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77話 覚醒
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「うあっ!?」
突然の地鳴りに驚いて、アルウィンは思わず悲鳴を上げた。彼女はそそくさと外へ出てなにが起きたのかを確認しようとする。
そして、見えた。教会と繁華街からだいぶ離れている皇室の方。その辺りで煙が上がっている光景が。
「え……?あれは―――」
「紫色の爆発だったの」
アルウィンの疑問に答えたのは、ブリエンだった。集中的な治療を受けてすっかり回復した彼女は、アルウィンの隣に立ちながら言う。
「あれ、黒魔法の爆発だった。たぶんバレたんでしょうね。情報を収集するために、あんな大技が使う必要はないし」
「………大丈夫でしょうか、みなさん」
「なに言ってるの。あの子たちは黒魔法使いなんでしょ?あの爆発を起こしたのも、あの子たちなんじゃない?」
「………」
ブリエンが言っていることは正しい。しかし、皇子もまた黒魔法を使えることを知ってしまった以上、どうしても心配になってしまう。
誰も、怪我しなければいいのですが。
アルウィンは両手を合わせながら、カイたちの無事をただただ祈った。
「う、うぁっ……」
隣の男が間抜けな声を出しながら、その場で倒れ込む。無理もない。
それなりに鬱蒼としていた森が、ニアの魔法一発で綺麗に破壊されたから。残ったのは広野で、俺が立てた魔法のシールド中だけが被害をまぬかれていた。
「まあ、さすがにこれで大丈夫だろうな」
黒魔法の爆発は魔力の膨張《ぼうちょう》でもあるけど、一種の巨大な呪いでもある。そのおかげか、俺たちを囲っていた敵はみんな跡形もなく消えていた。
俺は立ち上がって、さっそくニアの位置を確認した。まだ煙が上がっているせいで視界が狭いけど、魔力視野を使えば見つけられる。
間もなくして、俺は荒い息を吐いているニアを見つけた。少しよろめいてたから、俺は驚いて彼女に駆け付ける。
「ニア!!」
「ニア!大丈夫!?」
「カイ、クロエ……うん、私は大丈夫。でも、ちょっと疲れた」
クロエもびっくりしたのか、さっそくニアに駆け寄って状態を確認した。大技を使ったせいか、ニアの顔には疲労が滲んでいる。
当たり前かもしれない。元々ニアが持っていた悪魔の魔力は、シュビッツ収容所で俺に半分吸い取られたから。
今のニアはゲームのラスボスだった頃より魔力量が少ないし、これほどの大技を使ったんだから……疲れるのも当然だろう。
十字軍を倒すために大爆発をかました後も、ちょっと疲れていたし。
「魔力がちょっと足りない。でも、大丈夫。戦うには問題ない」
「でも、ニア……!」
「私は、まだ戦える。このまま突き進みたい」
ニアは珍しく決意に満ちた顔で俺を見上げてくる。つられてクロエも、判断を仰ぐように俺を見上げてきた。
俺は、後ろにいるレジスタンスの人たちの状態を確認する。
「君たちはどうだ?まだ戦えるか?」
「は、はい!俺たちもまだまだ戦えます!」
「そうか……」
俺は荒廃化した辺りを見回しながら考える。正直、ここまで来て引き下がる必要はないように見えた。
それなりの敵が襲って来たけど、ニアが一発で倒してくれたし。危険要素であるカイと初老の騎士も、さっきの爆発で戦闘不能になったと見た方が正しい。
本来の目的だった情報もある程度は集めたが、まだ物足りない感じはある。唯一の気がかりはニアの疲れだけど……その分は、俺がカバーすればいいだろう。
「よし、じゃこのまま皇室の中に入ろう。だけど、絶対に気を抜くなよ。君たちも知っているだろうけど、俺たちは今敵陣の真ん中にいるんだ」
「はい!」
「クロエは今まで通りに存分に暴れて。ニアは俺が守るから」
「うん、分かった」
「よし……じゃ、みんな改めて出発するぞ。ここから先になにがあるか分からないから、気を引き締めて――――」
そこまで言った瞬間。
「くはぁっ!?」
急にプシュッ、と肌が裂かれる音と共に、一人の男の悲鳴が上がった。
「ぷはっ!?けほっ、くぉっ……」
想像もつかなかった状況にみんな驚愕していると、次にまた他の男が倒れて、血しぶきが舞って―――その時になってようやく、俺は察する。
『―――カルツ!!』
人の目では追いつけない速度だけど、俺には見えた。黒いオーラ―に包まれた聖剣が振られているところを!
