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63話 泥棒猫たちが多すぎる
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蓮と莉愛は幼い頃から、よく手を繋いで二人きりで街に出かけていた。
水族館も行ったし、ちょっとおしゃれなカフェも行ったし、遊園地はもちろん、花見とかお祭りとかでもいつも一緒だった。
付き合う前からも、一緒に出掛けるのが当たり前な関係。だけど、恋人として破綻した後には滅多に出かけなくなった。
「……お、おはよう」
「ああ、おはよう……」
だから、今の二人は緊張している。
なにせ、まだ正式によりを戻したわけじゃないけど、気持ち的にはもう恋人の段階を乗り越えた関係なのだ。
当然、久しぶりのデートに意識もするし、少しはおしゃれもする。
昔のように、二人は駅前で落ち合う。家を出る時間もわざとずらしてたから、二人は互いの姿を見たとたんに頬を染めるしかなかった。
「…………なに、おしゃれしてるのよ。バカ」
「いや、それは君だって……」
蓮はニートのカーディガンに白いシャツ、そして黒いスラックスという無難な格好をしている。
しかし、蓮は普段はつけない腕時計をつけていて、今回のデートのためにカーディガンも新しく買っていた。その事実をよく知っている莉愛は、照れるしかなかった。
そして、莉愛は。
「あんま、ジロジロみないでぇ……」
「…………」
秋という季節に似合う亜麻色のワンピースに、白いベレー帽。
その上に、ハート形のネックレスもポイントとしてつけていて、落ち着いていながらも非常に破壊力の高い服装をしていた。
なにより、異国的な見た目に反してしおらしい姿をしているギャップが、とにかく凄まじかった。
実際に、駅を行きかう人たちがちらちらと莉愛を見るくらいなのだ。
だけど、やはり莉愛の目には蓮しか入らなくて。
それに、他の女性たちに蓮が見られている事実が嫌になって、彼女はそそくさと蓮と手を繋ぐ。
「ほら、行こう?今日は映画見に行くんでしょ?」
「あ、あ……うん。そうだな」
そして、同じく莉愛を誰にも見せたくないと思った蓮は、すぐに彼女の手を握る。
恋人つなぎにして、蓮は周りに示すかのようにそのまま手をポケットの中に入れた。
急な展開に莉愛は驚いて、体をビクンと跳ねさせる。
「ちょ、ちょっ!?蓮!?」
「……うん?」
「こ、これ………いや、その……」
ツッコミの勢いは尻すぼみになって、莉愛はうつむきながら答える。
「……なんでもない」
「……そっか」
昔はよくこんな風に手を繋いでいた。もちろん、繋いだ手をポケットに入れるのは莉愛の方が多かったけど。
でも、あの蓮がこんなに積極的に攻めてくるとは思わなくて、莉愛はだいぶ戸惑ってしまう。
「ほら、遅れる前に早く行こう」
「……はいっ」
デート開始5分で、莉愛の心臓はもうぐちゃぐちゃになった。
ずるい、ずるいでしょ。心の中で何度もそう叫ぶけど、現実の莉愛は従順に蓮に手を握られることしかできなくて。
結局、そのまま映画館に行って、二人は発券機の前の列に並ぶ。週末だからか、周りに人がけっこう多い。
「……えっと、ごめんね?」
「えっ?」
そして、見る視線が増えて恥ずかしくなったのか、蓮は莉愛の手を離してふうと深呼吸をする。
……普段なら冷たくされたとプンプンするところだけど、今回ばかりは仕方がなかった。莉愛も相当恥ずかしかったから。
だけど、次の瞬間。
「ねぇ、ねぇ。あの子ちょっといいじゃない?」
「ええ~~でも、隣の子彼女なんでしょ?」
「そうかな?恋人にしては妙によそよそしい気がするけど??」
後ろから聞こえてきた女性たちの小声に、莉愛の神経が急に尖る。二人はだいぶ声を抑えていたけど、耳を傾ければ聞こえる程度の音量で話をしていた。
その後に、少し躊躇いがちだった女性も相槌を打ち始める。
「でも、確かにいいかも。まだ高校生かな?」
「ううん~~大学生じゃない?妙に大人しいけど」
「あ、確かに隣の子がちょっと幼っぽく見えるかも。でもあの子、めっちゃレベル高いじゃん……やっぱり彼女じゃない?」
「まあ、ダメもとでちょっとやってみようか?」
莉愛の表情が死ぬ。
この泥棒猫が……!!ムカッとくる感情を表すように、莉愛はとっさに振り向いて蓮を見上げる。
「うん?あ、ちょっ……!」
そのまま、莉愛は連の両手を握って無理やり自分の首に回してから、フイッと前を向く。
唐突な愛情表現に、周りの人たちの動きが凍り付く。でも、すぐに初々しいね~~と言いながら微笑ましく二人を見つめていた。
「ちょっ、莉愛……!?これ!」
「うるさい。このまま行くよ」
「いや、このままじゃ無理だって!ほら、落ち着こう?手を離してくれませんか~?」
「離したら帰る」
「………………………………………………」
「離したら、帰る」
