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51話 今夜はずっと一緒にいたい
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茜を含めた親たちは明日出国だと言っていたので、早めに寝床についていた。
そして当然、今の日比谷家には蓮と雅史、藍子しかいなかった。
茜たちが家にいるから、莉愛が変に日比谷家に泊まる必要がなくなるのだ。莉愛だって、家族と色々と積もる話があるだろう。
だけど、蓮には特にこれといった話題がなかった。大体、近況報告とかは毎回しているし、電話も割と頻繁にやっているからだ。
『ふふん~~頑張ってね?蓮』
『……なにを?』
『今度はちゃんとやるんだぞ~~?ははっ』
『だから、なにを!?』
何故か家に帰った途端に藍子と雅史に生暖かい言葉をかけられたが……それは無視するとして。
今の蓮は、とにかくテスト勉強に集中しようとしていた。
どこの大学に行く、という具体的な目標はないものの、最低限の勉強はしておきたかったのだ。
でも、今日莉愛にされたことを思い出すと。
「あああ……くそ、やっぱ集中できない……」
どうしても、勉強ができるような気分にはならなかった。
間近で見た莉愛の表情。唇。手を繋いだ時のドキドキに、足を絡める行為。
昔とあまりにもよく似ていて、だけど昔よりずっと鮮明で刺激的なスキンシップ。一人の女性としてちゃんと成長した……莉愛。
高校に入ったばかりの蓮には非常に刺激が強く、悶えることしかできないのである。
「………ヤバい」
結局、持っているペンを置いて蓮は部屋の天井を見上げる。目を閉じても開いても、莉愛しか見えない。
茜の言葉は蓮にちゃんと響いていた。結局、蓮もある程度は考えを改めて、莉愛の気持ちに応えなきゃいけない、と思うようになった。
そもそも、蓮も薄々気づいてはいたのだ。こんな思いを抱いたまま友達をずっと続けることなんて、できないと。
「………」
莉愛を失うかもしれないと思うと、今にも心臓がズタズタに切り裂かれそうになる。
でも、これは逃げることで解決できるような問題ではない。莉愛にちゃんと向き合って、それから―――自分が何とかしなきゃ、いけないのだ。
「本当に、莉愛が見ているあの夢が本当だったらな……」
自分たちが結婚したという未来。
それがもし本当のことだったら、どれだけ幸せなことだろう。そう思いながら苦笑していた時に、スマホの着信音が鳴る。
「……タイミングいいな、本当に」
相手は当然、莉愛だった。蓮は椅子にもたれかかったまま指を動かす。
『寝てる?』
『テス勉中』
『嘘つき、ならスマホ見るわけないじゃん』
『……どうしたの?こんな夜中に』
『会いたくて』
「…………………………は?」
返事はメッセージじゃなく、蓮の唇から放たれた。
ぼうっとしていると、またもやメッセージが飛んでくる。
『会いたい』
「………………………………」
あまりにもストレートすぎる発言に、蓮は面食らってしまう。
結局、返せる言葉は限られていた。
『うるさい。早く寝なさい』
『照れてるよね?反応が完全に照れるときの反応だけど?』
意気揚々とした絵文字まで飛ばされて、一瞬ムカッとする。
蓮は姿勢を正してから、さっきより早く文字を打っていった。
『テスト期間だから、勉強するか寝るかどちらかにした方がいいぞ。集中できないから』
『なんでこんなに冷たいの?中学の時みたいじゃん』
『深夜0時に会いたいって言われたら、誰でもこうなるのでは?』
『私、寒い』
『………………ちゃんと服着て寝たら?』
『寒い』
「……むちゃくちゃだな、こいつ」
蓮もある程度の自覚はあった。今の自分の反応はあまりにもぶっきらぼうで、愛想がないことを。
莉愛の言う通り、これは中学時代の自分が取っていた態度だ。
別れる寸前、莉愛の執着がめんどくさくなって冷たい言葉を平然と飛ばしていた、あの時の自分。
……でも、少しは成長しなきゃ。
『……そっちに行くから』
恥ずかしさを忍んでメッセージを送ると、しばらく返信が来なくなる。
莉愛のことだから、たぶん照れているか驚いているかのどっちかだろう。いや……さすがに前者か、これは。
秋用のアウターを取り出して羽織っていると、またもやスマホの着信音が鳴る。
届いた文章を確認して、蓮はぷふっと笑ってしまった。
『バカ』
「…………………………そうだよな」
深夜の0時に元カノに会いに行くなんて、さすがにどうにかしている。
そう分かっていながらも、蓮はなるべく音を立たないように注意しながら階段を下りて、さっそく家を出た。
七瀬家と日比谷家の距離はだいぶ近い。すぐ隣だから、2分もかからないうちに七瀬家が見えてくる。
そして、玄関の先に立っている莉愛も……ちゃんと視界に入ってきた。
「……………なんでここにいるんですか?莉愛さん」
「そういうあなたこそ、なんでここまで来たの?もう0時回った深夜なのに?」
「誰かさんがずっと寒い寒いとうるさくて」
「……ふふっ」
白いカーディガンを着た莉愛は、説明の必要がないくらい可愛い。
白金色の綺麗な髪が、夜空を舞う。
「寒い」
「…………」
「……温めて、蓮」
「……はあ、キスだけだからね?」
「やだ」
「え?」
「今夜は、ずっと一緒にいたいと言ったら……ダメ?」
………………………………………………何を言ってるんだろう、こいつは。
蓮はつい、心の声を漏らしそうになった。本当に何を言ってるんだろう。
一緒にいたい?茜さんもロバートさんも家にいる、こんな時に?
