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58話 昔のように……と思っていたけど
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蓮と莉愛の初体験は、中学の時だった。
付き合っていた頃の二人は、もちろん性についてそれなりに意識していたのだ。
なにせ、小学校の時からハグをして、キスをして、互いには互いしかないと徐々に気づき始めていたから。
そんな二人が、当然お互いのことを意識しないわけもなく―――親愛の証だったキスは、徐々に湿り気を含み始めた。
『んん……ちゅっ、ちゅっ……』
『…………』
付き合ってからはキスする時間が長くなった。それだけじゃなく、舌を絡め合ったり唇を甘噛みしたりする頻度も、段々増えて行った。
中学2年生になった二人にとってキスは、もはやエッチの前触れみたいな意味を持っている行為だった。
だからか、週末に親たちが1階にいる時にも、蓮と莉愛は。
『………………蓮』
『…………………』
いつも通り抱きしめ合って、いつも通りキスをしてから―――結局、境界を超えてしまった。
あの時の記憶は、二人の中でとても鮮明な思い出だった。あんな風に生々しく欲望が暴発した経験が、二人にはないのだ。
エアコンをつけても少し熱い真夏。一階にいる親たち。布団をかぶったから余計に感じられる、お互いの感触。
「昔のように……あなたと、したいよ…………」
そして今、その感触が蘇ろうとしている。
3年という時間を超えて、蓮と莉愛は再びベッドの上にいた。莉愛は、やや潤った瞳で蓮を見つめ続ける。
「……莉愛」
「……お願い」
中学の時には、欲望を抑える必要があった。
なにせ、親たちにバレてはいけないから。声が漏れてもいけないし、激しくしすぎたせいでベッドを軋ませたりでもしたら……大変なことになるから。
でも、今の二人にとって障害物はもうなにもなかった。
この家には蓮と莉愛の二人きりで、互いのことしか見てないという事実も、ちゃんと分かっているから。
「…………っ」
蓮は悩む。最近の莉愛がエッチを意識し始めているのはなんとなく分かっていたけど、ここまでグッと来るとは思わなかった。
恋人でもないから、エッチをしてはいけない。でも、そのルールに従うには目の前の莉愛が魅力的すぎる。
初体験をした時とは違って大きくなった胸と、少しだけ幼げが消えて綺麗になりすぎている顔。
初体験の時と同じく、透き通っている青い瞳。きめ細かな肌に、綺麗な白金髪。
「……莉愛」
蓮は体を退かずに、やや震えている声を放つ。
莉愛はもう、首に両腕を巻いて離さないとばかりに、蓮を直視していた。
「……なに?」
「……言っとくけど、始まったら止まらないから」
「………………」
「いや、止められないから……だから、今のうちだぞ」
意味がない言葉だと分かっていつつ、蓮は言う。
「逃げるなら、今のうちだ。最後まで行ったら……もう、友達には戻れないからな?」
エッチをするのは、思ってた以上に色々な実感をもたらす。
少なくとも、二人にとってはそうだった。エッチは一種の境界線だから。誓いのようなものだから。
ただ気持ちいいだけのものじゃなく、互いの好きを暴発させて、その感情を喉が渇くまで伝える行為だから。
友達には戻れない。莉愛も本気でそう思っていた。たぶん、エッチをしたら―――先にあるのは永遠な別れか、永遠な家族か。どちらかになるだろう。
……だから。
「……蓮の、ヘタレ童貞」
「っ……!」
「ふふっ……なぁに?目が怖いよ?蓮?」
だからこそ、莉愛は連を煽る。
もう、知っているから。どのみち友達に戻るなんてできない。この感情を抱いたまま友達に戻れたら、枯れて死んでしまう。