「う、うぁああ!?」
「危ない!」
その剣が次には隣の男の首を狙おうとして、俺はとっさに体を動かしてヤツの前に立ちはだかる。
瞬く間に魔力の盾を形成して、なんとかその剣を食い止めた。そして、見えてくる。
「きっ、さまぁ………きっさまぁああああ!!」
「……いい加減倒れろよ、お前!!」
顔の皮膚がむけたまま、それでも赤い目を光らせて俺を睨む……英雄だった獣の顔が。
こいつ、どうやって生き残った?剣で串刺しにされてから、ニアの魔法までもろに食らったはずなのに!?
まさか、ヤツの体の中に黒魔法が巡っているから、同じ属性の爆発があまり効かなかったのでは――――
「っ!?ニア、危ないっ!!!」
「え……?」
そうやって、目の前のカルツに気を取られていた時。
突然クロエの声が上がったと思えば、次にプシュッ、とおぞましい音が響いてきた。
全身の血がヒヤッとして、俺はニアとクロエがいるところに目を向ける。血が舞っていた。
クロエの血だった。
「………………………………………………………………………………………………………………………」
いつの間に現れた初老の男から、ニアを守るために。
クロエはニアを庇うようにして、ヤツの剣で肩を貫かれたのだ。
「あぐっ……!こん、の……!!」
「なっ……!?クソ、こうなったら!!」
狙いが外れて焦ったのか、男はそそくさと懐からスクロールを取り出して、開く。
「あ……ぐっ!」
そして、そのスクロールの中の文字が光り出した瞬間、クロエの体から一気に力が抜けて。
その隙を待っていたと言わんばかりに、男はクロエの体を引き寄せた後に、首を掴んで剣先を当てる。
「動くな、この悪魔ども!!こいつの命が惜しければ、大人しく引き下がれ!!」
その男の声は、ずいぶん遠くから聞こえてくるようだった。言葉は聞かれているのに、脳には響かない。
今の俺には、クロエしか見えなかった。
「……クロ、エ?」
衝撃を受けたようなニアの声。クロエのうめき声とだけが鮮明に響いて、体の中から何か湧き上がり始める。
呪いを食らって、苦しそうに悶えているクロエ。
肩から血を流しているクロエ。首筋に剣を当てられているクロエ。ぐったりしながらも必死に、俺を見つめようとするクロエ――――――――――
心臓がドクン、と鳴って。
「――――――――――――――――――――――――――――」
次の瞬間、俺の理性は綺麗に吹き飛んでしまった。
「仲間の命が惜しくないのか!!貴様ら、さっさと引き下が―――――」
「ぐるっ!?ぐ、ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
男は見る。
急に風が吹いたと思った瞬間に、悪魔と対峙していたカルツが吹き飛ばされる場面を。次第に起こる、巨大な黒い嵐を。
「―――――――――な、なっ」
次にまた、男は見る。
さっきまで跪いてぼうっとしていた悪魔の少女が、急に眼を赤く光らせた途端に―――巨大な悪魔の形相が、現れるところを。
「………………………………あ、ぁ」
精神操作が施されている状態でも、男は本能的に分かった。今感じているこの感情は恐怖で。
自分は、とんでもない地雷を踏んだかもしれないという事実を。
「―――――――――――」
「―――――――――――」
二人は何も言わなかった。
ただ目を赤く光らせたまま、それぞれの悪魔の形相を召喚させて、自分を睨んでいるだけ。
しかし、男は思い知る。この二人こそが真の悪魔であり―――
自分は、この二人に潰される運命だということを。
突然の地鳴りに驚いて、アルウィンは思わず悲鳴を上げた。彼女はそそくさと外へ出てなにが起きたのかを確認しようとする。
そして、見えた。教会と繁華街からだいぶ離れている皇室の方。その辺りで煙が上がっている光景が。
「え……?あれは―――」
「紫色の爆発だったの」