「……二人きりの時に、一緒に寝てあげるから」
「……やだ。昔はよく一緒に寝たじゃん。あなたが私の家に忍び込んできて、一緒に寝たじゃん」
「それ小学時代の話じゃんか……その後にめちゃくちゃに怒られてたの、もしかして忘れたのか?」
「……あなたが、手を握るから」
その時に、少し茶目っ気があった莉愛の表情が一気に変わる。
好きな人を前にして我慢ができなくなっている、恋する乙女の顔に。
「キスも受け止めてくれるし、ハグもするし、手も握って、足も絡めて……なんなの、今日?」
「いや、それは―――」
「ダメ、二言は許さない。責任取ってよ……私があなた好きなの、分かってるでしょ?」
「………………」
さすがに返す言葉もなかった。本当に、莉愛の言う通りなのだ。
あれは、友達の関係を維持したがっていた自分がすべき行動じゃなかった。
あれは、明らかに恋人の距離だったから。大好きな人にする……そんな行動だったから。
「……責任、必ず今日取る必要ある?」
「ある。私が被害者だから、私の言うこと聞いて」
「相変わらず我儘なんだよな~莉愛さんよ」
「……でも、あなたはいつも、私の我儘聞いてくれたじゃん」
莉愛が一歩、蓮に近づく。その一歩だけで、蓮は自分が何をされるかを察してしまう。
だけど、退かなかった。莉愛が驚くほどぐっと近寄って来たからではない。
好きな人とキスしたくない男なんて、この世に存在しないから。
単純に、それだけの話だった。
「……責任、取って」
「…………………」
そして、長い沈黙を保った後、蓮は仕方ないとばかりに笑いながら―――首を傾げる。
「今夜だけだからな?」
やや寒い秋の冷たさを追い払うように。
蓮は、莉愛に短いキスを送った。
そして当然、今の日比谷家には蓮と雅史、藍子しかいなかった。
茜たちが家にいるから、莉愛が変に日比谷家に泊まる必要がなくなるのだ。莉愛だって、家族と色々と積もる話があるだろう。
だけど、蓮には特にこれといった話題がなかった。大体、近況報告とかは毎回しているし、電話も割と頻繁にやっているからだ。
『ふふん~~頑張ってね?蓮』
『……なにを?』
『今度はちゃんとやるんだぞ~~?ははっ』
『だから、なにを!?』
何故か家に帰った途端に藍子と雅史に生暖かい言葉をかけられたが……それは無視するとして。
今の蓮は、とにかくテスト勉強に集中しようとしていた。
どこの大学に行く、という具体的な目標はないものの、最低限の勉強はしておきたかったのだ。
でも、今日莉愛にされたことを思い出すと。
「あああ……くそ、やっぱ集中できない……」
どうしても、勉強ができるような気分にはならなかった。
間近で見た莉愛の表情。唇。手を繋いだ時のドキドキに、足を絡める行為。
昔とあまりにもよく似ていて、だけど昔よりずっと鮮明で刺激的なスキンシップ。一人の女性としてちゃんと成長した……莉愛。
高校に入ったばかりの蓮には非常に刺激が強く、悶えることしかできないのである。
「………ヤバい」
結局、持っているペンを置いて蓮は部屋の天井を見上げる。目を閉じても開いても、莉愛しか見えない。
茜の言葉は蓮にちゃんと響いていた。結局、蓮もある程度は考えを改めて、莉愛の気持ちに応えなきゃいけない、と思うようになった。
そもそも、蓮も薄々気づいてはいたのだ。こんな思いを抱いたまま友達をずっと続けることなんて、できないと。
「………」
莉愛を失うかもしれないと思うと、今にも心臓がズタズタに切り裂かれそうになる。
でも、これは逃げることで解決できるような問題ではない。莉愛にちゃんと向き合って、それから―――自分が何とかしなきゃ、いけないのだ。
「本当に、莉愛が見ているあの夢が本当だったらな……」
自分たちが結婚したという未来。
それがもし本当のことだったら、どれだけ幸せなことだろう。そう思いながら苦笑していた時に、スマホの着信音が鳴る。
「……タイミングいいな、本当に」
相手は当然、莉愛だった。蓮は椅子にもたれかかったまま指を動かす。
『寝てる?』
『テス勉中』
『嘘つき、ならスマホ見るわけないじゃん』
『……どうしたの?こんな夜中に』
『会いたくて』
「…………………………は?」
返事はメッセージじゃなく、蓮の唇から放たれた。
ぼうっとしていると、またもやメッセージが飛んでくる。
『会いたい』
「………………………………」
あまりにもストレートすぎる発言に、蓮は面食らってしまう。