莉愛は両足を蓮の腰に絡みつかせる。それはもう、昔によく使っていたエッチの誘い方だった。
「……俺の童貞捨てさせてくれたの、君だろ?」
「し~らない。土壇場でヘタレるから、非童貞でも童貞なの」
「へぇ……じゃ、本当にもう手加減しないからな」
「……うん、来て」
もう、後戻りできない。大丈夫、大丈夫だ。この時だけを待ってきたから。
蓮に襲ってもらえるなら本望だ。心臓がうるさく鳴り出す。呼吸が益々浅くなって、興奮で頭にもやがかかる。
本当に、するんだ。大丈夫、大好き。蓮になら、私のすべてをあげても―――
「……え?」
「……え?」
そして、その瞬間。
なにかの異変に気付いた蓮は、莉愛の服を脱がそうとした瞬間に目を丸くしてしまう。
それは莉愛も同じで、目を見開いたまま蓮を見上げていた。そして、鼻からなにか垂れてくるのが感じて―――
………少し鼻の下に触れてみると、赤い血が指先についていた。
「……………………」
「……………………」
鼻血。他でもない、莉愛の鼻血。明らかに興奮しすぎたせいで出たもの。
先に正気に戻った蓮は、ようやく状況を理解した後に……気づいたら、噴き出していた。
「ぷふっ」
「…………………」
「え……?あ、ご、ごめん!ごめんごめん!!い、いや!笑うつもりはなかったんだ!本当に、本当に笑うつもりじゃなかったんだよ!!」
「あ……………………ぅ」
「て、ティッシュどこ?と、とりあえず鼻血止まってからしようか!あはは~~えっと、ティッシュは……」
まろやかな雰囲気が一気に台無しになる。莉愛は恥ずかしすぎて、泣き出す寸前になった顔で体を震わせる。
蓮はなんとか状況を収めようと、精一杯ティッシュの箱を見つけようとするけど……次の瞬間。
「あ……きゃ、きゃああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!」
羞恥心が暴発した莉愛の悲鳴を、至近距離で聞いてしまって。
何故か湧き上がってくる笑い気を必死にこらえながら、莉愛を宥めるのだった。
付き合っていた頃の二人は、もちろん性についてそれなりに意識していたのだ。
なにせ、小学校の時からハグをして、キスをして、互いには互いしかないと徐々に気づき始めていたから。
そんな二人が、当然お互いのことを意識しないわけもなく―――親愛の証だったキスは、徐々に湿り気を含み始めた。
『んん……ちゅっ、ちゅっ……』
『…………』
付き合ってからはキスする時間が長くなった。それだけじゃなく、舌を絡め合ったり唇を甘噛みしたりする頻度も、段々増えて行った。
中学2年生になった二人にとってキスは、もはやエッチの前触れみたいな意味を持っている行為だった。
だからか、週末に親たちが1階にいる時にも、蓮と莉愛は。
『………………蓮』
『…………………』
いつも通り抱きしめ合って、いつも通りキスをしてから―――結局、境界を超えてしまった。
あの時の記憶は、二人の中でとても鮮明な思い出だった。あんな風に生々しく欲望が暴発した経験が、二人にはないのだ。
エアコンをつけても少し熱い真夏。一階にいる親たち。布団をかぶったから余計に感じられる、お互いの感触。
「昔のように……あなたと、したいよ…………」
そして今、その感触が蘇ろうとしている。
3年という時間を超えて、蓮と莉愛は再びベッドの上にいた。莉愛は、やや潤った瞳で蓮を見つめ続ける。
「……莉愛」
「……お願い」
中学の時には、欲望を抑える必要があった。
なにせ、親たちにバレてはいけないから。声が漏れてもいけないし、激しくしすぎたせいでベッドを軋ませたりでもしたら……大変なことになるから。
でも、今の二人にとって障害物はもうなにもなかった。
この家には蓮と莉愛の二人きりで、互いのことしか見てないという事実も、ちゃんと分かっているから。
「…………っ」