アルウィンの疑問に答えたのは、ブリエンだった。集中的な治療を受けてすっかり回復した彼女は、アルウィンの隣に立ちながら言う。
「あれ、黒魔法の爆発だった。たぶんバレたんでしょうね。情報を収集するために、あんな大技が使う必要はないし」
「………大丈夫でしょうか、みなさん」
「なに言ってるの。あの子たちは黒魔法使いなんでしょ?あの爆発を起こしたのも、あの子たちなんじゃない?」
「………」
ブリエンが言っていることは正しい。しかし、皇子もまた黒魔法を使えることを知ってしまった以上、どうしても心配になってしまう。
誰も、怪我しなければいいのですが。
アルウィンは両手を合わせながら、カイたちの無事をただただ祈った。
「う、うぁっ……」
隣の男が間抜けな声を出しながら、その場で倒れ込む。無理もない。
それなりに鬱蒼としていた森が、ニアの魔法一発で綺麗に破壊されたから。残ったのは広野で、俺が立てた魔法のシールド中だけが被害をまぬかれていた。
「まあ、さすがにこれで大丈夫だろうな」
黒魔法の爆発は魔力の膨張《ぼうちょう》でもあるけど、一種の巨大な呪いでもある。そのおかげか、俺たちを囲っていた敵はみんな跡形もなく消えていた。
俺は立ち上がって、さっそくニアの位置を確認した。まだ煙が上がっているせいで視界が狭いけど、魔力視野を使えば見つけられる。
間もなくして、俺は荒い息を吐いているニアを見つけた。少しよろめいてたから、俺は驚いて彼女に駆け付ける。
「ニア!!」
「ニア!大丈夫!?」
「カイ、クロエ……うん、私は大丈夫。でも、ちょっと疲れた」
クロエもびっくりしたのか、さっそくニアに駆け寄って状態を確認した。大技を使ったせいか、ニアの顔には疲労が滲んでいる。
当たり前かもしれない。元々ニアが持っていた悪魔の魔力は、シュビッツ収容所で俺に半分吸い取られたから。
今のニアはゲームのラスボスだった頃より魔力量が少ないし、これほどの大技を使ったんだから……疲れるのも当然だろう。
十字軍を倒すために大爆発をかました後も、ちょっと疲れていたし。
「魔力がちょっと足りない。でも、大丈夫。戦うには問題ない」
「でも、ニア……!」
「私は、まだ戦える。このまま突き進みたい」
ニアは珍しく決意に満ちた顔で俺を見上げてくる。つられてクロエも、判断を仰ぐように俺を見上げてきた。
俺は、後ろにいるレジスタンスの人たちの状態を確認する。
「君たちはどうだ?まだ戦えるか?」
「は、はい!俺たちもまだまだ戦えます!」
「そうか……」
俺は荒廃化した辺りを見回しながら考える。正直、ここまで来て引き下がる必要はないように見えた。
それなりの敵が襲って来たけど、ニアが一発で倒してくれたし。危険要素であるカイと初老の騎士も、さっきの爆発で戦闘不能になったと見た方が正しい。
本来の目的だった情報もある程度は集めたが、まだ物足りない感じはある。唯一の気がかりはニアの疲れだけど……その分は、俺がカバーすればいいだろう。
「よし、じゃこのまま皇室の中に入ろう。だけど、絶対に気を抜くなよ。君たちも知っているだろうけど、俺たちは今敵陣の真ん中にいるんだ」
「はい!」
「クロエは今まで通りに存分に暴れて。ニアは俺が守るから」
「うん、分かった」
「よし……じゃ、みんな改めて出発するぞ。ここから先になにがあるか分からないから、気を引き締めて――――」
そこまで言った瞬間。
「くはぁっ!?」
急にプシュッ、と肌が裂かれる音と共に、一人の男の悲鳴が上がった。
「ぷはっ!?けほっ、くぉっ……」
想像もつかなかった状況にみんな驚愕していると、次にまた他の男が倒れて、血しぶきが舞って―――その時になってようやく、俺は察する。
『―――カルツ!!』
人の目では追いつけない速度だけど、俺には見えた。黒いオーラ―に包まれた聖剣が振られているところを!