結局、返せる言葉は限られていた。
『うるさい。早く寝なさい』
『照れてるよね?反応が完全に照れるときの反応だけど?』
意気揚々とした絵文字まで飛ばされて、一瞬ムカッとする。
蓮は姿勢を正してから、さっきより早く文字を打っていった。
『テスト期間だから、勉強するか寝るかどちらかにした方がいいぞ。集中できないから』
『なんでこんなに冷たいの?中学の時みたいじゃん』
『深夜0時に会いたいって言われたら、誰でもこうなるのでは?』
『私、寒い』
『………………ちゃんと服着て寝たら?』
『寒い』
「……むちゃくちゃだな、こいつ」
蓮もある程度の自覚はあった。今の自分の反応はあまりにもぶっきらぼうで、愛想がないことを。
莉愛の言う通り、これは中学時代の自分が取っていた態度だ。
別れる寸前、莉愛の執着がめんどくさくなって冷たい言葉を平然と飛ばしていた、あの時の自分。
……でも、少しは成長しなきゃ。
『……そっちに行くから』
恥ずかしさを忍んでメッセージを送ると、しばらく返信が来なくなる。
莉愛のことだから、たぶん照れているか驚いているかのどっちかだろう。いや……さすがに前者か、これは。
秋用のアウターを取り出して羽織っていると、またもやスマホの着信音が鳴る。
届いた文章を確認して、蓮はぷふっと笑ってしまった。
『バカ』
「…………………………そうだよな」
深夜の0時に元カノに会いに行くなんて、さすがにどうにかしている。
そう分かっていながらも、蓮はなるべく音を立たないように注意しながら階段を下りて、さっそく家を出た。
七瀬家と日比谷家の距離はだいぶ近い。すぐ隣だから、2分もかからないうちに七瀬家が見えてくる。
そして、玄関の先に立っている莉愛も……ちゃんと視界に入ってきた。
「……………なんでここにいるんですか?莉愛さん」
「そういうあなたこそ、なんでここまで来たの?もう0時回った深夜なのに?」
「誰かさんがずっと寒い寒いとうるさくて」
「……ふふっ」
白いカーディガンを着た莉愛は、説明の必要がないくらい可愛い。
白金色の綺麗な髪が、夜空を舞う。
「寒い」
「…………」
「……温めて、蓮」
「……はあ、キスだけだからね?」
「やだ」
「え?」
「今夜は、ずっと一緒にいたいと言ったら……ダメ?」
………………………………………………何を言ってるんだろう、こいつは。
蓮はつい、心の声を漏らしそうになった。本当に何を言ってるんだろう。
一緒にいたい?茜さんもロバートさんも家にいる、こんな時に?
「……二人きりの時に、一緒に寝てあげるから」
「……やだ。昔はよく一緒に寝たじゃん。あなたが私の家に忍び込んできて、一緒に寝たじゃん」
「それ小学時代の話じゃんか……その後にめちゃくちゃに怒られてたの、もしかして忘れたのか?」
「……あなたが、手を握るから」
その時に、少し茶目っ気があった莉愛の表情が一気に変わる。
好きな人を前にして我慢ができなくなっている、恋する乙女の顔に。
「キスも受け止めてくれるし、ハグもするし、手も握って、足も絡めて……なんなの、今日?」
「いや、それは―――」
「ダメ、二言は許さない。責任取ってよ……私があなた好きなの、分かってるでしょ?」
「………………」
さすがに返す言葉もなかった。本当に、莉愛の言う通りなのだ。
あれは、友達の関係を維持したがっていた自分がすべき行動じゃなかった。
あれは、明らかに恋人の距離だったから。大好きな人にする……そんな行動だったから。
「……責任、必ず今日取る必要ある?」
「ある。私が被害者だから、私の言うこと聞いて」
「相変わらず我儘なんだよな~莉愛さんよ」
「……でも、あなたはいつも、私の我儘聞いてくれたじゃん」
莉愛が一歩、蓮に近づく。その一歩だけで、蓮は自分が何をされるかを察してしまう。
だけど、退かなかった。莉愛が驚くほどぐっと近寄って来たからではない。
好きな人とキスしたくない男なんて、この世に存在しないから。
単純に、それだけの話だった。
「……責任、取って」
「…………………」
そして、長い沈黙を保った後、蓮は仕方ないとばかりに笑いながら―――首を傾げる。
「今夜だけだからな?」
やや寒い秋の冷たさを追い払うように。
蓮は、莉愛に短いキスを送った。
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