蓮は悩む。最近の莉愛がエッチを意識し始めているのはなんとなく分かっていたけど、ここまでグッと来るとは思わなかった。
恋人でもないから、エッチをしてはいけない。でも、そのルールに従うには目の前の莉愛が魅力的すぎる。
初体験をした時とは違って大きくなった胸と、少しだけ幼げが消えて綺麗になりすぎている顔。
初体験の時と同じく、透き通っている青い瞳。きめ細かな肌に、綺麗な白金髪。
「……莉愛」
蓮は体を退かずに、やや震えている声を放つ。
莉愛はもう、首に両腕を巻いて離さないとばかりに、蓮を直視していた。
「……なに?」
「……言っとくけど、始まったら止まらないから」
「………………」
「いや、止められないから……だから、今のうちだぞ」
意味がない言葉だと分かっていつつ、蓮は言う。
「逃げるなら、今のうちだ。最後まで行ったら……もう、友達には戻れないからな?」
エッチをするのは、思ってた以上に色々な実感をもたらす。
少なくとも、二人にとってはそうだった。エッチは一種の境界線だから。誓いのようなものだから。
ただ気持ちいいだけのものじゃなく、互いの好きを暴発させて、その感情を喉が渇くまで伝える行為だから。
友達には戻れない。莉愛も本気でそう思っていた。たぶん、エッチをしたら―――先にあるのは永遠な別れか、永遠な家族か。どちらかになるだろう。
……だから。
「……蓮の、ヘタレ童貞」
「っ……!」
「ふふっ……なぁに?目が怖いよ?蓮?」
だからこそ、莉愛は連を煽る。
もう、知っているから。どのみち友達に戻るなんてできない。この感情を抱いたまま友達に戻れたら、枯れて死んでしまう。
莉愛は両足を蓮の腰に絡みつかせる。それはもう、昔によく使っていたエッチの誘い方だった。
「……俺の童貞捨てさせてくれたの、君だろ?」
「し~らない。土壇場でヘタレるから、非童貞でも童貞なの」
「へぇ……じゃ、本当にもう手加減しないからな」
「……うん、来て」
もう、後戻りできない。大丈夫、大丈夫だ。この時だけを待ってきたから。
蓮に襲ってもらえるなら本望だ。心臓がうるさく鳴り出す。呼吸が益々浅くなって、興奮で頭にもやがかかる。
本当に、するんだ。大丈夫、大好き。蓮になら、私のすべてをあげても―――
「……え?」
「……え?」
そして、その瞬間。
なにかの異変に気付いた蓮は、莉愛の服を脱がそうとした瞬間に目を丸くしてしまう。
それは莉愛も同じで、目を見開いたまま蓮を見上げていた。そして、鼻からなにか垂れてくるのが感じて―――
………少し鼻の下に触れてみると、赤い血が指先についていた。
「……………………」
「……………………」
鼻血。他でもない、莉愛の鼻血。明らかに興奮しすぎたせいで出たもの。
先に正気に戻った蓮は、ようやく状況を理解した後に……気づいたら、噴き出していた。
「ぷふっ」
「…………………」
「え……?あ、ご、ごめん!ごめんごめん!!い、いや!笑うつもりはなかったんだ!本当に、本当に笑うつもりじゃなかったんだよ!!」
「あ……………………ぅ」
「て、ティッシュどこ?と、とりあえず鼻血止まってからしようか!あはは~~えっと、ティッシュは……」
まろやかな雰囲気が一気に台無しになる。莉愛は恥ずかしすぎて、泣き出す寸前になった顔で体を震わせる。
蓮はなんとか状況を収めようと、精一杯ティッシュの箱を見つけようとするけど……次の瞬間。
「あ……きゃ、きゃああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!」
羞恥心が暴発した莉愛の悲鳴を、至近距離で聞いてしまって。
何故か湧き上がってくる笑い気を必死にこらえながら、莉愛を宥めるのだった。
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