有無を言わせない発言に、蓮は「はい……」と素直に従うしかなかった。
結局、蓮は莉愛をバックハーグしたまま、発券をすることになった。
水族館も行ったし、ちょっとおしゃれなカフェも行ったし、遊園地はもちろん、花見とかお祭りとかでもいつも一緒だった。
付き合う前からも、一緒に出掛けるのが当たり前な関係。だけど、恋人として破綻した後には滅多に出かけなくなった。
「……お、おはよう」
「ああ、おはよう……」
だから、今の二人は緊張している。
なにせ、まだ正式によりを戻したわけじゃないけど、気持ち的にはもう恋人の段階を乗り越えた関係なのだ。
当然、久しぶりのデートに意識もするし、少しはおしゃれもする。
昔のように、二人は駅前で落ち合う。家を出る時間もわざとずらしてたから、二人は互いの姿を見たとたんに頬を染めるしかなかった。
「…………なに、おしゃれしてるのよ。バカ」
「いや、それは君だって……」
蓮はニートのカーディガンに白いシャツ、そして黒いスラックスという無難な格好をしている。
しかし、蓮は普段はつけない腕時計をつけていて、今回のデートのためにカーディガンも新しく買っていた。その事実をよく知っている莉愛は、照れるしかなかった。
そして、莉愛は。
「あんま、ジロジロみないでぇ……」
「…………」
秋という季節に似合う亜麻色のワンピースに、白いベレー帽。
その上に、ハート形のネックレスもポイントとしてつけていて、落ち着いていながらも非常に破壊力の高い服装をしていた。
なにより、異国的な見た目に反してしおらしい姿をしているギャップが、とにかく凄まじかった。
実際に、駅を行きかう人たちがちらちらと莉愛を見るくらいなのだ。
だけど、やはり莉愛の目には蓮しか入らなくて。
それに、他の女性たちに蓮が見られている事実が嫌になって、彼女はそそくさと蓮と手を繋ぐ。
「ほら、行こう?今日は映画見に行くんでしょ?」
「あ、あ……うん。そうだな」
そして、同じく莉愛を誰にも見せたくないと思った蓮は、すぐに彼女の手を握る。
恋人つなぎにして、蓮は周りに示すかのようにそのまま手をポケットの中に入れた。
急な展開に莉愛は驚いて、体をビクンと跳ねさせる。
「ちょ、ちょっ!?蓮!?」
「……うん?」
「こ、これ………いや、その……」
ツッコミの勢いは尻すぼみになって、莉愛はうつむきながら答える。
「……なんでもない」
「……そっか」
昔はよくこんな風に手を繋いでいた。もちろん、繋いだ手をポケットに入れるのは莉愛の方が多かったけど。
でも、あの蓮がこんなに積極的に攻めてくるとは思わなくて、莉愛はだいぶ戸惑ってしまう。
「ほら、遅れる前に早く行こう」
「……はいっ」
デート開始5分で、莉愛の心臓はもうぐちゃぐちゃになった。
ずるい、ずるいでしょ。心の中で何度もそう叫ぶけど、現実の莉愛は従順に蓮に手を握られることしかできなくて。
結局、そのまま映画館に行って、二人は発券機の前の列に並ぶ。週末だからか、周りに人がけっこう多い。
「……えっと、ごめんね?」
「えっ?」
そして、見る視線が増えて恥ずかしくなったのか、蓮は莉愛の手を離してふうと深呼吸をする。
……普段なら冷たくされたとプンプンするところだけど、今回ばかりは仕方がなかった。莉愛も相当恥ずかしかったから。
だけど、次の瞬間。
「ねぇ、ねぇ。あの子ちょっといいじゃない?」
「ええ~~でも、隣の子彼女なんでしょ?」
「そうかな?恋人にしては妙によそよそしい気がするけど??」
後ろから聞こえてきた女性たちの小声に、莉愛の神経が急に尖る。二人はだいぶ声を抑えていたけど、耳を傾ければ聞こえる程度の音量で話をしていた。
その後に、少し躊躇いがちだった女性も相槌を打ち始める。
「でも、確かにいいかも。まだ高校生かな?」
「ううん~~大学生じゃない?妙に大人しいけど」
「あ、確かに隣の子がちょっと幼っぽく見えるかも。でもあの子、めっちゃレベル高いじゃん……やっぱり彼女じゃない?」
「まあ、ダメもとでちょっとやってみようか?」
莉愛の表情が死ぬ。
この泥棒猫が……!!ムカッとくる感情を表すように、莉愛はとっさに振り向いて蓮を見上げる。
「うん?あ、ちょっ……!」
そのまま、莉愛は連の両手を握って無理やり自分の首に回してから、フイッと前を向く。
唐突な愛情表現に、周りの人たちの動きが凍り付く。でも、すぐに初々しいね~~と言いながら微笑ましく二人を見つめていた。
「ちょっ、莉愛……!?これ!」
「うるさい。このまま行くよ」
「いや、このままじゃ無理だって!ほら、落ち着こう?手を離してくれませんか~?」
「離したら帰る」
「………………………………………………」
「離したら、帰る」
有無を言わせない発言に、蓮は「はい……」と素直に従うしかなかった。
結局、蓮は莉愛をバックハーグしたまま、発券をすることになった。
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