「う、うぁああ!?」
「危ない!」
その剣が次には隣の男の首を狙おうとして、俺はとっさに体を動かしてヤツの前に立ちはだかる。
瞬く間に魔力の盾を形成して、なんとかその剣を食い止めた。そして、見えてくる。
「きっ、さまぁ………きっさまぁああああ!!」
「……いい加減倒れろよ、お前!!」
顔の皮膚がむけたまま、それでも赤い目を光らせて俺を睨む……英雄だった獣の顔が。
こいつ、どうやって生き残った?剣で串刺しにされてから、ニアの魔法までもろに食らったはずなのに!?
まさか、ヤツの体の中に黒魔法が巡っているから、同じ属性の爆発があまり効かなかったのでは――――
「っ!?ニア、危ないっ!!!」
「え……?」
そうやって、目の前のカルツに気を取られていた時。
突然クロエの声が上がったと思えば、次にプシュッ、とおぞましい音が響いてきた。
全身の血がヒヤッとして、俺はニアとクロエがいるところに目を向ける。血が舞っていた。
クロエの血だった。
「………………………………………………………………………………………………………………………」
いつの間に現れた初老の男から、ニアを守るために。
クロエはニアを庇うようにして、ヤツの剣で肩を貫かれたのだ。
「あぐっ……!こん、の……!!」
「なっ……!?クソ、こうなったら!!」
狙いが外れて焦ったのか、男はそそくさと懐からスクロールを取り出して、開く。
「あ……ぐっ!」
そして、そのスクロールの中の文字が光り出した瞬間、クロエの体から一気に力が抜けて。
その隙を待っていたと言わんばかりに、男はクロエの体を引き寄せた後に、首を掴んで剣先を当てる。
「動くな、この悪魔ども!!こいつの命が惜しければ、大人しく引き下がれ!!」
その男の声は、ずいぶん遠くから聞こえてくるようだった。言葉は聞かれているのに、脳には響かない。
今の俺には、クロエしか見えなかった。
「……クロ、エ?」
衝撃を受けたようなニアの声。クロエのうめき声とだけが鮮明に響いて、体の中から何か湧き上がり始める。
呪いを食らって、苦しそうに悶えているクロエ。
肩から血を流しているクロエ。首筋に剣を当てられているクロエ。ぐったりしながらも必死に、俺を見つめようとするクロエ――――――――――
心臓がドクン、と鳴って。
「――――――――――――――――――――――――――――」
次の瞬間、俺の理性は綺麗に吹き飛んでしまった。
「仲間の命が惜しくないのか!!貴様ら、さっさと引き下が―――――」
「ぐるっ!?ぐ、ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
男は見る。
急に風が吹いたと思った瞬間に、悪魔と対峙していたカルツが吹き飛ばされる場面を。次第に起こる、巨大な黒い嵐を。
「―――――――――な、なっ」
次にまた、男は見る。
さっきまで跪いてぼうっとしていた悪魔の少女が、急に眼を赤く光らせた途端に―――巨大な悪魔の形相が、現れるところを。
「………………………………あ、ぁ」
精神操作が施されている状態でも、男は本能的に分かった。今感じているこの感情は恐怖で。
自分は、とんでもない地雷を踏んだかもしれないという事実を。
「―――――――――――」
「―――――――――――」
二人は何も言わなかった。
ただ目を赤く光らせたまま、それぞれの悪魔の形相を召喚させて、自分を睨んでいるだけ。
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