……大事にされてるな、俺。


「ありがとう、頂く」
「はい」


まだ動かせる右手でエリクサーをもらって、一気に呷った。瞬間、体の血筋を通して急激なエネルギーが流れていくのが感じられる。

痛みが軽減し、一瞬で頭が冴えた。隣で治療していたプリストたちも、傷の治り具合を見て驚いた顔をしている。


「ありがとう、もういい。俺は大丈夫だから、他の子たちを見てくれ」
「しかし、カイ様……!!」
「君たちが頑張ってくれたおかげで、左腕もちゃんと動かせるから。俺は大丈夫だ」


プリストたちに言いながら、俺は周りを見渡す。大きな木の下でニアたちが運ばれるのが見えた。

何人かの魔法使いたちが巨大な結界を張って、神官たちが一生懸命に治療魔法を施していた。

そのおかげか、彼女たちは徐々に意識を取り戻している。


「……ヤツの体にはマテリアルキューブが埋め込まれている」


安堵の息をこぼしながらも、俺はキリエルに説明を始めた。


「カルツの体にあったものと同じキューブだ。ヤツの体は再生するし、固い皮膚でそのキューブが守られている。俺たちは、心臓を狙わなきゃいけない」
「心臓ですね。了解しました」
「ああ」


立ち上がって、俺は目の前の風景を目に収める。勇敢に突撃した何人かが諸刃の剣にやられ、血を吹き出しながら死んで行く。

案内人は実に事務的な顔で、しかし俺をちゃんと見つめながら殺戮を繰り返していた。魔法を撃たれても体に傷一つできず、弄ぶような感覚で人を殺している。


「…………………」


殺す。

何があっても、ヤツを絶対に殺す。


「キリエル、頼みがある」
「はい、なんなりと」
「ちょっと試したいことがあるから、向こうにいるニアたちに作戦内容を伝えてくれ。ヤツを殺すのは、俺がやる」
「……はい!」


ヤツの目が黄色く光り始め、紫色の爆発が上がる。

どんどん、ヤツは近づいてくる。プリストたちの神聖魔法と兵士たちの奮闘をもってしても、ヤツの勢いは止まらなかった。

間もなくして、すべての説明を受けたキリエルはニアたちが集まっている木の下に駆け付ける。俺は再び深呼吸をした。


「さて、やるか」


あいつは絶対に、俺が殺す。

たとえ、俺の命と引き換えることがあったとしても。







「くほっ!?ぐ、ぁ……!!」
「死ねぇええ!!この怪物め!!」
「っ……!!あ、ぁぁああああああ!!!!」
「……………」


理解ができない。

純粋に、今の光景が案内人には理解できなかった。自分に飛び掛かってくる者たちの目は、一人の例外もなく恐怖に染まっていた。

このまま自分たちは死ぬのだって、彼らはちゃんと分かっている。なのに戦おうとするし、自ら死の闇に飛び込もうとする。

その矛盾が理解できなくて、一瞬戸惑ってしまった。しかし、この者たちも結局は死を迎える運命にある。

だから、案内人は機械的に人間たちを殲滅《せんめつ》して行った。義務を果たすために。己が生まれた存在意義を示すために。


「……………」
「……………」


遠くから、自分を燃やし尽くさんとばかりに睨むカイが見える。ボロボロになったはずの左腕は回復されていて、ヤツはもう正常に動けるらしかった。

とんだ化け物だな、と案内人は思う。しかし、もう終わりだ。

これ以上の手加減は、要らない。


「う、うぁああああああ!?!?」
「さ、さっきのアレだ!!!さっきの……!!」


たわむれに過ぎなかった魔力の剣を消し、空中に飛んだ。彼は帝国軍を一瞬で塵にした隕石を、またもや召喚させようとする。

小さな球体を作って空に放り投げ、魔力を集中させた。

間もなくして、青かった空が黒く覆われる。いくら案内人でも、この魔法は相当な負担がかかる技だった。

しかし、彼もこれ以上は遊びたくなかった。資格のある相手には、ちゃんとした礼儀を持って死に導かねば。


『どうする……?この魔法、お前は防げるのか?』


地面にいるカイを見つめながら、案内人は思う。さぁ、どうする。

これに耐えられるとは言わせないぞ。いくら治療を受けたとしても、使った魔力が戻るわけじゃない。ヤツの体内に巡る魔力はだいぶ、減っているはずだ。

理屈通りだと、ヤツもこの魔法を食らって他の人と同じく塵になるだろう。しかし、カイは飛び立っていた。

木の頂上に上がって、高く飛び立って赤い瞳を光らせた。案内人な目を見開き、すぐに戦闘態勢に取り掛かったが―――カイの狙いは、案内人ではなかった。

カイの狙いは、球体。


「っ!?」


片手で黒魔法の槍を召喚させ、そのまま投擲とうてきする。ほのかな光を宿っているその槍は球体に吸収されるように刺され―――そして、爆発した。

信じられないくらいの轟音が、世の中を揺らす。


「なっ!?」


こいつ、槍に神聖魔法の魔力を混ぜて……!それをわざと球体の核に触れさせて、無理やり爆発させたのか!

案内人は地面に着地した後、狼狽した顔で目の前の敵を見つめる。

燃え上がるような赤い瞳をしている敵は、冷酷な顔で自分を捉えていた。


「……戦闘センスだけは認めざるを得ないな、悪魔」
「これでも、元の世界ではけっこうやり手だったんだ」


カイは冗談半分でそう言って、笑って見せる。

もちろん、それがゲームの話だとは分からない案内人は、さらに緊張した顔になる。


「……次元を破る前の話か」
「そうだな。この世界に来る前の話だ」
「なのに、異邦人であるお前はこの世界を救おうとしている。何故だ?」
「……元の世界になかったものが、この世界にあるからな」


段々と、足音が聞こえてくる。

散らばっていた兵士たちが集まり、リーダーたちがその前に立つ。治療魔法を受けて意識を取り戻した英雄たちが前へ出る。

ニア、クロエ、ブリエン、アルウィン。運命のからくりだった少女たちが全員、カイの後ろで立ち並ぶ。

自分たちのリーダーであるカイと同じく、決然とした目をしながら。


「……………はっ」


全員が集まったその姿を見て。

案内人は、ピシッと笑いながら言う。


「元の世界にはなくて、この世界にはあるもの。それはなんだ?」
「絆」


カイは短く答えた後に、もう一言を添える。


「人はよく、幸せを絆と呼ぶんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

適正異世界

sazakiri
ファンタジー
ある日教室に突然現れた謎の男 「今から君たちには異世界に行ってもらう」 そんなこと急に言われても… しかし良いこともあるらしい! その世界で「あること」をすると…… 「とりあいず帰る方法を探すか」 まぁそんな上手くいくとは思いませんけど

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

処理中です...